第參章   古の縁① 

 庚は、『先住王の儀式』という新しい知識を得たことに満足し、次は人脈を広げたいと言って【瀬戸内水軍】とリモート通信できないのか、と訊いた。


 鶴姫は、【家族】に叔母を紹介したいと快諾した。『叔母を紹介』という言葉が思いの外、庚の心の琴線に触れたようで上機嫌な表情に見える。


 互いに了承したが、モニターをどうするという話になると、あきらが「先に行って待っていてください」と言った直後にモニターにしていた【水鏡みずかがみ】が影も形もなく消えた。


 ウラシマ「庚様が消えた!」


 ウラシマの言葉に、消えたのは【水鏡】だと、洸が訂正する。


 一寸法師「『瞬き禁止の速さ』で【転移】させたね」


 一寸法師には、【転移術】を使ったことが判ったようだ。


 鞍馬天狗「【万巻まんがん】は、水さえあれば【陣】も敷かずに【転移術】を発動させることができた。洸は【過去世】が【万巻】だったよな」


 同じように使えるんだな、と【鞍馬天狗】は洸に確認した。


 洸「勿論だ。これが【転生戦士】の利点だ」


【回生(転生戦士の転生)】の度に新しい【スキル】を習得すれば、【過去世】全て累積されて『スキルホルダー人間』になれるのが、【転生戦士】である。


荒神アラガミ・空海】が、俺は一生かかっても習得出来なかった、と呟いている。彼は、【人間】の【弘法大使】の生涯を終えた直後にスカウトされて【亜神】になってから習得している。


 洸は、いつ習得したかではなく今、使えることこそが重要と諭している。


【真言宗】の開祖が、二千年後に【高野聖】に説法されるというシュールな光景だ。


 教祖と信者が逆転してるじゃねえか、と刹那がツッコむ。


 遙「雑談は後にして追いかけたほうがいいぞ………【瀬戸内水軍艦内むこう】は、いきなり【水鏡】が【転移】して来て映っているのは『どこのプロ愛人?』みたいな妖婦だからな」


 ひどい言いようだが、遙は本人がいてもいなくてもこの調子である。





      ◆ ◆ ◆




【瀬戸内水軍艦内】では突然、【水鏡】が現れただけでも驚きだというのに、そこに映っているのがカタギではなさそうな──────【政治家】か【CEO】の愛人にしか見えない妖艶な女なので『集金の人』なのかと【ギルド瀬戸内水軍】に借金疑惑が持ち上がっていた。


 しかし昴が、この人知ってる、と言った。


 昴「【都知事】の【永久秘書さん】だ!」


 父親が【三代国王】だったので昴は【殿下】の敬称を付けて呼ばれる【王族】である。故に、【知事】やその周辺の人物を見知っているのだ。


 比勇「【A 級】………?【知事】ともなると、【高ランク】を付けられた【秘書】を雇うのか!」


 比勇ひゆうと昴の間で発音の齟齬が生じている。


 昴は、一生【秘書】をしろという意味の永久だと言って、比勇は勘違いを理解した。


 蘇芳「この人………どんなにキャリアを積んでも【秘書】のままってことか?」


【秘書】で下積みや学習して【知事】や【政治家】を目指す人は多いので、蘇芳はたとえシゴデキでも【秘書】止まりだということに気づいた。


 圭「【かのえ女史】は、【夢見姫】の一卵性双生児の妹だ。双子特有の意思疎通かは不明だが………【夢見】に入れる・・・のだよ。その【特異能力】の為に【永久秘書】という拘束衣・・・を着せられているのだよ」


 昴の異母兄で【三代国王】の長男であるけいは、昴より事情をよく知っていた。


 比勇が、拘束衣なんて着ていないぞ、と庚のかなり刺激的な服装について口にすると、圭が、比喩表現も理解できない脳筋が、と悪態をついた。


 昴「比勇さん………【永久秘書】って立場が檻とか枷みたいなヤツっすよ」


 比勇「おお!取り込んだ………ということだな!」

 

 昴の説明に比勇は理解したようだが、あまり口外して良い内容ではない。


 忍武「比勇さん………そんなあけすけな言い方………」


 忍武しのぶが言い方に気をつかったほうがいい、と言おうとしたのを庚が肯定する言葉で

割り込んだ。


 庚「そこの、なかなかイケてる青年の言うとおりよ」


 一瞬、庚が誰のことをイケてる青年と言ったのか、誰もわからなかったが会話の流れから比勇だという結論に行き着いた。


 昴「………比勇さん、モテ期到来!」


 無難なことを言った昴だが、内心はすげぇゲテモノ趣味だと思っている。


 モテ期というワードに比勇は、照れるが圭のひと言で微妙な空気になってしまう。


 圭「【庚女史】は、確か………古希だったと思うが………」


 昴「BBAかよ!………っ!イタッ!」


 驚きのあまり正直な気持ちが口について出た昴の脛を、瑪瑙が蹴った。


 瑪瑙「熟女・・………と言え!」


 瑪瑙の訂正を、椿がそれもなんだかなあ、とつぶやいている。


 美夕が「はい、質問!」と挙手して、若さの秘訣を教えてください、とガチで訊いている。


 昴が、お前それガチだな、とツッコんでいるのを蘇芳が女は若さと美貌を保つことが課題なんだ、と女心を理解した訳知り顔をしていると、昴が鋭い声を張り上げ、進行していた会話を力ずくで遮った。


 昴「全員、そのまま3歩下がれ!」


 その場にいた面々は一瞬、困惑に眉を顰めて訝った。しかし、誰も反論の言葉を口にすることはなかった。


 彼らの目の前には、忍法によって創作された【水鏡】が、浮遊している。先ほど唐突に【転移】してきたそのモニターが、誰の手によるものか、昴には見当がついているという信頼からだ。


 昴の気迫に押されるようにして、全員が言われた通りに後退する。


【水鏡】の前に、ぽっかりと不自然な空白地帯が生まれた。


 その直後───────────まるで測ったかのようなタイミングで、何もない空間が激しく歪んだ。


 直前まで人がいたはずのそのスペースに、重厚な空気の塊と共に集団が【転移】してくる。


 あと数秒、昴の指示が遅れていれば、あるいは誰も動こうとしなければ、転移の衝撃に巻き込まれ、怪我人が出ただろう。


 昴は冷や汗の流れる額を拭うこともせず、現れた者たちを射抜くような視線で見据えた。

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