静かな泉に銀貨が落ちる――それだけの場面から、こんなにも深く心に残る物語が生まれるとは思いませんでした。
『銀貨を沈めた娘と、泉に住む天使と悪霊の話』は、「願いとは何か」「人を導くとはどういうことか」、そして「与える側の心の揺れ」にまで丁寧に触れた、静かで美しいファンタジーです。
泉に住む精霊たちは、どこか神話の登場人物のようでありながら、人間のような繊細な感情も抱いていて、とくに“悪霊”の心の変化には胸を打たれました。
願いを叶えるという行為の重さを、甘く美化せずに誠実に描いているところが、この作品の魅力です。誰しも、心の泉に銀貨を沈めたことがあるのでは――そんな思いを誘う、美しい寓話です。
あるところに ふしぎないけがありました
そこは ぎんかを一まいなげいれてねがいごとをすると どんなねがいごともかなうという ふしぎないいつたえがあるいけでした
あるひ ひとりのむすめがぎんかをなげいれて ひとつのおねがいをしました
ところで いけのそこにはてんしとあくりょうがすんでいました
ぎんかにこめられたねがいをかなえていたのは じつはかれらだったのです
そんな、童話で書かれていてもおかしくないような短編ファンタジーです。
天使と悪霊。
彼らはどうやって願いを叶えるのでしょう。
そして少女の願いは叶ったのか?
短編ながら奥が深い作品です。
ご一読ください。
貨幣を落とすと、願いをかなえてくれる泉。
そこには正に向かう願いをかなえる天使と負へ向かう願いをかなえる悪霊がいました。
しかしこの存在たちの名前と性格は合致したものではないのです。
天使は自身の感情を挟まずに効率的に願いをかなえます。請われたら施す機械のようです。
一方の悪霊は、自身の感情を持て余しつつ気まぐれに冷笑をもって願いをかなえます。
そして天使の役割に不穏な感情を抱えてもいます。
〝願いなどは、所詮は欲望だ〟
そんな悪霊の言葉が心に響きました。
願いをかなえる泉に少女が1デナリウス銀貨を落とすところから、この物語は始まりました。
そしてこの先、天使と悪霊と少女はそれぞれの決断を下すのです。
転身と意志と決断。
この物語に描かれた登場人物たちの言動は、読む者に深い感銘を与えてくれることでしょう。
優れた寓話です。どうぞご覧ください。
表現が非常に美しく、童話の様な形で綺麗な挿絵でもあったら、きっと多くのファンがつくと思います。
悪霊と天使の役割の違いから生まれた、幸せに対するスタンスの違いが、読み手にも無理なく納得が出来る構成が素晴らしいです。
そして悪霊と少女の選んだ道は意外性がありました。
しかし、読者の期待を裏切るものではなく、期待を超えたものでした。
出会いが人を変えていくストーリーは非常に私好みです。
情景描写は頭ひとつ抜けて高いレベルにあります。
まとまりが良く、読了感爽やかで、文字数自体は多くないのですぐに読み切ることができます。
心が温まるお話をお求めの方に是非とも読んでいただきたいです。
自信を持ってオススメします。
心が洗われるようなお話でした。
異世界ファンタジーではありますが、どちらかというと童話、寓話の世界に近いかも知れません。
人の欲望を叶えてあげることが、本当に人の幸せにつながるのか。自分の力で手に入れていない成功は本物なのか。そして、願いをかなえるたびにエスカレートする、欲望、嫉妬。
その中で、最初はヒネた悪役だった悪霊の真心が、自分を信じて疑わない天使の心を少しずつ変えていきます。
最後の、天使の、「おれたちが願いを叶えたからではなく、人は、自分で気づくものなのだ」という言葉に、本作のテーマが全て込められています。
お昼のお盆を脇にどけてキーボードを出して書いてしまいました。
これ、お勧めです。