M&M

あるまん

「ワザとだろ」

「え」


 ……指導室の机の前に立つ、担任の松沢の怒った様な、呆れた様な低い声を聴き、反対側の椅子に座った生徒、陸乃まりは惚けた様な声で聞き返す。


「バツバツバツバツ、全部バツ。此処迄見事な饗宴は教師やって来て初めてだ」

「あ、でもまっつー、上にでっかく〇印が……」

「これはゼロだ、ばかもん! 後まっつーはやめろ!」


 思わず声を上げる松沢。高校二年、一学期末テスト。しかもよりによって自分の担当教科のテストである。答案用紙に見事なまでに並んだチェックマーク、此処迄揃うともはや芸術だ。


「でも先生、海外ではチェックマークって、正解の意味なんだよ。そう考えればあーしのテスト、満点じゃん?」

「此処は日本国、N県R市の市立東R高等学校だ。そんな雑学を知ってるのならこれ位の問題、余裕だった筈だよな?」

「ワタシニホンゴ、ワカラナイデゴワス」

「せめて語尾はそうデースとかそうアルとかにしろ! 西郷どんか! 其れにこれは数学のテストだ!」

「oh……シット!」


 漫才の様な掛け合いをする二人。普段は生真面目だが割と乗りの良い松沢と、クラスの陽キャ集団の中心人物でいつも明るいギャルのまり。学校行事等にも積極的に参加し、クラス内の調和も取って虐めらしい事も無かった。特に問題行動も起こしていなかった筈だが……。


「今回のテスト、ムズカシカタヨ……帰国子女のあーしには難しかったでありんす」

「キャラは統一しろっ! 其れにお前は幼稚園からずっとこの街だろっ!」

「やだぁまっつー、若しかしてストーカー? 駄目だよギリ20代だとしても、未成年とのエンコ―はタイーホ案件だし」

「誰がだっ! 職員室の横で不穏な発言するんじゃないっ!」


 何時の間にか呼称もまっつーに戻っている。松沢の親がこの街の幼稚園の園長をしていて、まりは其処の園児だった。ついでに松沢とまりは幼馴染と迄は言わないが家が近く、御互いの顔は昔から知っている。


「あまり怒ると、園長先生の様に禿げるよ♪」

「やめろっ! 心配してるんだから不安にさせるなっ!……いい加減話を戻すぞ、何故わざと0点を取った?」

「だから帰国子女で、ニホンゴワカラナ」

「これはマークシート式のテストだっ! 選択問題も結構あるのに全ての回答で、正解の右横を塗り潰すとか出来るかっ!」

「おお、流石は明智君っ、見事私のトリックを見破った様だねっ!」

「誰が明智君だっ! とにかく追試は免れないし、此の侭だと夏休みも補習補習で……」


 因みに松沢はどちらかというと金田一耕助に似ている。



 ……まりはゆっくり立ち上がり、松沢を上目使いで見てくる。


「……だって、まっつー、最近全然構ってくれないんだもん……あーしがいい点数とっても褒めてくれないしさ……いっつもお馬鹿なエリカとミホばっか構っちゃって……あーし、寂しいんだから……」


 ……まりの顔が松沢の顔に近付く。


「ねっ、まっつー……シても、いいよね?」


 ……そして唇と唇が……


 ……


 むぎゅ


「……お前のそういう色仕掛けはもう慣れた」


 松沢はそういって、まりの鼻を指でつまんだ。


「ひっ、ひっろ~い!たいばつらああああっ! こにょぼうりょくきょうし~!! キョーイクイインカイにうったえてやりゅううううう!!」

「はいはい、追試の後でな……担当の先生は俺の様に優しくないぞ、頑張れよっ!」

「え、まっつーじゃないんっ?」

「因みに補習になれば、先生たちと蒸し風呂の様な教室で缶詰だ。良かったな、ぷにった腹がダイエット出来るかもだぞっ! 因みに俺はゆっくり湘南でサーフィン三昧だ」

「やだやだー! ずるいー!! 放蕩教師―!! あーしも行くー!! 後ぷにって言うなぁ~!」


 ……


 この後行われた追試で、まりは0点だったのが嘘の様な高得点で補習を免れた。そして夏休み、意気揚々と松沢の自宅へ押し寄せるが……


「……この時期の教師が、湘南なぞ行ける訳ないだろっ!」

「えええええ~~~~~!!!!!」


……玄関先でバタバタとごねるまり。其れを見かねて松沢は、しぶしぶ市民プールへと付き合うのだった。

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M&M あるまん @aruman00

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