サリム・ハルマ帝国編

第17話 砂漠の罠

リュケイアの港を出て三日目——。


ガウデリウスとイザベルは密輸船に揺られながら、水平線の彼方に広がる金色の砂漠を見つめていた。


「ついに来たわね……サリム・ハルマ帝国」


イザベルが遠くに見える砂丘を眺めながら呟く。


「王国とはまるで違う景色だな」


ガウデリウスは潮風に吹かれながら、剣の柄を軽く握った。


「ここからが本番だ」


バジルは船の舳先で腕を組みながら言った。


「砂漠を越え、叡智のアル=ザヒールへ行くには、まず“砂の門”を通る必要がある」


「砂の門?」


イザベルが聞き返す。


「帝国の国境にある巨大な関所さ。帝国の役人と傭兵が警備していて、通行許可がなければ通れない」


「それを突破する方法は?」


「……運が良ければ、商隊に紛れ込める」


「運が悪ければ?」


「捕まって奴隷市場送りだな」


バジルが軽く肩をすくめて言う。


「そんな冗談、笑えないわよ」


イザベルが険しい表情になる。


「冗談じゃないさ。ここは王国とは違う。法も秩序も、砂漠の流れ者にとっては紙切れ同然だ」


バジルの言葉に、ガウデリウスは静かに息を吐いた。


「……なら、最善の手を考えよう」


港に船が着くと、彼らは船を降り、町の市場へと向かった。


帝国の港町は活気に溢れ、香辛料や布地を売る商人の声が響き渡っていた。


「ここで商隊を探すのね?」


イザベルが市場を見回す。


「その通り。帝国の砂漠を旅するには、信頼できるガイドが必要だ」


バジルは目を細め、商人たちを観察する。


「……いたな。あの男だ」


バジルが示したのは、黒いターバンを巻いた屈強な男だった。


「アイハン。砂漠の商人にして、密輸の達人だ」


「信用できるのか?」


ガウデリウスが問いかけると、バジルは肩をすくめた。


「金さえ払えばな」


彼らはアイハンに近づき、商隊への同行を申し出た。


「砂の門を越えたい? それなりの対価を支払ってもらおう」


アイハンは鋭い目つきで彼らを見つめた。


「……いいだろう。その代わり、無事にアル=ザヒールまで運んでくれ」


ガウデリウスが金貨の袋を差し出す。


アイハンはそれを受け取ると、薄く笑った。


「取引成立だ。だが、砂漠では何が起こるかわからん。覚悟はしておけ」


その言葉が暗示するように、彼らを待ち受ける運命は、決して穏やかなものではなかった——。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

逃亡騎士 あずち @AZAZfinder22

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ