ひなまつり(替え歌ver)

星見守灯也(ほしみもとや)

ひなまつり(替え歌ver)

 大きな爆発音とともに、五人囃子が吹っ飛んだ。目の前にはもうもうとたちのぼる噴煙。散らばる楽器、倒れる桜と橘。逃げ惑う三人官女が悲鳴をあげているようだが、鼓膜が痺れて音がよく聞こえない。土煙が落ち着いた頃、俺は気づく。――お雛様がいない!?


「くっ……なにが……」


 見回せば、怯えて酒器を放り出し、すみに縮こまっている三人官女がいた。その下、五人囃子は跡形もなく飛び散っていた。そして、隣にいたはずのお雛様がいない。屏風にぼんぼり、玉台だけを残して、どこにもいない。


「爆破された……?」


 覗きこめば、そのさらに下、赤ら顔の青年、右大臣が、老人に弓を向けていた。老人は太刀を手に、降り注ぐ矢を切り飛ばす。雨のように矢が飛んだが、太刀が振るわれるたびに落とされ、老人こと左大臣までは届かない。さすがは左大臣、随身ずいじんとして見事な動きだ。しかし、それより先に気がかりなことがある。


「右大臣! なにをやっている!?」


 しかし矢の勢いはおとろえない。太刀を振るっていた左大臣は、急に苦しげにうめくと倒れてしまった。右大臣は射るのをやめ、左大臣に近づくと蹴り飛ばし、段飾りの外へと追いやった。俺は大声で叫んだ。


「裏切ったのか! 右大臣!」

「はい。左大臣に毒を盛ったのも、五人囃子に爆弾を仕掛けたのも私です」

「毒だと!?」

「三人官女の提子に毒の花を入れました」


 赤い顔で右大臣は俺に弓を向ける。俺はとっさにしゃくで矢を叩き落とした。すぐさま太刀を抜き、右大臣の段まで駆け降りる。一閃するその前に、そこにあった箪笥たんす長持ながもちが飛んできた。慌ててかわした先に、落ちて来た大きな牛車が前を塞いだ。


「くそ!」


 曲がったかんむりをなおす暇もなく、俺は牛車を乗り越えて周囲をうかがった。右大臣はどこだ。重箱の裏に三人が隠れている。隠れているつもりなのだろうがはみ出していた。


仕丁しちょう! 右大臣はどこに行った!?」


 三人の仕丁はそれぞれ泣き、笑い、怒りながら首を横に振る。重箱のなかか、駕籠かごの中か……。


「ん? 駕籠?」


 見れば駕籠が揺れている。ははあ、右大臣はあそこに逃げ込んだのに違いない。俺は息を殺して、駕籠に近づく。そっと引き戸を開けると――。


「お雛様!?」

「あ、あら、お内裏様……」


 お雛様は慌てて檜扇ひおうぎで口元を隠して笑った。


「なぜここに……」

「それは、爆発があったので逃げ込んだのです」


 そう言うお雛様の細い指先に、ひなあられの粉がついていた。俺は檜扇をつかんでお雛様の顔を見る。口元に、ひなあられや菱餅の粉がついていた。


「菱餅もひなあられも独り占めしようと思ったのですね!?」

「ふ、バレちゃあしょうがない……」


 お雛様は駕籠から出て、手をあげてみせた。すると先ほど乗り越えた箪笥と長持が起き上がる。鏡台に針箱、挟箱、火鉢に台子と上に積み重なり、巨大な合体ロボへと変形した。


「いけ、雛ロボ! お内裏様を倒すのだ!」






「んー……」


 雛飾りを出している途中でうとうととしてしまったようだ。後ろでは子供が雛人形を手に、お人形遊びをしている。ままごとというより、ぶつけあって戦わせているようだ。細い指や小物が壊れてしまうと困るので止めようとする。


 子供はひなまつりの歌の替え歌を歌っていた。


 おまえのせいか。

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ひなまつり(替え歌ver) 星見守灯也(ほしみもとや) @hoshimi_motoya

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