空の賽銭箱

七海 司

空の賽銭箱

「裏山の神社では、お賽銭を入れてはいけないよ」

「なんで? 他の神様はいいのに裏の神様はダメなの?」

「それはね、とてつもない幸運が返ってきてしまうからだよ」

「ふーん」と分かったような返事をしつつも、お賽銭を入れたら、レアカードが当たるのでは無いかと期待で風船のように胸が膨らんでいく。


 握りしめた十五円を賽銭箱に投げ込むと木製の賽銭箱に銅と真鍮が当たり、カランと温かみのある乾いた音が響いた。

 かと思うと地響きと共に足元が大きく、激しく揺れ出した。



「これが神様がくれた幸運なの?」

 地震により、瓦礫とかしたお家を見て、言葉が出てこない。涙だけ流れる。

 家族はもう助からないと思う。一目見て諦めてしまうほどに、悲惨な光景が広がっていた。

 そんな中で、僕は急死に一生を得たのだから、幸運なのだろう。

「何が幸運だ。こんな幸運なら、いらなかったのに!」


 賽銭を入れた者だけを生き残らせた神様の自作自演。


 賽銭を回収したら、無かった事にならないかな。

 からの賽銭箱を覗き込むとそこには、どこまでも吸い込まれそうなそらが広がっていた。

 意を決して、僕は賽銭箱の中に飛び込んだ。


 僕の冒険は始まったばかりだ。

 

 ご愛読ありがとうございました。

 完

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空の賽銭箱 七海 司 @7namamitukasa3

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