お題 約束

@inugasaki_hikari

第1話




夢を見ていたようだ……まだ鮮明に瞼に焼き付いた光景は決して忘れる事のない遠い遠い過去の思い出



ー場面転換ー



「っ…ば……ま…ってば!……待ってってば!!」


「なんだよ、遅えっての」


初夏の到来を目前としたじめっとした熱気を肌で感じながら額から汗を垂らし全力で走ったこの道程は齢10歳の身体を疲労させるには十分だった。

バクバクと跳ねる心臓を落ち着かせる為に大きく息を吸う


「ケイちゃんなんで先帰っちゃうの!待っててって言ったじゃん!」


約束を破られた怒りとこの疲労の鬱憤を大きな声で吐き出した。


「1時間も戻ってこなかったじゃんか、別に1人でも帰れる距離だろ?」


人の気持ちも考えていない言葉に腹が立って


「そういう事じゃないじゃん!」


ごちゃ混ぜな感情からか不思議と涙が溢れ出し嗚咽の余りその後の言葉が紡げなかった。

するとケイちゃんは少し焦った顔を浮かべ


「わかった、わかったって!1人にしないって、『約束』だって、な?だから泣くなよ……」


そうして差し出された右手の小指を私の小指を強く絡める。

そうやって仲直りした後も少し小言をこぼしながらも2人並んで帰路についた。



ー場面転換ー



アレから2人の間には何も無く、ただのありふれた日常が続いていた。


その日は梅雨が明けてしばらく経ち雨の湿度も忘れかけた頃、最近の快晴続きの天候とは一転、季節が巻き戻ったような悪天候だった、所謂ゲリラ豪雨とか、そういうものだった気がする。夏の昼間に似合わない暗さに謎の気味の悪さも感じてた三時間目の途中。


ガラッと教室のドアが開いて先生が入って来た。

「小柳、急いで帰る準備しなさい、先生が家まで送って行くから」


言いしれぬ恐怖からケイちゃんに視線を送る、私の不安を感じ取ってか大丈夫と声を掛けてくれる。

それから私は教科書をランドセルに詰め先生の車に乗って自宅へ向かった。





母が亡くなった





それからはぼんやりとして記憶があんまり無い、現実を受け入れられぬ数日が過ぎ、葬儀で現実を見せつけられ心身共に限界に近づいていた。それでも空元気で何でも無いように、父に心配させまいと振る舞うしかなかった。


登校して、勉強して、帰宅して、迎えてくていた母の姿がなくて、遺影の前で毎日泣いた。

寂しくさせまいと仕事を早く切り上げて帰って来て、慣れない家事をこなす父にこんな姿は見せられなかった、父も泣きたいはずだろうと思うと込み上げて来た感情を飲み込んで腹の底に貯めておくしか私には出来なかった。


小さな身体に溜め込んだ物は爆発して然るべきだろう。

ケイちゃんと帰る通学路、急に視界がぐらついて意識が途絶えた。


「おい!おい!京子大丈夫か?」


目が覚めた時ふかふかのベットに包まれていた。

私の部屋だ………

倒れた場所から私の家の方が近かった為ケイちゃんはこっちを選んだのだろう。


「勝手に鍵開けて入っちゃって悪かったな……」


そういう彼に良いんだよ、ありがとうと告げる


ふと熱出した時、母も付きっきりで看病してくれた事を思い出して感情のダムに穴が開いて溜め込んでいた感情と涙が溢れ出して来た。

大声を出して泣いた、悲しかった、寂しかったと堰を切ったようにすべて流れ出すのを止められなかった。


ひとしきり泣き終わった後に、ケイちゃんは私の手を握って言った。


「この前『約束』しただろ?1人にしない、寂しい思いはもうさせないよ」


なんて照れた顔をした彼の笑顔を生涯忘れる事はないだろう




ー場面転換ー



あんなに大口叩いてたのに先に逝くなんてねぇ……

日課となった仏壇へ線香を添える、我が家の仏間には両親と、新たに加わった好々爺とした表情を浮かべる彼の遺影を見つめて、手を合わせる。


でもケイちゃんの約束は


「母さんただい「おばあちゃーーーん!」」

ガラガラと最近立て付けの悪さを感じ始めた玄関を低音とはつらつな可愛らしい声が聞こえた。


「こらっ舞走らない!」


ちょこちょこと駆け寄ってくる孫を抱き止めて思う


ケイちゃんは最後まで約束を守ってくれたね

私は1人じゃないし、今寂しくもないよ。


いつになるかは分からないけど、わたしもそっちに行くから、そしたら天国でも寂しくはないよ。

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