俺たちのひな祭り

空本 青大

バースデー祭り

日向ひなた、誕生日おめでとう!」

日向ひなた先輩おめでとうございます!」


今俺の部屋で幼馴染の寛治かんじと中学からの後輩・はやしの二人が祝いの言葉を自分に向けていた。


そう本日三月三日は俺の十七歳の誕生日。


二人がわざわざ俺のために誕生日会を開いてくれたのだ。


「いや~サンキューな祝ってくれて」


照れつつ俺は素直な気持ちを2人に述べた。


「いいってことよ、なぁ林?」

「そうっすよ!いつも先輩にはお世話になってるんで!今日は寛治先輩と自分でいろいろ用意したんで楽しんでください!」


そう言うと林は、足元にあったカバンから何かを取り出し、俺たち三人が座りながら囲っているちゃぶ台の上に置いて見せた。


「さぁ今日はパーッとやりましょう!」


そこには瓶に入った甘酒、緑・白・赤色の菱餅にひなあられ、タッパーに入れられたちらし寿司だった。


「どうよ日向?豪華だろぉ?いっぱい食べろよぉ」

「あれ?日向先輩なんでそんな真顔になってるっすか?」


俺は縦にしたにぎり拳を勢いよくちゃぶ台にたたきつける。


「これひな祭りじゃねぇか‼」


俺の怒声にシーンと空気が静まり静寂が広がる。


日向ひなた、誕生日おめでとう!」

日向ひなた先輩おめでとうございます!」

「いやTake2してんじゃねぇよ!答えろや!」


寛治は軽く息を吐き、まっすぐに俺を見据えた。


「三月三日はひな祭りであり、お前の誕生日じゃん?だからまとめて祝おうかなって」

「誕生日だけでいいじゃん‼俺たちひな祭り関係ないじゃん‼女の子のお祭りじゃん‼」


寛治の不可解な答えに俺は再び声を荒げる。


「男にはよぉ、女の子になりたいときがあんのよ。なぁ林?」

「っす!」

「巻き込むんじゃねぇよ!共感できねぇよその感情!」


憤る俺を余所に林は紙コップを取り出し、甘酒を注ぎ三人のもとに置いた。


「始めましょうバースデーひな祭り!」

「勝手にコラボさせないで?」

「まぁいいじゃねぇかクリスマスに誕生日やるもんだと思えば」

「祝われるほうからしたらあんまりうれしくないやつだぞ」


俺は目の前に置かれた甘酒が入ったカップを手に取り、グイッと飲み干し息を整えた。


「はぁ……というかこのまま強行するつもりか?」

「うん!それにしてもやっぱお雛様ひなさまがいないとちょっとひな感薄いな」

「なんだよひな感って。人形持ってくりゃあいいじゃん」

「家で飾ってるから無理無理。本日の主役であるおまえがお内裏様だいりさまの代理様を務めてくれ」

「でも名前的に日向先輩がお雛様サイドでは?」

「それもそうだな。よし日向、十二単じゅうにひとえ着とく?」

「ふざけんなや」

「ていうかやっぱ女の子用意しとけば良かったか。すまんな」

「女の子に迷惑だからやめてくれ」

「ふむ、それじゃあ予定した通り、林頼めるか?」

「うす!ちょっと準備してくるっす!」


寛治に言われ立ち上がった林はカバンを持って部屋からそそくさと出て行った。


「ん?何する気だ?」

「さてね☆」


俺の問いに軽快なウィンクを返され、イラっとした気持ちをグッと抑え込んだ。



五分後――


コンコン


ドアをノックする音が部屋に鳴り響く。


「どうぞ~」


寛治が答えるとドアが開かれそこにいたのは……


「こんにちは~お雛だよ~♪」


紺色ブレザーとチェックのミニスカ、ウェーブがかかったロングヘア―の女子高生の姿があった。


「だ、誰⁉」

「そりゃあ林だろ」

「ま、まじ⁉」


狼狽える俺を余所に女装した林が俺の右横に座る。


「どうっすか?先輩♪」


傍から見たら完全に女子にしか見えない。

しかもだいぶ可愛いときたもんだ。

思わずゴクリと喉が鳴ってしまう。


「なんで女子高生⁉」

「いやーうちに十二単無かったんで、代わりに姉ちゃんの制服着てウィッグ付けてみました!」

「代わりになるほど共通点なにもないが⁉そもそも女装する必要性ある?」

「いやーやっぱりお内裏様とお雛様はひな祭りに不可欠ですからねぇ。でも自分ら仲良い女子いないから自分が代打ってことで勘弁してください」


そう言うと林は俺の右腕に抱きついてきた。


内裏だいり~ん♡(桃の)節句しよ?」

「内裏をダーリンみたいに言うな!あと桃の節句をセ○クスみたいに言うな‼」


理性が壊されそうになった俺は思わず林を突き飛ばす。


「いったぁ~い、ひどいっすよ~」


床に転がった林の制服が着崩れ、お腹やらスカートの中が見えそうになった。


「俺で遊んでじゃねーよ!まったく……」

「文句言いながらなんでスマホで林を連射撮影してんだ日向?」


―――――――

―――――

―――


十分後、ようやく気持ちを落ち着けた俺は目の前に寛治と林を正座させた。


「もうさ普通でいいんだよ普通で」

「すまん、ひな祭りに浮かれちまってさ」

「っす……すんませんっす」


うなだれる二人の姿に胸のあたりがチクッと痛む。


「まぁ寛治も林も俺のこと想ってやってくれてるのは伝わってるよ。一旦ひな祭りは置いといて誕生日を楽しもーぜ?」

「ひな祭りに引っ張られて大切なことを忘れてたわ。今日は日向の誕生日だもんな。ちゃんと祝わないとな」

「そこは忘れちゃダメだろ」

「じゃあ改めて寛治先輩と自分でお祝いの歌を歌わせていただきます!」


そういうと林は菱餅にろうそくを一本立ててチャッカマンで火をつける。


(そこはケーキじゃないのか)


ツッコみたかったが、そういう空気じゃなかったため俺はグッと飲み込んだ。


パンパンと二人が手のひらを叩き、リズムを取り始める。


「「あかりをつけましょ ろうそくに~

 おはなをあげましょ バラのはな~

 寛治と林の     いわいうた~

 きょうはたのしい~ たんじょうび~」」


「「誕生日おめでと~」」

「……」


俺はふぅと息を吹きかけ、ろうそくの灯を消す。

そして満面の笑顔で二人に言葉を告げる。


「ひな祭りじゃねぇか‼」



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺たちのひな祭り 空本 青大 @Soramoto_Aohiro

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画