『真説・宇宙世紀…観果てぬ夢』

トーマス・ライカー

第1話

 俺は浮かんで飛び始めた…何故飛んでる? 解らない…俺はビリー・アーウィン…思い出せないが、何かの実験に志願した。


 白衣の老人が3人、食卓を囲んでいる…食べているのは簡素なものだ…食べながら話し合っている。


「…どうやら、鎮静ガスを吸わせながら体温を下げつつ…新陳代謝率も低下させて、コールド・スリープへと促していく実用技術開発には…まだ時期尚早なようですな…」


「…いかにも…現状では面倒な手順を踏まねばならんが、温めた体液に近いリンゲル溶液に入らせ…皮膚呼吸を300%まで活性化させて呼吸器系を休眠…そのまま溶液温度を下げる事で体温を下げて、コールド・スリープへと誘っていくのが確実なようです…」


「…いずれにしろ我々には根本的な確証がまだ無いのじゃよ…コールド・スリープが本当にできるかどうかのな…」


 大気圏を突破した…地球と月があんなに遠い…火星…木星…俺は光速を超えてる? どうなってる?! あれは射手座と…乙女座だ…どんどん近付いている…ひょっとして俺は銀河系の中心に向かっているのか?


「…コールド・スリープ中の人間は、どんな夢を観るのだろうね? 」


「…夢? 体温は➖3℃…脳波は検出不能…拍動も血流も血圧も計測できない…温めた血液を身体に戻し、身体を温めながらカンフル・ショックを駆けても…蘇生するかどうかは、やってみなければ判らない…一体何を夢観ると言うのかね? 死者が…」


「…俺の体が白く光ってる…光速の何十倍…何百倍かも判らない…何だ? 同じような白光体が…同じ方向を目指して飛んでる…あれは…あれは動物? 熊に…象だ…鯨もいる…観た事の無い動物も…鳥もいる…魚もいる…皆、銀河の中心に向かって…目指している…あ…あれは…人じゃないか…女性? 何か抱いて…あれは…母親と子供だ! 君は! 君は何処から来たんだ?! 」


 目の前が真っ白な輝きに埋め尽くされている…ここが銀河の中心か…その時、襟首を掴まれて引き戻されるように、俺の身体だけが急激に反転して戻り始めた…その瞬間に俺の挙げた声が聴こえたのか…母親が俺を観た…その顔は、観た事も無い生命体の顔だった。


 裸で目覚めた俺は、ただ滂沱と涙を流した。


…20年後…


「…涙が出るでしょう? 神父…コールド・スリープから目覚めると、何故だか皆泣くんですよ…理由は今だに判りませんがね…」

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『真説・宇宙世紀…観果てぬ夢』 トーマス・ライカー @thomasriker3612

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