悪役令嬢×百合×ARPG転生を、軽妙な一人称と堅実な設計で牽引する快作である。魔王城の冒頭で「バフ…じゃなくて」とメタに滑り込む掴みが巧い。
見どころは“痛み”の実在感だ。魔王の自爆瘴気から聖女オーリスタを庇う場面、黒い氷の寒気が骨に刺さり、昏睡明けに空白の106日が突きつけられる展開が鮮烈である。
論功行賞の玉座の間では、黒い礼服と純白の礼服の対比の中、「生涯の伴侶」宣言が炸裂。ざわめき、重臣と教会の視線、国王の慎重な“持ち帰り”まで会話の球筋が明快だ。
続く制度設計パートも骨太。枢機卿との密談で課税・司法権の欲求を見抜き、合議裁判と税の公益再配分を提示して物語を「統治」へ広げる。
決定打は関係性の倫理である。聖女の力を回収すると主人公の手に黒い霜、預け直すと五感が戻る——「彼女がいないと1週間しか保てない」条件が恋を責任へ格上げする。
恋と政治、医療と呪術が一体化する設計が見事。先の駆け引きと“共生”の行方まで、強く追いかけたくなる一篇だ。
追伸
僕は、ゲイも百合も苦手です。世の中の傾向と逆行しているのは自覚していますが、中々慣れません。ですから、百合の話には触れず、それ以外のレビューしか出来ていません。許してね。
ナーロッパ風の男性中心の貴族社会で百合の女性が"周囲に認められる幸せな結婚"をするために奮闘する物語。
結婚とは何かと改めて考えさせられます。
本人達が愛し合ってれば良い!
そんなわけない。周囲が認めなければ、幸せな結婚とは言えない。
制度なんて関係ない!
そんなわけない。制度がないと結婚とは認められない。
子供なんていらない!
そんなわけない。貴族社会で跡継ぎ問題を抜きに結婚なんて出来ない。
それらの問題を社会的に、倫理的に、利益を産む構造で認めさせてこそ、初めて"周囲に認められる幸せな結婚"になるんだと、最後まで貫き通されてます。
そして裏の抜け道というか、たまに手段の取り口がエグい。それだけあの世界観の同性婚とは難しいものだったんだろうなと頭を抱えます。
制度の仕組みを説明する文章もスラスラ読めて、頭に入りやすく、ちょうど良い分量で完結までダレることなく、しっかり楽しめます。
作者様の技量を非常に感じる作品でした。
中世ヨーロッパ風の世界観を舞台に、乙女ゲームの悪役令嬢として転生した主人公ヴィアンシアが、聖女オーリスタとの関係を通じて困難を乗り越える物語。魔王討伐後、呪いによって特別な状況に陥ったヴィアンシアが、オーリスタから婚姻を提案されるところから物語は動き出します。
中世ヨーロッパ的な倫理観が支配する社会で同性婚を成立させるという挑戦的なテーマが光る本作。史実では中世ヨーロッパにおいて同性愛は厳しく罰せられ、同性婚など想像すらできない時代。結婚は男女間の契約と定義され、子孫を残すことが最重要視されていました。同様の背景の中で、この物語は同性婚を実現するために政治的駆け引きや宗教的正当化を巧みに利用し、現実的な解決策を模索します。
主人公ヴィアンシアは冷静で知性的なキャラクターでありながら、自分の感情には不器用な一面があります。彼女がオーリスタとの関係や社会的障壁に向き合いながら成長していく姿は読者の共感を誘います。聖女オーリスタは情熱的かつ積極的な性格で、その育った環境から独特の価値観を持っています。彼女の行動力と献身的な姿勢が物語を大きく動かし、ヴィアンシアとの関係をより深いものにしています。
「精神的な愛」と「肉体的な役割」を分離して描いている点も、中世ヨーロッパ風の価値観と現代的視点の融合であり、本作の非常にユニークなアイディアです。「奇跡の子」という設定を用いて教会の承認を得るプロセスが、中世社会における政治的駆け引きとして非常に巧妙です。
愛の多様性について真正面から向き合い、深く掘り下げた本作は、同時に政治や宗教が個人の人生にどのように影響を与えるかという問題も提起しており、多くの考察の余地を与えてくれます。ヴィアンシアとオーリスタが直面した試練や葛藤は、現代社会にも通じる普遍的なテーマを扱っています。
中世ヨーロッパ風ファンタジーという舞台設定の中で、多様なテーマと優れたキャラクター描写によって深みとリアリティを持つ作品。「愛とは何か」「社会規範と個人の幸福のバランス」について問いかけるこの物語に、一度は触れてみてもらいたいと思います。