雛人形たちの秘密
平 遊
信じる/信じないは貴方次第
K大学には、ふしぎ現象同好会、なるものが存在する。メンバーは二十数人。ただし、専ら飲み食い専門のゆるいサークルで、これといって活動をしているわけではない。ただ、不思議な現象に多少なりとも興味がある人がメンバーとして名を連ねている。それだけだ。
だがそんな中、たった2人だけ、熱心に不思議な現象を追い求めているメンバーがいた。
ひとりは、
もうひとりは、
1年生の文乃と陽汰は、ただ集まって飲み食いしながら、使い古された七不思議や都市伝説を聞くだけではモノ足らず、自らを「ふしぎハンター」と名乗って、不思議な現象を集めて回っている。
「なぁ文乃、ちょっと面白い話が聞けるかもしれないんだけど、行かね?」
3月3日、ひな祭り当日。
講義終わりに、陽汰はそう文乃に声をかけた。
「ん〜? どんな?」
文乃は、スマホを弄りながら気のない返事を返す。
「姉ちゃんの友達なんだけどさ、雛人形の」
「首が取れたとか、目が光ったとか、血の涙を流したとか、そんなやつでしょ、どうせ」
「ばーか、違うよ」
ニヤリと笑い、陽汰は文乃のカバンを手に持つ。
「ちょっと!」
「ほら、行くぞ」
「あたしはまだ行くなんて言ってないっ!」
「いいからいいから」
カバンを取り返そうとする文乃をひらりと躱すと、陽汰はさっさと教室を出て行く。
「もうっ!」
怒りながらも、文乃も陽汰を追いかけて教室を出た。
「あら、ほんとに来たのねぇ」
文乃と陽汰を可笑しそうに笑いながら出迎えたのは、
「はい! もちろんです! 俺たちふしぎハンターですから!」
誇らしげに胸を張る陽汰を呆れたように見ながら、文乃はリビングに飾られた立派な雛飾りに目をやった。五段飾りだ。文乃の家にも雛飾りはあったが、マンション住まいのためか、飾られているのはお内裏様とお雛様だけだ。周りの友人達も似たりよったりで、実際に自宅に飾られている五段の雛飾りを目にしたのは、これが初めてだった。
「気になる?」
「え?」
どうぞ、と椅子を勧めて紅茶を淹れながら、真由が言った。
「これから私がお話する、主役たちのこと」
「主役……たち?」
「俺も気になります! ん〜、うまい!」
出されたケーキを頬張りながら、陽汰も興味津々な目を雛飾りへと向ける。
今時は、ひな祭りと言えばケーキのようだ。ケーキには、カラフルなひなあられがポイントのように飾り付けられている。
「じゃあ、さっそく話すわね」
ニッコリと笑い、真由も雛飾りに目を向けながら話し始めた。
※※※※※※※※※※
この雛飾りはね、私が小さい頃に父方の祖父母が買ってくれたものなの。小さい頃からずっと、毎年母が飾ってくれてたわ。
あれは小学校5年の時だった。
夜中におトイレに行きたくなって目が覚めたのよ。ちょうど母が、雛飾り飾ってくれた日でね。それでね、ふと思いついて私、おトイレから戻りがてら、雛飾りを見に行ったの。
そうしたら……
飾られていたはずのお人形たちが、全員段から降りて床の上に集まっていたのよ!
何してるのかなってそうっと覗いてみたら……
今年は誰がお内裏様とお雛様になるかって、揉めてたのよ!
お人形もやっぱり、主役になりたいのね。でもどうやって決めるのかしらって見ていたら、下の段に飾られてる箪笥の引き出しから小さな貝殻を取り出して、貝合わせ? みたいなことをし始めてね。結局その年は、五人囃子のひとりがお内裏様と入れ替わって、三人官女のひとりがお雛様と入れ替わることになったみたいだったわ。実際に入れ替わるところまでは、見ていないのだけど。
信じられないでしょ?
もちろん、私も夢を見たんだって、思ったわ!
だからね、次の年、私は試してみたの。お雛様の飾り付けの時に私もお手伝いしがてら、お内裏様とお雛様の手に、マジックで小さな印を付けたのよ。そうしたら……
ひな祭りの日に見たお内裏様にもお雛様にも、印はついていなくて。
印がついていたのは、右大臣と三人官女のひとりだったの。
次の年も、その次の年も、印が付いたお人形は、いつも違う格好をしていたわ。お人形も、ずーっと同じ役ばかりじゃ飽きちゃうのね、きっと。
※※※※※※※※※※
「へぇ……なんか、ふしぎっすねぇ」
「もっと他に感想無いの?」
ありきたりな言葉を口にする陽汰をジト目で見ながら、文乃は真由に尋ねる。
「でも、いくら顔は似たような感じても、それぞれの人形って、髪型も着物も違うじゃないですか。一体どうやって」
「そうねぇ、私もそれは考えたことあったんだけどね」
ほんの一瞬顔を強張らせたように見えたが、直後にふふふと笑いながら、真由が答える。
「お人形たちにはお人形たちの世界があるでしょ? いくら何でも、そこまで覗き見しちゃ悪いかなと思って。だから、もう覗かないことにしたのよ」
「そうですか……」
とても納得したようには見えない文乃は、「近くで見ていいですか?」と真由に了承を得ると、雛飾りへと近づいた。そして、真由が人形の手に付けたという印を探す。
「あった」
文乃が見つけたのは、三人官女のひとり。そっと持ち上げ、文乃は呟いた。
「私だったら、どんな風に入れ替わってるのか、徹底的に調べちゃうけどな」
とたん。
人形の目がギロリと文乃を睨んだ――気がした。
「きゃっ!」
思わず放り投げた人形を、すぐ後ろにいた陽汰がキャッチする。
「あっ……ぶねぇなぁ! なにしてんだよ、文乃!」
幸い真由は空いたケーキ皿とカップをキッチンに下げていて、見てはいない。
「いや、睨んだよ、それ! 私のこと、睨んだ!」
「いやいや、何言ってんの、文乃。今回の話は、そーゆーホラー系じゃないから」
鼻で笑いながら、陽汰は手にした人形を元の位置へと戻す。
それでもなお、人形からの視線が感じられるようで、文乃は急いで雛飾りから離れると、真由へのお礼もそこそこに、早々に椿家を後にしたのだった。
「なぁ、どう思った?」
「なにが?」
「さっきの真由さんの話だよ」
「どうって……」
帰り道。
新たに仕入れたふしぎ話にご満悦の陽汰に、文乃は口ごもった。ふしぎ話は好きだがホラーは苦手な文乃。人形に睨まれたような気がしたあの瞬間走った背筋がゾクリとする感覚を思い出し、文乃は小さく頭を振る。
「まぁ、面白い話、ではあったわね。貝合わせでお内裏様役とお雛様役を決める人形なんて」
「でもさ、せっかくだから、髪型とか着物とかどうやって変えるかも見てみねぇか?」
「陽汰のエッチ」
「は?」
「レディの着替えを見たいなんて、信じらんない」
フンと顔を背け、文乃は陽汰の提案を却下する。
「ばっ、バカ、別に俺そんなつもりじゃ……」
所詮人形だろ、まったく。などと呟く陽汰を無視して、文乃は考えていた。なぜ、真由がこれ以上人形たちの秘密を覗こうとしなかったのかを。
「なぁ、俺別にそんなつもりじゃねぇからな!」
「はいはいわかった」
顔を赤くして抗議する陽汰を適当にあしらいながら、文乃はこう結論づけたのだった。
(あんなこと言ってたけど、真由さんもきっと、人形たちに牽制されたんだ。これ以上は探るなと。だから……)
【終】
雛人形たちの秘密 平 遊 @taira_yuu
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