読心キャットはダイブする

Akira Clementi

第1話

 猫を飼い始めた。

 ノルウェージャンフォレストキャットという大型猫だ。成人はしているけれど小柄な私は、抱くのも一苦労である。けれどもとんでもなくモフモフしていて、めちゃくちゃ気持ちいい。


 名前はナトリ。私はなとりのチーズ鱈を思い浮かべ、三つ上の姉はアーティストのなとりを思い浮かべた。誰か塩のナトリウムを連想する人がいたら、完璧だったかもしれない。


 でも名前の由来は分からない。


 ナトリを飼っていた親戚の萌絵姉さんは、事故で亡くなってしまったから。


 萌絵姉さんの実家は猫アレルギーがいて、ナトリを引き取れなかったのだ。そんなわけで、たくさん可愛がってもらった私と姉がナトリを引き取ることにした。


 マンション住まいの我が家に来たナトリが気に入ったのは、リビングのすぐ横にある小さな和室だ。特に使っていなかったから、私たちはそこにケージやキャットタワーなど大型家具を揃えた。


 のんびり屋のナトリとのまったりとした時間が流れ、季節が巡り、梅や桃といった可憐な花が咲く頃。

 ひな祭りが近づく我が家では、いつものように豪華な七段飾りのひな人形を出した。姉が生まれたとき、初孫に興奮したおじいちゃんたちが買ってくれたものだ。しまい込むのも申し訳ないので毎年ちゃんと飾っている。

 でもこれが本当に大きいのだ。狭い和室の三分の一を占拠するほどで、特に和室がナトリのものになった今は、正直「邪魔だなあ」という感想が先に出る。


 そんな私の心を読んだのだろうか。

 飾りつけの終わった雛壇に向かい、ナトリがキャットタワーのてっぺんからダイブした。


 モフモフとした巨体のダイブはもはや神々しくもあり、『ナトリの降臨』とタイトルをつけたいほどの美しさで。


 ナトリが五人囃子を蹴散らし、豪快に着地を決めた瞬間。

 メキョッと破壊的な音がして、雛壇の真ん中がくぼんだ。ナトリアタックを受け止めきれなかった雛壇が崩壊していく。


 宙を舞う人形、崩れる雛壇、見ていることしかできない私たちと、そそくさと逃げていくナトリ。


 この事件がきっかけで、我が家は七段飾りのひな人形から解放された。

 我が家の呪いを蹴散らしたナトリ様は、今日も和室のキャットタワーでまったり丸くなっている。

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