【7】 おじいちゃん!

 私の名は林愛花(まなか)。今⽇は、叔⽗で作家の林⾳⽣(ねお)と⼀緒に、おじいちゃんの家に遊びに⾏った。


 私の⽗は、おじいちゃんと絶交状態で家を⾶び出しているから、⽗と⼀緒には⾏けないのである。


 そして、⽗は叔⽗とも仲が悪い。そのせいで、私も叔⽗との交流は、以前はあまりなかった。


 でも、私が、叔⽗の主催するピア活動グループ「センチMENTALクラブ」のミーティングに、参加し始めたのをきっかけに、叔⽗とは非常に仲良くなった。


 だから、おじいちゃんの家に遊びに⾏くときは、いつも叔⽗を連れていくのである。


「おじいちゃん、こんにちは!」


「お⽗さん、こんにちは。」


「よくきたな、2⼈とも。」




 おじいちゃんは、名前は⽣男(いくお)といって、年齢は88歳。叔⽗より30歳上である。そして、私とは64歳も離れている。


 おばあちゃんは、もうだいぶ前に亡くなっていて、おじいちゃんは、今は一人暮らしである。 そんなおじいちゃんだが、長⽣きの秘訣は? と訊(き)いてみると、


「毎⽇、ちゃんと頭と体を使うことだよ。」


 と⾔う。おじいちゃんは、ほぼ毎⽇、「デイサービス」に通っていて、そこで、脳トレや筋トレなどをしているらしい。


 また、おじいちゃんは、カラオケが⼤好きで、しかもめちゃくちゃうまい。


 1度だけ、⼀緒にカラオケ喫茶に⾏って、歌を聴かせてもらったが、「しびれる」の⼀⾔に尽きる、素晴らしい歌唱⼒だった。


 その特技を活かして、ボランティアではあるが、「カラオケ教室」もやっているのだ。


 カラオケは、頭も体もフルで使うから、これが⼀番「元気のもと」になっているのだという。





 さて、久しぶりに訪れた、私と叔⽗を、おじいちゃんは⼤歓迎してくれた。


 リビングに通された私たちだったが、目の前のテーブルの上には、料理と飲み物、それからスイーツが、⼭のように盛られていた。


 おじいちゃんは、⼀⼈暮らしが⻑いので、料理の腕もなかなかのものなのだ。





 私たちは、それらをいただきながら、おじいちゃ んと会話を交わしていた。話題は、叔⽗の昔話となる。


「⾳⽣は、病気になってからというものの、遊び倒してばかりやったからなぁ。わしらはもう⼼配で⼼配で。」


「やだなぁ、お⽗さん。確かにそういう時期はありましたが、居酒屋に就職して以降は、ちゃんとまじめに働いていたじゃないですか。」


「それはそうやけど、わしらにおんぶにだっこの⽣活が⻑かったやないか。居酒屋の時なんか、家にお⾦もいれないくせに、いっつもすってんてんやったやろ。」


「まぁ、それを⾔われましたら、返す⾔葉はありませんけど……。」


 私は、黙って2⼈の会話に⽿を傾けていた。私の知らない叔⽗の姿が、次々に暴露(ばくろ)されていく。


 すると、おじいちゃんが、私に……。


「愛花、叔⽗さんみたいになったらあかんで。はよ、ひとり⽴ちして、はよ結婚して、わしにひ孫の顔を⾒させてや。」


「もう! おじいちゃん! 独り⽴ちはわかったけど、結婚のことはほっといてよ! まだ彼⽒もいないんだから。」


「そっか、そっか、おじいちゃんが悪かった。ま、はよせい⾔うたけど、病気のこともあるしな。無理せん程度にな。」


「うん、ありがと!」





 その後も、おじいちゃんによる、叔⽗の昔話の暴露は続いた。なんでも、叔⽗は、昔は⼊院を、何度も繰り返していたらしい。


 ⼊院費はかなり⾼額なので、おじいちゃんは、毎回そのやりくりに苦労したみたい。


「ほんま、わしが結構稼(かせ)いでいたから、よかったようなものの。


 まぁ、最後に⼊院してから、嘘のように《⼊院病》がピタっと⽌まって、⼀応、それなりに働くようになったからよかったけどな。」


「《⼊院病》はないんじゃないですかぁ。まぁ、あながち外れてはいませんけどね。」


 すると、おじいちゃんは、私の⽅に向かって、


「そういえば、愛花は、全然⼊院せんなぁ。⾳⽣とはえらい違いや。根性が違うんかねぇ。」


「あら、そういうことではないと思うわ。叔⽗さんの時と⽐べたら、医療がずっと発達しているから。叔⽗さんの時代にはなかった治療法とかもあるのよ。」


「そうなんや。」


「うん。例えば、私が受けてきた《認知行動療法》なんかがそうね。」


 すると、叔⽗が、


「ああ、僕もそれは、最後の⼊院の時に、初めて受けたよ。確かに、画期的な治療法だったね。


 僕がそれ以来、⼊院せずに済んでいるのは、⼀つにはそのおかげかもしれないね。」


「でしょう? ほかにも《ソーシャル・スキル・トレーニング》とか、いろいろあるのよ。昔は《薬物療法》ぐらいしかなかったって聞いてるわ。」


 おじいちゃんは、


「はぁ、おじいちゃんには、なんちゃら療法とか、ちんぷんかんぷんやわ。


 でも、医療が進んでいるというのは、おじいちゃ んも痛感しているなぁ。おじいちゃんの通っている《デイサービス》なんてものも、昔はなかったはずやからねぇ。」


「そうね。まぁ、だから、私は、別に特別、根性があるわけではないのよ。たまたま、いい治療法に巡り合えているだけね。」





 そんな話をしているうちに、時間はあっという間に過ぎ、私たちはそろそろお暇(いとま)することにした。


「2⼈とも、またいつでもおいでや。⼟産話、いっぱい聞かせてちょうだいや。」


「うん、また来るわね。」


「また、来ます、お⽗さん。」


 おじいちゃんには、これからも⻑⽣きしてほしいわね。次、会う時までに彼⽒ができて、彼⽒を連れて⾏ったら、おじいちゃん、喜ぶかしらね。



  



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復刻版06「だから、それでも僕は生きていく」~7つのこころの迷路と、それぞれの現在地~ 林音生(はやしねお) @Neoyan0624

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