エピローグ


 暗黒竜は再び村を救った。

 真夜中だというのに村長は使いを出して避難していた村人たちを村に呼び寄せた。

 明け方、村人たちは篝火を焚いて祭りのように騒いだ。村人たちにはタダ酒が振舞われていた。あのケチ臭い酒場の主人にしては思いきったことをしてくれる。


 その中心にいるのはもちろんリナールだ。

 彼女はいつもの表情で、人間たちが元気に騒いでいるのを楽しそうに見ていた。




 俺はといえば。

 そのお祭り騒ぎを、遠くから眺めていた。

 とても中心に入る気分になれない。

 結局、俺はそれほど役には立っていない。いや、リナールと比べれば、この世のほとんどの人間は役立たずだが……。それでも俺は、リナール無しで何かができることを証明したかった。


 そのとき、俺の隣に誰かが腰を下ろした。

 カイナだった。

「酒は飲まないの?」

 と、カイナは言った。俺は頭を振って、

「俺にタダ酒を飲む権利はないだろう」

 と答えた。自分の声色が、ずいぶんと拗ねたような感じになってしまったことを俺は気にした。

 カイナはあきれたように肩をすくめて、

「別に、何もしてない村人だって、普通に飲んでるじゃないですか」

「それは、あいつらは村の一員だから、喜ばしいことを一緒に喜んでいるんだ」

「あなただって村の一員ですよ」

 ……果たしてそうなのだろうか。俺には分からない。


「行けよ。君もタダ酒を飲めるぞ」

「……師範は、大人になるまで飲んじゃダメだって」

 それはずいぶんと過保護だなあと俺は思った。師範らしくもない。俺のときは、俺がいくら夜中に泥酔しても何も言わなかったのに。


 酒に興味のなさそうなカイナだったが、しかし立ち上がって俺のそばを離れた。

 ……と思ったら、立ち止まって、

「……助けようとしてくれて、ありがとう」

「俺は何もしてない」

「わたしが感謝しているのは、助けようとしてくれたことで、助けてくれたことじゃないから」

 屁理屈のように言って、カイナはみんなのいる方へと駆けて行った。


「……そうか、なるほどなあ」

 俺は、16歳の小娘に言われたことを、何度も何度も頭の中で繰り返して、そして38歳の俺は、年甲斐もなくニマニマと笑けてしまったのであった。俺のことを誰も見ていなかったのは幸いである。

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軍を追放された俺は暗黒竜と一緒に故郷に帰ってセカンドライフを模索する。~俺のことが大好きな暗黒竜は目を合わせると「どしたの〜?♡」と聞いてくるが俺はどうもしてない~ 叶あぞ @anareta

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