民俗学的な視点を使い、巧みに「怖さ」、「不気味さ」を描き出してくれる作品でした。
本作では一人の娘を育てている母親が主人公として描かれます。しかし、彼女には「ひなまつり」に関して、とある不気味な記憶がある。
果たして、かつて経験したと思っているものは単なる夢だったのか。そして、既に終わったものと考えられるのか。
ひなまつり。それは華やかなイメージを持つイベント。でもその一方で「穢れ」を人形に肩代わりさせて水に流すという、民俗学的な側面も持っている。
この世界には「穢れ」とか「吉凶」みたいな、「目には見えない力や法則」が存在している。昔の人々はそういうものを強く意識して生活していたが、現代ではそうした観念が忘れられてしまっている。
本作は最初にそんな事実を思い起こさせてくれます。
そういう「大きな力」がひそかに存在し、そういうものに無自覚な中で「日常」というものが営まれている。
無自覚なだけで、たしかに存在している「絶対な法則」。そういうものの前では、人々の営む日常なんてたやすく壊れもするし翻弄もされる。
本作はそうした「危うさ」が描き出され、何とも言えない不穏なヴィジョンが提示されます。
果たして、本編の主人公である母子の未来はどうなるのか。全てが夢のようだったと看過できるか。
そんな想像をありありと刺激されました。