私立同衾学園高等部直伝、ひなまつり式性転換技法

越山あきよし

第1話

 私立同衾どうきん学園高等部。

 俺が通う高校は元女子校で、ひなまつりには独特の行事がある。

 ひなまつりは本来、親族が集まってお祝いする行事だが、この学校では当日を学校で過ごす。

「まずは着物に着替えましょう。みなさん準備はよろしくて」

「ええ」

「問題なくってよ」

「始めましょう」

 着物は入学してから約1年かけ、各自で手作りする。

 面倒ではあったが、俺もそれをした。

 当日、持ってくるのが大変、忘れたら困る、といった理由から作成から完成まで学校に置いておく決まりになっている。

 保管場所に取りに行く。

「あれ?」

 30人いるクラスで男子は俺ひとり。

 女子が群がる中に自分の着物を取る勇気はない。

 そのため、俺は全員が取り終わるのを待ってから着物を取ろうとするも、そこには女物の着物しかなかった。

「誰か、俺のと間違って取ってたり……しないよな?」

 男の着物と女の着物では見た目の色使いからなにまで違う。

 それを間違って取るなんて考えづらい。

 一応はクラスの女子が手に持つ着物を目視で確認してみるも、俺のはなさそうだ。

「そちらにあるのを着ればよろしいかと思います」

「そうですわ」

「誰も気にしませんわよ」

「それでは着替えてしまいましょう」

 まだ俺が部屋にいるにも構わず、着替えを始めてしまう。

 体育の授業前もそうだった。

 クラスの女子は俺を男として見ていないらしい。

 慌てて着物を持って部屋の外に出る。

 着替え場所を探すべく移動する。

 あてはない。

 どういうわけか、この学校には更衣室も、トイレも、女子用しかない。

 使用する時は大変、気を使う。

「どうしたの?」

 声をかけてきたのは幼馴染だった。

 幼稚園から今まで同じ学校に通っている。

 彼女がいるからこの高校を選んだと言っていいだろう。

「いや……どこで着替えようかと思って……」

「なら、私と一緒に更衣室に行く?」

「誰か使ってるんじゃない?」

「大丈夫だよ。使われているところほとんど見たことないし。とりあえず行ってみよう」

「そうだね」

 このまま行き場なく、うろうろしていても仕方がないため、彼女の提案を受け入れる。

「着付けするの手伝うからさ。私が着るのも手伝ってよ」

「それは別の人に頼んでよ」

「いいじゃん別に。どうせ今晩には……ううん、なんでもない」

 今晩、なにがあるのだろう。

 学校に泊まるとは聞いているけど、それ以上のことはなにも知らない。

 幼馴染の彼女に着付けてもらい、夕食を摂る。

 献立はひなまつりの定番なものばかりで、ちらし寿司、甘酒、ひなあられ、菱餅だった。

 食事の際、教室の隅に飾られていたひな壇には違和感があった。

 男雛がいるはずの場所に女雛がいる。

 女雛2体が隣り合ってる状態だ。

 俺が指摘するも、誰もそれを変だと思っていない風だった。

 問題はここから。

 クラス全員が教室で寝るらしい。

 さすがにそれはどうかと思い、教室から出ていこうとすると抑えられてしまった。

 29対1。

 さすがに数で敵わない。

 気づけば教室中に布団が敷き詰められていた。

 急な眠気に襲われる。

 普通ではない眠気だ。

 察するに食事に睡眠薬でも入っていたのだろう。

 そのまま寝てしまう。


 朝になると不思議なことが起きていた。

 昨日まで確かに股の間にあったはずのものはなく、代わりに穴が増えていた。

 双丘は男ではありえない膨らみをみせている。

 これではまるで女だ。

「どうしたの?」

 幼馴染の彼女が問う。

 俺が着替える場所を探している時に声をかけてくれた時と同じように。

「いや、体が変なんだ」

「なにも変じゃないよ」

 彼女は知っていたのだろう。

 この学校の秘密を。

 そして知っていて俺を誘った。

「ここはそういう学校だもん」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私立同衾学園高等部直伝、ひなまつり式性転換技法 越山あきよし @koshiyama

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ