暗黒ファンタジー冒頭企画

血濡れた闇聖女は何を成す?

 アンヌ……つまり私にとってお母様は憧れの存在だった。今でも小さい頃の会話を思い出せる。


「アンヌ。私達はな存在として生まれました。なら貴方がやる事は分かりますか?」

「はいお母様。『人を救う事』ですね!」

「よくできましたアンヌ」


 お母様はよく話してくれた。

 遥か昔に人類の命運を巻き込んだ大きな戦いがあったと。

 

 フェーラル聖戦。


 突如現れた凶悪な『悪魔』と人類が戦った話だ。

 数は少ないながらも、悪魔は身体能力と魔法が人より遥かに強く、一体一体が歴戦の強兵の力を持つ。

 そんな個体が数万もいる種族に、人間は成す術もなく殺されていくしかなかった。


 目に見えて増える人間の死体。

 常に収縮していく領地。

 緑から赤へと変色していく母なる大地。


 人類の未来は闇によって閉ざされたかに見えた。

 だがある日。空から降った一筋の光が道を切り開く。


「では続いて質問します。その役目を与えてくれたのは一体誰でしょうか?」

「天使です!」

「はいよくできました!」


 空から降ってきた光の名は『天使』


 彼ら、彼女らは悪魔と正反対の存在と言われ、悪魔と対立している存在だった。

 故に悪魔と敵対している人間に力を貸すのは必然であり、その力を使える選ばれた存在を人はこう呼んだ。


「お母様も『聖女』なんですよね!」

「ええ。今も私の中には大勢の人を救った天使の力があります。そしてその力はアンヌ……貴方にもあるのですよ」


 聖女は天使から授かった力を存分に使い、戦況をひっくり返しそして人類を勝利へと導いた。


「この力は人を救い導く為にあるのです。それが天使から授かった役目であり、同時に私達の信念」


 戦後の聖女達は人を導く存在として人類に受け入れられたという。無論。力を持つ者だからこそ堕落などあってはならない。

 

「私達は特別だからこそ、その力を正しく使わなければなりません」


 そう口酸っぱく言っていたお母様も人を沢山救ってきた。

 戦争から千年近くが経ち。

 悪魔は戦争で消え去り天使は空へと消え。

 聖女も残り僅か二人になっても、お母様は誇り高い聖女として、己を貫いてきた。


「でもねアンヌ。ここまで色々使命とか言ってきたけど、一番大切な事を教えるわ」

「大切な事?」


 でもお母様はたまに聖女ではなく母として、大切な言葉を教えてくれた。

 それは崇高なモノではないかもしれないけど、私は好きだった。


「覚えておきなさい。貴方は──」


 でもその言葉はもう二度聞けない。











 ──お母様は人間に殺されたから。

 







 ──約十年後。


 闇に染まった森の中を私は走っていた。


「真っ白な修道服を着た〜金髪の女の子はどこかな〜?」

「血があったぞこっちだ!」

「ハァ……ハァ、ハァハァ……!!」


 聖女の敵は悪魔だとお母様は言っていた。

 己の欲望に忠実で、欲望の為なら他の人がどうなろうが何でもやる存在が私達の敵だって。

 

「きゃっは、やっぱ聖女は美人だな! 待てよオイ!」

「見つけたのは俺が最初だアイツは俺が犯す!」


 なら後ろから迫ってきている人間は?


 何で守るべき人間が私を殺そうとしているのだろう。ギラギラしている目が怖い。あんな欲望に塗れた人間の顔なんて伝説に聞く悪魔そのものじゃないか?


「おっいた。そこだ!」

「ッ……! あっ、がっ!? ……ハァ、ハァ!!!」

「オイオイオイ、聖女は半不死身って本当かよ!?」


 無慈悲にも私の脚を弓矢が貫通する。

 手加減なんてない。文字通り脚に穴を開けられた私は痛みで脚を止めそうになる。

 でも止まらない。止められない。

 もし止まったりしたら……。


「どんな傷でも勝手に治る話は本当だったんだな」

「それじゃあ遊び甲斐があるってもんだな。穴を沢山開けてもいいんだからなー!」


 悪魔人間に殺される。


 痛みさえ耐えれば傷はそこまで問題じゃない。

 どうあっても私の体は戻るんだから。それが聖女。


 だけど追っ手の攻撃は緩まない。むしろ良いものが見れた、もう一度見たいと頻度が上がっている。最悪だ。


「やめっ……!」


 そう助けを求めても攻撃が止まる訳が無かった。

 ただ弓矢が私の体に届くことはない。白色の半透明な球体が盾となり、弓矢は鉄に当たった音を経てながら弾かれる。

 これは遥か昔の戦場で数百人を守りきった純白な壁。フェーラル聖戦でも語られた伝説の守り。


「貧弱な『守り』だなぁ!」


 しかしその守りも今は弱々しい。

 追手の男が鉄球を当てればガラスの様に粉々になる。


「まぁ仕方ないよなぁ? お前の母はあの世に行っちまったんだ」

「え、何で──」

 

 言い終える前に鉄球が自分の体に衝撃と痛みを走らせる。骨なんて簡単に砕ける威力に体が耐えきれず、そのまま後方へ吹き飛ばされてしまった。






 気付けば大雨だ。

 これから起こる未来を表す様に、空が晴れる気配は全く感じ取れない。


 突然の衝撃に頭がクラクラする。

 でもそれは鉄球の痛みだけじゃなくて。


(何でお母様が死んだ事を知っているの?)


 森を超えて古びた遺跡の遺物にぶつかって、小さな柱の上にある頭の中はそれしかなかった。


 お母様が死んでいる事を知っているのはワルキュレイス聖教会の人しかいないはず。


「何でママが死んでいる事を知ってるのって顔だな?」


 いつの間にか目の前に立っていた大柄な男がそう言った。どこまでも人を蔑む笑みを浮かべながら。


「俺たちがからだ」

「────は?」


 彼の背後で雷が降って周りが光と影に包まれる。

 丁度雷の前に立っていた男は影に隠れ……その時の黒に染まった男の笑みはまるで悪魔のようで。


「衝撃の事実が発覚! でもこの女フリーズしてるぞハハハ」

「オイオイつまらねぇな。……ならこのお嬢様にもっと驚く事を教えるか! なぁ知ってるか?」


 ──殺したのは俺達だが、その命令を下したのはワルキュレイスのお偉いさんなんだよ。


「つまり、人間が聖女サマを殺したって訳さーアハハハハ!!!」

「────」

「まぁ教会が殺したってのはマズイから俺達盗賊を使った訳だが……いやぁ気持ちよかったぜ

「─────────」



 今…………何て



 お母様の体を……?



(ふざけるな……)


 私の中で黒い炎が湧き立った。


 どこまでも激しく燃えて終わりが見えない炎。

 あぁ、この止まらないはどうすれば良いのだろう。


 さっきから男が権力争いとか派閥争いがどーとかいってるけど……もうどうでも良くなった。



 殺す



──その憎悪はとても良い。欲望に溺れて己の為に動く姿はいつ見ても美しい。


 今までに感じた事のない感情と向き合った瞬間に背後から声が聞こえて来た。とても綺麗で溺死しそうなほど心地よい女性の声。


──けれど残念。圧倒的に力が足りない。例え祝福すべき新たな感情を持っていても、感情を浄化する行為ができない。それはそれはとても悲しいことです。


 だからこうしましょうと、私の手が勝手に動いた。


「どうした急に手を見せつけ──て……?」

「ん、どうした兄貴?」


 いつの間にか談笑していた一人の男が大人しくなる。まるで抜け殻のようにダランとした男に別の男が声を掛けた。


 するとグルリと振り返った。胴体はアンヌに向いたままで、顔は180度回転して──


「ま、待て兄貴なんで俺をッイタイイタイイタイ!!!」


 そのまま兄貴と呼んだ男の片腕を鉄球で吹き飛ばした。片腕を吹き飛ばされた男が情けなくのたうち回っていて無様だ。


──素晴らしい。獣の様に暴れる姿こそ生物の原点。この光景に快楽を得ない愚か者などいるのでしょうか?


 ああ、ナンテ楽しい。


 このまマ他の男達も復讐シテもっとコワソウ。


 感情に忠実になって走り続けてジブンノヤリタイコトヲ……


『でもねアンヌ』




 コトヲ……




『ここまで色々使命とか言ってきたけど、一番大切な事を教えるわ』



 じブンのやりたい事を……?



『貴方は貴方の信念を貫いて。天使から授かったものじゃない。貴方の心の中に潜むソレを貫くのよ』


 ……自分のやりたい事を、それは










「まっ、て」


 その一言で暴れていた男の動きが止まった。

 感情に溺れていた私はようやく底から抜け出せたのだ。


 そう。私はお母様に憧れていた。

 聖女だからじゃない。どんなに辛い信念……いや鎖に縛られても、最後まで貫き通す姿に魅入られたからだ。



 私のやりたい事。それは……




 母様のような人になる事だ!




「ガッ……急に体が、動かない!」

「いい加減出てきて、さっきから私をおちょくりやがって」

「は、何言ってんだお前。俺達以外は」


 自分の体が使われたせいだろう。何となく掴めた感覚を利用して天使の力で男達を拘束し、そのまま後ろを振り返る。

 突き出した手はそのままに。男の戯言を無視しながら、背後にいる化け物の名前を呼ぶ。


「出ないと殺すわよ……『悪魔』」




──フフフフフフハハハハハハ!!!




 何も無い所から女性の声が聞こえる。けれど雷がまた落ちた瞬間に、その化け物は姿を表した。


「私の洗脳を阻むどころか、施した魔術の仕組みを瞬間的に理解し使用。その上で魔術の繋がりを辿って私を見つけるとは……まずは虫を処理しましょうか」


 虫を払う簡単な仕草。

 それだけで私の背後にいた男達の息が絶えたのを感じた。多分首と胴体が別れてる。

 ちなみにお母様を殺した奴なんてどうでも良い。私情に飲み込まれるのがダメなだけで、奴らを放っておいても害にしかならないのは分かりきっているから。

 

 それよりもっと大きな問題がある。

 悪魔がいるのもそうだが……よりにもよってコイツだなんて。


 私はこの悪魔を知っている。


「それで私をどうしますか?」


 二メートルある身長に青白い肌。白銀の長髪の髪の毛からは赤い二つの角が生えていて、いかにも悪魔らしい姿だ。

 けれど決定的なのは彼女を象徴する十二枚の黒い翼。


「なにって、まぁ考え中よ?」

「あら?」

「お前……ルシフィエルでしょ?」


 コイツはフェーラル聖戦でも封印する事しかできなかった強大な悪魔。

 つまり出会った時点で詰み。


「ねぇルシフィエル。貴方と取引があるんだけど?」


 だから掛けに出る。

 悪魔は欲望に忠実なら。




「教会、潰してみない?」

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色んな小説企画集 ギル・A・ヤマト @okookorannble

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