わたし、いま神さまの途中だから!

渡貫とゐち

彼女のLand


 ――どうやら、あたしは『神様』になったらしい。


 レモン牛乳色の部屋着のまま。

 十七歳半ばを越えた彼女が降り立ったのは、周りが海に囲まれた平らな島だった。

 裸足で歩くには地面に生えた草は少なく、砂利が足の裏を突き刺す。

 鋭利な角のせいでツボ押し健康器具の数倍も痛い。


 つま先立ちのまま砂利の少ない部分を選んで前に進むと、真上から細長いものが落ちてきた。銀に似た色をしている老木から切り出されたような二メートルはあるだろう杖――が、地面に突き刺さっていた。

 まるで勇者の剣のように。

 注目の光が、それに集まっている。


 自分の身長よりも高い杖を握ると、不思議と使い慣れた道具のように手に馴染む。

 彼女は力を入れたわけではなかったが、杖に意思があるように自然と地面から抜けた。

 軽い。持ったまま山を登っても体に負担はかけないだろう。


「……招待されて、素直にきてみて引き抜いてはみたものの……一体なんなの?」


 杖を引き抜いても、特になにかが起こるわけではなかったのだ。



 帆中ほなか結花千ゆかちは現役の女子高生だ。

 先輩がいて、後輩もいて、入学したての慣れていない初々しさを経て、受験生ではないので勉強に集中する必要もない――、最も自由だと思われる真ん中の学年を謳歌している。


 そんな彼女が早めの帰宅途中で見つけたのは、ラブレターに見える白い封筒に入っていた招待状だ。

 赤色のシールを剥がして中身を読む。この時、彼女には『他人のものなのだから勝手に見てはいけない』などというブレーキは一切なかった。

 シールを剥がして内容に目を通すまで、悩みも躊躇もしなかった。


「ま、手紙に宛名も送り主もないしね」


 表を見た後に、裏面へひっくり返す。


 この画像を見たら三日以内に三人へ送らなければ呪われる、と言った遊びと似たようなものかもしれないと思っていた。

 この手紙が不特定多数の者へ宛てたイタズラである可能性の方が高い、と決めつけていたのもある。

 結局、中身は思っていた通りに、イタズラだ。


「神様募集中」という大きなフォントの下には、三行ほどで『目を通したあなたがもしも志願したいのであれば、今日の夜、枕の下にこの手紙を挟んで眠ってください』と書かれていた。


「くだらないなぁ……、中学生の時ならやってたと思うけど、あたし、もう高校生だし」


 いーらない、と。

 手紙を封筒に戻してブレザーのポケットにしまい込んだ。


 で、結局——、



「なにも起こらないならそれでいいし、失敗しても成功しても損がないなら、やらないのもなんかもったいないなー、的なね!」



 誰に言うわけでもなく独りで言い訳をしながら。

 家に帰ってからずっとちらちらと目線をやって気になっていた封筒を枕の下に挟む。

 そろそろ日付が変わる頃——、

 時計の短針と長針が重なる時間だ。


 布団に入り目を瞑ると、あっという間に意識が沈んでいく……。


 だからこれは夢なのだろう、と。

 五感のリアルな感覚に――あれっ? と思いながらも、結花千はそう納得することにした。



 先端がフックになっている杖を手に入れたものの、なにも起きる気配がないので自分で散策しようと思った。

 しかし、逆さまのプリンのようになにもない島を散策しても、地上になにもないのは分かり切っている。端から端まで一応歩いてみたが、想像通りだった。

 分かったことは、とにかく距離が長いということだ。

 見た感じはサッカーのコートくらいに思えるが、実際に進んでみるともっと遠い。

 今更、最初の位置に戻りたくもなかった。


「海があるけど……あ、あっちにも同じような島がある」


 結花千はもう一つの島を見つけた。

 一つを見つけると連鎖的に他の島も……姿は小さいが確認できる。

 今のところ四つを見つけられたが、泳いで向かうには遠いだろう。

 しかし、この島よりも島っぽい姿に見える四つの島には足を運んでみたかった。


 移動手段が欲しい。

 その前に、部屋着のままのこの服装をなんとかしたい。


「神様……、だったよね、確か」

 結花千はこの島……

 この世界の神様だと、そう聞いている。

「神様って、世界を『創造』できるんだよね?」


 もしかしたら、と彼女は握っている杖をちらっと見る。

 試しに地面を、杖の先でとんとんと叩き――「崩れて」と呟いてみる。

 と、逆さまのプリンのようだった島の大地が、崩れた。

 太陽光に照らされた地下の空洞には、透き通った鉱石がいくつも見える。


「……クリスタル、かな。下に降りたいけど、意外と高いような……、よし」


 階段を作って、と杖を振って命令すると。

 地下空洞の地面がせり上がり、下へ繋がる階段になった。


 地下空洞へ下りた結花千は、見えるクリスタルを岩から取ろうとするが、固く引っ付いているためにびくともしない。


「うん、もうだいたい分かったよ」


 杖をクリスタルに当て、取れろ、と命じる。

 次の瞬間には、ごろんと落下するクリスタルが見えた。

 輝くクリスタルを手に持ち、ふふふっ、と思わず笑みがこぼれる。


「命令一つでなんでもできる……これが、神様の力……っ!」


 快感を覚えた結花千は、頬が緩んだまますぐさま次の行動へ移す。

 やりたいことが山積みであり、しかもやりたいことが次から次へと増えるために、結花千の動きは止まらない。


 作業は夜通しおこなわれ、島と島の間に橋を架け――終わったところで、警告音が鳴り響いた。

 第二の島は森があったので、木材を使ってウッドハウスでも作ろうかと考えていたのだが、杖がうんともすんとも言わなくなったのだ。


「あれ? なんで?」


 彼女の服装は汚れてもいいように緑色の作業着に変わっている。

 杖を振ったり擦ったり、水に浸けてみたり、調子の悪いテレビを直すように叩いてみたりとあらゆる手を使ってみたが、さっきまでの万能な杖には戻ってくれなかった。

 電池が切れたように、杖はただの杖でしかなくなった。

 重さが変わっていないのは幸いだろう。


「もしかして使い過ぎちゃったのかな……。神様にも限界があるってこと? うーん……」


 森の中で立ち尽くす。

 第一の島の地下空洞には屋根があるので、休息の場にしている。朝になれば夜にもなる、天気も変わる。一度、にわか雨が降った時は地下空洞で雨宿りをしていた。


 島それぞれに特徴があり、栽培できるものが違う。

 自分の島で作れないものは当然、別の島から取り入れるしかない――



 そのため、島から島へ移動する商船がこの世界には多い。


 同時に、移動中の商船を狙う盗賊が増えるようになった。

 彼らは後に、海賊と呼ばれるようになる。


 貧困な生活を強いられている者たちは、ほとんどが海賊になっていた。

 今では海賊の数が商船よりも多くなり、問題になっている――――



 それを取り締まっているのが、神様となって慣れてきた結花千であった。



 海賊たちに奪われてばかりでは島民は生活に困り死んでしまう。死んでしまえば、商船も機能しなくなり、海賊は奪う対象を失くしてしまう――そう、生きることができなくなってしまう。


 逆さまになったプリンのような島から始まった神様生活。

 ……せっかく発展したこの世界が滅びてしまうのは、神様としての怠慢だ。


「ふっ、あたしの出番かな!」



 そして、今日も神様は杖を振り回し世界を管理するのだ。




 …プロモーション、終

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わたし、いま神さまの途中だから! 渡貫とゐち @josho

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