第14話 四年後

――四年後、四月。


「こんばんはー」


pico_chan:こんばんは

ちえぴ:待ってた

mimi_usagi:こんばんは

こまちん。:こんばんは



夜の九時。

私はいつものように、配信を始める。


寝起きで髪はボサボサだし、最近は伸びて目に入るから前髪をピンで止めている。

服装も部屋着で不格好だけれど、私の代わりにアバターが画面に映っているから気にならない。


五百人のリスナーがこの配信を見ている。

昔からの見慣れた人もいるけど、この四年で随分増えたなと思う。

最近では他の配信者ともコラボするようになり、時々だけど一千人を超えることもある。



「今日は前々から告知してた、私の新ビジュアルの公開と、近況も話そうかなって思って」


さば味噌.jp:さーやが近況話すのって珍しくない?

yuna_choco:あんまり私生活話さないよね


「そだね。普段はあんまり私生活の話しないかも。っていうのも、あんまり明るい話にならないし。以前の雑談で話したことがあるから、前々から見てるリスナーさんは知ってると思うんだけど。実は私……引きこもりだったんだよね。高校のころイジメられて、学校にいけなくなったんだ」


ryunryun:言ってたね

さば味噌.jp:マジか

Z3R0_killer:知らなかった

関西人やけど:さーやって陽キャの部類だと思ってたから意外だわ

青柳(犬好き):自分も同じ境遇だから親近感


「数年前から親の提案で通信制の高校に通うようになったんだけど、週一の登校日にどうしても通うことができなかったんだ。時間をかけて、ようやくまともに通えるようになって、この三月で学校を卒業したの。今年から晴れて高卒の社会人」


pico_chan:おめでとう

黒井メロン:おめでとう!

yuna_choco:頑張ったね

¥1000 関西人やけど:ちゃんと卒業したのはマジで偉い


「今のところ、みんなのおかげで収入もあるから、なんとか食べていけそう。って言ってもいつまでこの配信ブームが続くか分からないから、もう少ししたら仕事もして、配信と並行して食べていければなーって思ってるけど」


青柳(犬好き):さーやくらいの同接あれば本業で良い気もするけどな

ryunryun:副業なら盤石ではある

naoya_110:俺は推しには長く活動して欲しい派


「へへ、でしょ? 私、意外と計算高いんだ。そうそう、それからちょっと話変わるんだけど。新ビジュアルついても紹介していこうかな」


ryunryun:来た

naoya_110:来た

青柳(犬好き):おおおおお!

ちえぴ:楽しみ!


「じゃあ、私の新ビジュアルです」



足元から徐々に姿を映していく。

ブーツに、デニムのショートパンツに、オーバーサイズのトレーナーとジャケット。

黒のロングヘアーには白いメッシュが入っていて、笑顔が素敵な可愛らしいアバターだ。


表情の差分も多くて、髪の毛がサラサラと揺れている。

雪をモチーフにしてデザインしたらしく、顔は私の面影があった。

デザインした本人から聞いた話によると、LINEの顔文字が全部このアバターで表現できるらしい。

相当な作り込みだ。


そこまでは依頼していなかったのだけれど。

そんなにしてもらえるだなんて。


愛されてるな、と思う。



¥10000 pico_chan:可愛い!

¥500 さくらもち*:かわいい!

naoya_110:めっちゃいい!

ryunryun:これは推せる

¥10000 青柳(犬好き):さーや新衣装おめでとう

¥1000 yuna_choco:おめでとう!

関西人やけど:ええやん



私がアバターを全て表示すると、コメントの速度が一気に加速した。

スーパーチャットも一気に溢れる。



「良いでしょ。割とリアルに寄せてもらってるんだよね。デザインしてくれた人は最近かなり色んな企業やVtuberとコラボしてる女性のイラストレーターさん。本来私なんかが依頼できるような人じゃないんだけど、有名になる前に少し話したことがあって、かなり前もって予約させてもらったんだ。『いつか大きな配信者になったら、私の新ビジュアルをお願いさせてください』って」


さくらもち*:有名なイラストレーターと初期に知り合うとかすごすぎ

yuna_choco:誰?

ryunryun:有名な人?


「イラストレーターのRinさん。モデリングもしてくれたんだよ? 私の配信の初期からいるリスナーさんで、よくコメントしてくれてるから、古参のリスナーの人は知ってると思う」


yuna_choco:Rinってめっちゃ有名じゃない?

naoya_110:俺でも知ってる

関西人やけど:ググったらこの人の絵見たことあったわ

青柳(犬好き):俺初期から見てるけどRinなんてリスナーいたっけ


「そりゃそうだよね。えーと、一応名前出していいよって言われてるから明かしちゃうと――」



私はその人の名前を呼ぶ。


ずっと私を応援し、そして今も支えてくれている、大切なリスナーの名前を。



「乳首ぴんこさんです」



さくらもち*:えっ?

naoya_110:えっ?

pico_chan:えっ?

青柳(犬好き):常連スパチャおじじゃん

関西人やけど:相変わらず名前えぐいって

¥50000 乳首ぴんこ:さーや可愛い♡

青柳(犬好き):本人降臨



ざわめくコメントの様子が想像通りでおかしくて、私は少しだけ笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

配信者は夜に起きる @koma-saka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ