KAC20251 ヒマな釣り

菊武

第1話

 ヒマな釣り。ひな祭りをもじったこの企画。3月3日に開催されるそのイベントは全国から数々の猛者が集まる釣り好きのイベントだ。


 競うのは勿論釣った魚のサイズ。

しかしお題にある通りヒマな釣りだけあって禁止事項が設定されている。


 釣りエサは勿論の事、疑似餌ルアーも禁止されている。

 認められるのは1本の釣竿と糸と重り、それと普通の釣り針だけだ。


 え?釣れる訳がない?


 それはそうだ。なんせヒマな釣りなのだから。


 しかし、ヒマな釣りの筈なのに男達は真剣だ。

 必死に針を落としては巻き上げる。それを何度も繰り返している。

 何故そんな事をするのか?

 それはそれが唯一の釣れる可能性だから。


 口にかかる必要は無い。尾でも背でもようは針が刺さり陸に揚げれば釣った事になるのだ。


 だから男達はヒマな釣りをせずに豪華賞品を目指して必死に入れては上げてを繰り返しているのだ。

 そんな様子を余裕で眺める男が1人。


 「はっはっは!甘い甘い!そんな事で魚がとれる訳がない。」


 男はひときわ大きな声でそう言った。


 周りはそんな男に何か秘策でもあるのかと男の方を見た。

 すると男はおもむろに服を脱ぎ始める。


 「ちょ!?あんた何を考えているんだ?」


 冬の厳しさも幾らかは和らいだとは言えまだ3月始め。気温もまだまだ低い。


 「黙って見ていろ!とお!」


 男は海に飛び込んだ。


 「認められている道具は竿に重りに針のみ。だが、肉体を使うことは禁止されていない!この日の為に鍛えた技をとくと見ろ!」


 そう叫ぶと男は海中へと潜る。


 そんな男の様子を陸から眺める釣り人達。


 しばらくして男が海面に顔を出した。そして高々と右手を上げる。


 「おお!」


 男の手にはビチビチと生きも良く動く魚がしっかりと捕らえられていた。


 「どうだ!素手で魚を捕らえるこの技を!」


 「おおー!」


 それを見ていた釣り人達からは拍手喝采だ。


 そこへ騒ぎを聞きつけやって来た大会関係者が。


 「どうだ。」


 海の中の男がそう言った。


 「おお、凄いね。けど、早く上がりなよ。寒いだろ?」


 「いや、もう少しサイズアップを狙う。優勝を確実にする為にもな。」


 「うん?大会参加者なのかい?」


 「そうだ。」


 「うーん、凄いんだけどね。君のそれは認められない。」


 「何故だ!?」


 「だって釣ってないんだもの。」

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