ひなまつりの攻防

野森ちえこ

イベント発生

「負けないから」


 私が生まれたときに祖母が買ってくれたという親王飾りのおひなさま。とてもやさしい顔をしたお人形で小さなころからずっと大切にしてきた。

 しかしこのおひなさま。ちょっと不思議なことがある。


 ◇


 私の家ではいつも節分がおわるタイミングでひな人形をだしていた。片づけるのはひなまつりの翌日から数日。遅くとも一週間以内には片づけていたから、飾られているのはだいたい一か月くらいか。

 しかし私に恋人や好きな人がいるとき、どういうわけかその一か月のあいだに物理的に引きはなされる別離イベントが発生する。毎回、必ずだ。


 最初はたぶん小学校五年生のとき。片想いしていた男の子が転校した。

 つぎは中学二年生。告白されてつきあった男の子がやはり転校。しばらくはメッセージや電話でやりとりしていたものの、いくらがんばっても中学生が会いにいける距離ではなかったこともあって最終的に自然消滅となった。

 高校生のときにつきあっていたバイト先の先輩は海外留学に旅立ち、大学生のときの彼は自分探しの旅に出た。冗談みたいだけれどほんとうの話である。

 そのすべてが二月から三月の一か月に起こっていると気がついたのは大学時代の彼と別れたときだった。

 もっとも、季節がら引っ越しや移動が多くなる時期でもあるし、きっとたまたまだろうとさして気にしなかったのだが。


 社会人二年目に恋人ができたとき、まさかねと思いながらその年はひな人形をださないよう母に頼んだ。

 結果、別離イベントは発生しなかったのだけれど、彼は三月三日のひなまつり当日に急性虫垂炎(いわゆる盲腸)で入院したのである。

 ……いやそんなまさか、偶然だよね?

 そうは思ったものの万が一という可能性を捨てきれず、翌年は例年通り節分の翌日にしっかり飾りつけた。そうしたら急な辞令により彼は転勤となった。

 ただいま絶賛遠恋中である。


 もはや偶然では片づけられないような気がする。

 交際三年目の今年。

 さらなる別離イベントが発生するのか、それとも——。

 お手やわらかにといいたいところではあるが。


「負けないから」


 彼からのプロポーズを受けたのは昨年のクリスマス。

 おひなさまの妨害になんか、負けてたまるか。


     (おしまい)


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ひなまつりの攻防 野森ちえこ @nono_chie

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