最終話 箱庭?という名のおにあまの聖地を巡礼する。
電車を乗り継いである地方に着いた。
それはかくある書籍でも舞台になった場所。神奈川県横浜市。
その七里ヶ浜の海岸縁に、俺と美女は立っていた、
「この七里ヶ浜の見える場所にある学校が舞台のラブコメなんです」
「ああ」
知っている。親が再婚する前の向こうの娘、つまりは李菜が通っていた小学校がその、七里ヶ浜の見える場所なのだから。
――お願い。小学校だけは卒業させて。せっかく出来た友達から離れたくないの。
まるで早熟を絵に描いたような少女だった、李菜でも親を困らせる駄々を捏ねるのだと思った。
――駄目よ。李菜。東京へ引っ越しをするの。あなただけ置いておくわけには………
そんな駄々を簡単に否定した義母に、少し苛立った。
李奈は捨てられた子猫のように大人しくなった。それにも腹が立った。
お前はもっと子供らしくいろよ。
「父さん。俺、高校からは李奈と一緒に生活するわ。ちょうど高校は七里ヶ浜の海が見える場所にしたかったし」
李奈が目を丸くした。父は俺の言葉を簡単に否定した。
「お前はまだ子供だ。そんな奴に大事な妻の娘を任せられるわけないだろう」
……なんだよ、こんなときばかりガキ扱いしてきやがって。
「ちゃんとバイトもする。それに、もう十六はガキじゃない。立派な大人だ」
こうして李奈との共同生活が始まった。初めはよそよそしかった李奈だったが、俺がコンビニで頑張って生活費を稼ぐ姿を見て、楽しげに学校での話をしてくれるようになった。
「実はね、第二巻のあとがきで、オレンジ先生の初恋のことが書かれているの」
「へ、へえ」
「絶対に付き合うことが許されていない相手だけど、それでもいいの。陰から相手の恋路にちょっかいをかけていれば、それだけで自分は満たされるからって」
俺は少し驚いて後ずさりしてしまう。
あいつ、やっぱりそうか。
「でも、願うことならキスぐらいなら恋の神様も目をつむってくれるんじゃないかって」
「なあ、俺、帰るわ。ちょっと用事が出来た」
「はい」美女は笑みを零した。
「なあ、最後に君の名前を教えてくれないか?」
「エリカです」
俺は駆けだした。
自宅に戻ると妹がパソコンに向かい合っていた。そんな妹の肩を掴み、振り向かせる。
「ど、どうしたんですか。お兄ちゃん……」
「前のホテルの件の詫びだ。願い事ひとつ叶えてやる」
「じゃあ……キスしてほしいです」
「……」
「ははっ、黙らないでよお兄ちゃん。ちょっとしたジョークだよ。笑って、よっ、うっ」
俺は妹に口付けをした。
「お兄ちゃん。切ないです」
「お前の小説のあとがき、知ったからな」
「そうですか。へへっ、うれしいです」」
了
ラノベ作家の妹に溺愛されすぎる、国語教師の兄。「自分には婚約者がいるんだぞ! 妹よ!」 彼方夢(性別男) @oonisi0615
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