お内裏様の早とちり
啄木鳥
お雛様誘拐事件……?
時計の針が三時を回っている頃。
「……これより、我が妻お雛を誘拐したと思われる容疑者八名の取り調べを行う」
とある一軒家の一室で雛人形の一つであるお
「まず、三人官女、入れ」
「いや、もうすでにお内裏様の下にいるのですが……」
お内裏様に控えめにツッコミを入れたのは、雛壇の二段目に座っている三人官女の一人。
お内裏様はそれを誤魔化そうと一つ咳ばらいをし、話を始める。
「三人官女、お前たちは以前、お雛が大事にしていた嫁入り道具の一つである
「え?ええ、まあ……、まさか、それがきっかけで私たちが今回お雛様を誘拐したと疑っておられるのですか?」
「ああ、そうだ」
お内裏様の自信たっぷりといった様子の返事を聞いて、思わずため息を吐く三人官女たち。
「あのですね、まずそれって三年前の話ですよ?」
「それに、結局は人間がどこかに無くしただけの話でしたし」
「あの後、お雛様も私たちに謝ってくださいましたし、恨んだり憎んだりというのは全くございません」
「……そ、そうなのか」
三人官女に完璧に論破されたお内裏様。
予想が見事に外れたお内裏様は肩を落とすが、すぐに気を取り直して次の容疑者達を呼ぶ。
「次に五人囃子、入れ」
「いやだからお内裏様のすぐ下にいますって。それ気に入ってるんすか?」
五人囃子の一人から鋭いツッコミを受けたお内裏様は、図星だったのか少し顔を赤くする。
そして、またそれを誤魔化すかのように咳ばらいをして話を続ける。
「五人囃子、お前たちは夜中に人間たちにばれるかばれないかギリギリを攻めた音量で楽器の演奏をしてお雛に叱られたのではないか?」
これまた自信満々といった表情で五人囃子の動機を推理するお内裏様。
それを聞き、五人囃子は全員で反論する。
「いや、まさかそれが俺たちがお雛様を誘拐した動機とか思ってるんすか?」
「まず、それ二年前の話だし」
「俺たちはそこまで気にしてないっすよ」
「それに、お雛様も普通にノリノリで『もっと音量上げなさい!』とか言ってたし」
「ああ、立場上一応一回叱ってきましたけど、その後普通に俺たちの演奏に合わせて歌ってたっすね」
「……お雛の奴、俺が寝てるときそんなことしてたのか」
全然知らなかったらしく、驚きやら戸惑いといった感情が入り混じった複雑な表情をするお内裏様。
「……あの、これって普通に考えたら人間がしたことですよね?」
三人官女の一人が少し言いにくそうに発言する。
「えっ…………確かに」
少し考えてすぐに納得してしまうお内裏様。
その後、しばらく間を空けてから小さな声でみんなに向かって謝る。
「……あの、その、疑ってすまなかった」
その謝罪に対し、三人官女も五人囃子も気にしてないと伝えた。
それからほどなくして、人間に着物を新しくしてもらったお雛様が帰ってきた。
三人官女や五人囃子からこの話を聞いたお雛様は大層笑い、お内裏様はしばらく雛壇のみんなからからかわれ、その度に顔を真っ赤にして照れたそうな。
めでたしめでたし。
お内裏様の早とちり 啄木鳥 @syou0917
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