(自称)世紀の海賊グラス・ローダウンのへっぽこ夢航海戦記〜ブラックキャットは鼻で笑う〜
蠱毒 暦
無題 君は『詐欺師』で、私は『悟り探偵』
金を溜め込んでいる連中から、言葉巧みに金品を巻き上げ、停滞していた金を解き放つ。
それが俺の日常。変わる事もない生き様だ。
そんな俺にも実は娘みたいな奴がいた。なんて言えば、信じるだろうか?いやないな。
詐欺師の言葉をまともに信じる奴なんて、頭のネジが取れてるイカレ野郎か、それとも……
……
…
——思い出したくもないし、思い出すつもりもなかった7年前の七夕。
俺は妹が死んだ原因となった新興宗教や、それに加担した同業者諸共、詐欺でぶっ潰して、こうなってしまった全ての元凶である両親を拳銃で撃ち殺した。
その結果、教主が経営していた孤児院は借金塗れ。対して俺は、その溜め込んでいた資金と同業者共の端金で懐が暖かくなった。
——たった1つの問題を残して。
「はい。これで娘さんの銀行の口座登録は完了しました。ご苦労様です。」
「いやぁ〜ありがとう。いかんせん、自分でやった事がなくてね。私が小さかった頃は代理人の人がやってくれたんだ。」
同業者も俺も詐欺師であり、犯罪者。常に自分の利益の事だけを考え、相手を手駒に取り、利用出来そうな時に使い…やれそうなら潰す。
——そうしなければ、とてもじゃないが、この業界では生きていけない。
(ま。心の底からザマぁだったがな。今でも鮮明に思い出せるぜ。)
銀行でやるべき事は済ませた。後は【零落園】に行って…確か、アイツがいるんだったな。
……
…
「うぇ『詐欺師』!?何でいるんだよ。」
【零落園】の本部は毎日場所が変わる…といえば聞こえはいいが、実際は『自由人』の気まぐれだ。
俺は今、スマホで『自由人』から今日の場所を聞いて嫌々、新幹線に乗って栃木県にある戦場ヶ原にやって来ている…場所とかは、俺の嘘かもしれんが。
「…暇そうだね。『黒猫』」
「ああ見ての通り絶賛、暇だよ!?いいよな。お前達は自由に動き回れて。この場所、結構綺麗でいいけど、流石に1日中いるのは飽きるよ。だって、何もないんだもん!?!?」
「虫なら、ほら…沢山いるよ?」
「いやいやいや、流石にカウント外だろ!?僕は虫とは会話出来ない。奴らは反射的に生きてるんだから。」
俺はイジるのに満足して、ここに来た目的を話すと、さっきまで自らの不遇さに激昂していた『黒猫』は、神妙な顔つきになった。
「…つまり【零落園】に新たなメンバーを加入させたいって事でいいのか?」
「ああ。『自由人』からの了承は得ている。だから、お前に会いに来るタイミングで【零落園】についてのレクチャーしてやってくれ。」
「はいはい成程な。確かにそれは僕の役目だな…って、何でそれを先に言わない!?さっきまでの下り必要だったか!?!?!?」
「誰も来なくて、いつも1人で寂しそうだったから…余計な事をしたかな?」
「それは…いやぁ。まあ、ほんのちょっぴり、というか、大さじ3くらい…うっ、嬉しいというか…」
ブツブツと呟くのを聞かず、用事が済んだ俺は戦場ヶ原(嘘かもしれんが)を後にして、元いた町…娘がいる孤児院へ向かった。
……
銀行口座の開設。【零落園】への加入。一見、共通点がないように見えるが、その全てがあの娘に関連している事だった。
「おかえり。私が【零落園】に加入出来たみたいで安心したよ。私の銀行口座とか、何から何までご苦労様。」
住んでいた痕跡を全て処分し終えた俺は、急いで孤児院から出ようとしていたが、その声を聞くと、足が止まり自然と振り返る。
ボサボサなのは置いておくとして、白と黒の長いまだら髪が地毛なんて奴は、日本中を探しても、ただ1人しかいないだろう。
そう…コイツこそが残っていた問題。すぐさま、有り金使って俺が日本からトンズラできなかった理由。
俺にとっての…因縁の相手。というのは当然嘘だが、少なくとも、娘は俺の事をそんな風に思ってるだろうな。
車椅子に座り、右腕と両足が付け根からないのは…一時的な借金返済の為に、俺が仲介役となって売り飛ばしたからだが…一応、誤解されたくないので明言しておくが、ちゃんと娘も了承している。
……それでもまだまだ残っているがな。
「ふん。案外、パチンコに行っていただけかもしれな……」
「ここから去るのだろう?」
薄い青色の瞳が、俺を射抜くように見つめていた。
そう…俺は、娘から別れる為だけに、こうして金にもならん無益な時間を費やしていた訳だ。理由なんて…考えれば分かるだろう。
「私は君に対して、いい印象は持たないが、助けられたのは事実だ。だから、別れの言葉くらいは言わせて欲しい。」
小5のガキの癖して、物理的に自分の体や臓器を売る事にまるで躊躇いがなかったり、様々な難事件に挑み、数秒で犯人を看破して来たのを、助手として…仮初の親として隣で見て来た俺だからこそ…
あらゆる人物を少しでも視たり、聞いたり、知ったりするだけで、その人物の全てを理解してしまうその才能。否、特異性が…気持ち悪い。
——要は、俺と娘では、住む世界が違うのだ。
妹みたいに、俺が頑張って守るとかする必要がないくらいに娘は強くて……いや。
第一、『探偵』と『詐欺師』…考えるまでもない。敵対する事はあっても、決して交わる事はないのだから。
俺は娘…『探偵』は『探偵』でも、全てを見透かす嫌われ者で、探偵界隈でも悪名轟く『悟り探偵』に背を向けた。
「…もう2度と会う事はない。あばよ『悟り探偵』。精々その後天的な才能で、俺が作り出した膨大な借金返済に勤しむんだな。」
「君は私にとって、家族を殺した憎むべき相手だが、同時にいい教訓も得られた。いずれまた再会するその時までは…さよならだ。」
「はっ…冗談じゃない。」
俺は負け惜しみ気味に吐き捨てて、孤児院を後にする。さて…これで家族ごっこはお終いだ。
これでいい……あのまま、茶番劇を続けていても俺達はどの道、破綻していただろうから。
☆
…物凄く癪だが。
誰にも聞こえないように小さく呟き、スッキリした俺は改めて前を向く。
(俺の残った有り金は、孤児院の借金の返済で見事に消し飛んだからな。)
他人に同情なんてするものじゃないってのが改めて分かったから、今回はよしとしよう。授業料としてくれてやる。
さあて。今日を生き残る為に、どの組織を騙し、懐柔して、上手く金を拝借しようかな?
……
…
誰かに体を揺らされて、俺は目を開ける。どうやら船旅の途中で懐かしい…陳腐な悪夢を見ていたようだ。
「ねえ…そろそろ起きなさいよ。」
「わぁぁ〜島、島が見えるよ!!!」
訳あって行動を共にしている2人の少女の声に内心、顔を顰めながら俺は窓から『悟り探偵』とその助手が監禁されているであろう島を眺めていると、不意にスマホが鳴り…俺は通話ボタンを押した。
『ほら。昔に私が言った通りになっただろう?』
俺は万が一にも、この話が出て来た時の為に用意していた言葉を返した。
「そうかよ。生憎。お前が、涙声で別れの言葉を口にしてたくらいしか記憶はない。」
『悟り探偵』が黙ってから…数分後。
『い、いくら私でも、そんな過去の記憶は覚えていない…だから。いつもの嘘…嘘だよね?』
「俺が今の助手にその情報を無料でバラす前に過去の自分でも、推理しておくんだな。」
『待っ、』
明らかに狼狽する『悟り探偵』の声を聞いて若干、ほくそ笑みながらスマホの通話を切った。
了
(自称)世紀の海賊グラス・ローダウンのへっぽこ夢航海戦記〜ブラックキャットは鼻で笑う〜 蠱毒 暦 @yamayama18
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