はじめてのひなまつり

一陽吉

娘の反応

 今日は三月三日。


 つまり、ひなまつりだ。


 しかし今年はただのひなまつりじゃない。


 俺にとって人生初のひなまつりだ。


 何せ兄弟は俺も含めて四人いるが字のごとく男だけで構成されているから、ひなまつりをする理由がなかった。


 だから、ひなまつりというのは映像のなかだけのもであり、なんとなく春を感じる言葉でしかなかった。


 だが、そんな俺も成人し、法面工事現場作業員として職に就いて、思いがけない出会いから同い年の子と結婚。


 独立してアパートを借りて住むようになってから生まれた子が娘ということで、ようやく我が家でひなまつりをすることになった。


 とはいっても雛段飾りをするほど、スペースにも経済的にも余裕がないから、男雛と女雛の内裏雛だけのものを飾っている。


 ──お。


 ママとともに今日の主役がパジャマ姿のまま起き出してきたな。


 まだ眠たそうに右手でまぶたをこすっているが大丈夫そうだ。

 さっそく見せてやろう。


「おはよう、長閑のどか。あれが何か分かるかい?」


「?」


 何だろう、という感じで誘導された方向、テレビ横にある棚の上にある内裏雛を見る我が娘。


「……」


 じっと見たまま黙ってるな。


 着物の人形が珍しいと思っているようだ。


「それはねえ、おひなさまって言うんだ」


「男の子と女の子のお人形さんなのよ」


 俺とママが言うと、長閑はそのまま小さく頷いた。


「分かった、のかな?」


「たぶんね」


 ママと顔を見合わせて言っていると、長閑がこちらへ振り向いた。



 ニヤ~~。



 なんだ、その意味ありげな笑い顔は。


 すると長閑はまた内裏雛の方を向いた。


「あのおもしろい笑顔は何を意味してるんだ?」


「さあ、何かしら」


 初めて見せる長閑の笑顔に、俺もママも愉快に感じながらその様子を見守る。


 およそ三分ほど内裏雛を見つめていると、長閑が再びこちらへ振り向いた。



 ニヤ~~。



 いや、本当に、なんだその笑い顔。


「おもしろくていいけど、いったいどういう心情なんだ」


「あ、もしかして男雛と女雛が男の子と女の子ということで、私たちを連想したんじゃない?」


「そう言われればそうかもしれないけど、だからといってあの顔にはならないんじゃないか」


「前に男の子と女の子の人形があって、後ろにパパとママがいる。それが長閑のなかではおもしろいんじゃない?」


「なるほどな。子どもである本人だけが感じる笑いのツボってことか。それなら納得だ」



 ニヤ~~。



 ふふ。


 何度、見てもおもしろい。


 この顔を見れただけでも内裏雛を飾ったかいがあった。


 ひなまつり、やっぱり良いな。

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