【KAC20251ひなまつり】
オカン🐷
行き遅れるから
「ママ、これでいい?」
「あら、ナナちゃん、きれいにしまえたわね」
「エへへ」
米国在住のルナの家に唯一ある8畳の和室に箱が並べられた。
廊下側にある襖が開けられた。
「ママ、それってもう終わる?」
「おにいたん、チュリッパ」
「あっ、いけね」
隼人は慌てて廊下に飛び出して、スリッパを脱いで畳の上に足を乗せた。
「ハヤト、サッカーボールを畳の上でつかないで」
「ちゅかないでくだちゃい」
「ああ、ごめん。この部屋だけ日本みたいだ」
「ニッポン?」
茶室にも使われる部屋でナナまでもが正座している。
「あとはボビーに台を解体してもらったらおしまいだけど、どうかした?」
「このサッカーボール使い過ぎてツルツルなんだ」
隼人は畳の上でボールをバウンドさせた。
「だから、それ、やめて」
「やめてくだちゃい」
「あっ、つい、ごめんなさい」
ルナとナナは眉間に皺を寄せて同じ表情をした。
「手伝う?」
正座をして箱に手を伸ばしかけた隼人。
「汚い手で触ったらダメ」
「だめでちゅ」
「ごめんなさい、手を洗って来ます」
隼人はボールを抱えて慌てて部屋を飛び出して行った。
「もう、隼人ったら何なんでしょうね」
「「なんなんでちょうね」
「ナナたん、お疲れ様でした」
「おちゅかれちゃまでちた」
二人が立ち上がろうとすると襖が開けられた。
「おお、もう片付いたか?」
カズとボビーが入って来て、ひな壇を解体し始めた。
「うちの学生たちが雛人形を見たいって言うんだ。ナナちょっと貸してもらえるかな?」
「パパのかっこうのひとにみちぇるの?」
「うん、見たことないから見たいって」
「いいよ。みちぇてあげゆ」
「そうか、ありがとうナナ」
カズはナナの頭を撫でながら顔を綻ばせた。
「ボビー、この箱を車に運んでくれ」
「ウヘエ、これ、みいんな?」
「みいんなだ。僕も運ぶから」
それからひと月ほどして、お雛さんはやっと帰って来た。
車に運ばれた雛人形は大学には飾るスペースがないということで、一度も車から降ろされることがなかった。
「カズさん、ナナたんが早くお嫁に行かないように、わざとお雛さんをゆっくりとしまう作戦だったのかもしれないけど、愛媛では旧節句の4月3日に雛祭りするのですってよ」
「えっ」
【了】
【KAC20251ひなまつり】 オカン🐷 @magarikado
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