初ボウリング
太郎に連れられて来たのはボウリング場と呼ばれる遊戯施設だ。
ボウリングを知らないという僕へ、たまには体を動かそうとしつこく誘って来た太郎に、確かに姉であるマリーベルを追いかけてこの世界に来てから運動らしい運動はしていなかったなと、鈍りがちな自分の体を顧みて今回は誘いに乗った。
以前の世界では幼少期から貴族男子の嗜みとして剣術の鍛錬をやらされていた。
僕自身も体を目一杯動かすのは嫌いではなかったため、剣術鍛錬は楽しみでもあった。
だが、この世界に身を守るための剣術は必要なく、生活に慣れるために時間を割いていれば自然と鍛錬の時間は失われてしまっていた。
「ここで、受付して靴も履き替えるんだよ」
太郎に言われるまま、専用シューズに履き替えて耳に煩いホールを進む。
「あ、ここだね」
太郎が足を止めた場所は通路から数段、階段を降りベンチと長いレーンがあった。
太郎はそそくさとベンチの中央に座りパネルを操作して顔を上げ上部にある大きな液晶モニターを指差した。
そこに表が表示されて僕と太郎の名前が書かれている。
「ボールを選びに行こう」
太郎に手を引かれて通路に戻れば穴の空いた重い球体が並んでいる。
「ここで自分に合うボールを選ぶんだ」
そう言って太郎が手にしたのはかなり軽いボール。
「ああやって投げるから重すぎると肩や指なんかを痛めちゃうんだ」
周囲を見渡して「なるほど」と頷く。
構えてから助走をつけてボールを転がし奥に立つピンを弾く。
単純だが確かにボールの重量は慎重に選ぶべきだなと納得する。
恐らくボールが重いほどピンはたくさん倒せるが、重すぎればコントロールが難しくなる。
暫く観察していれば倒れなかったピンが離れて立っているのをボールを上手くコントロールしながらカーブを描きピンを倒しているのが見えた。
「ふむ、ならこの辺りか」
僕は適当に当たりをつけてボールを手に自分たちに割り振られたレーンに戻った。
最初は太郎からと太郎がボールに指を差し込みレーンに向かう。
構えからゆっくり助走をつけ……そこで僕は溜息を吐いた。
「助走出来てないじゃないか」
トテトテと小走りをしてぶんっと勢いよく投げたボールがガンッと床に当たりヨロヨロと頼りない軌道を描いてピンに当たる寸前で外側の溝に落ちた。
「あちゃあ」
ガーターだぁと頭を抱える太郎がボールがガコンッと戻って来たのを待ってもう一度投げる。
なんとか転がったボールは端の二本を倒して太郎の番が終わった。
いよいよ僕の番だ。
ボールを手に開始位置へ向かう。
レーンに立つとなるほど、独特の緊張感は喧騒が背後にあるせいかと頷く。
悪くない緊張を感じながらボールの穴に指を入れて構える。
ゆっくり一歩ずつは少し大きめに取りながら助走を付けて後ろに振ったボールを重さと遠心力に任せてレーンに転がすように投げる。
真っ直ぐに進んだボールはピンの中央を小気味良い音を立てて突き抜けた。
「おおっ」
背後に太郎の気の抜ける声を聞きながら僕は小さく舌打ちをした。
真ん中を突き抜けたボールは姿を消して、残ったピンは両脇二本。
かなり離れて立っている。
「スプリットになっちゃったねえ」
ヘラリと笑う太郎が少しばかり忌々しい。
僕は開始位置に戻り顎に手を当てて考える。
カーブをさせても離れたピンには届かない。
ならどうするか、弾いたピンを当てるのが一番考えられる手だろう。
なら何処に当てるか、いや先程と同じように投げれば当たったピンは後ろに飛ぶ。
そうか、ならボールに回転を加えて……。
頭の中であれこれとシュミレーションして僕はボールを構えた。
投げたボールは狙い通りにピンの一つに当たり離れたピンへ向かい弾かれた。
しかし僅かにズレた軌道に離れたピンが倒れることはなく無情にも僕の番が終わったとばかりに上から降りて来た装置に全て払われて新しくピンが立ち並んだ。
これは確かに面白いと僕の口角が知らずに上がる。
単純に見えるルールだが、実際にはかなり考えることも多い。
ただ力任せに投げれば良いというものですらない。
半ば渋々太郎の誘いに乗ったが、存外これは当たりだったなと僕は太郎と交代にベンチに座った。
異世界追放令嬢なら僕の隣で飯食ってるよ 桜月七(旧 竜胆) @rindorituka
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