匿名独自ファンタジー冒頭企画

魔法解体者の快進撃《アンライヴァド》

 発展しすぎた科学は魔法と変わらないという。


 そんな言葉が存在するのは、技術の進歩によって昔では神の祟りだとか自然の理だと信じられていたものが、科学で解明されて当たり前になった歴史があるからだと思う。


 雷だって昔は神様の怒りとか人間の手に余る超常の力として扱われていたけど、19世紀辺りに天才が雷の正体を解明した挙げ句、『電気』という形に変わって人類が当たり前に使える力となった。


 つまり時代が進めば、今まで人類には扱えなかったモノ魔法当たり前魔法だったものに堕落する。



 と。



 数分前に死んだ私はそう考えていた。

 目の前で殺されそうになった子供を庇ってボロ雑巾のように転がった瞬間を覚えている。

 ……子供は助かっただろう。思いっきり吹き飛ばしたから。


 とりあえず話は戻すとして。

 私はなぜそんな事を考えているのか、そもそも死んだ私がなんで冷静に物事を考えられるのか。


 生き返った? ああそうだ。

 日本で流行っていたネット小説やラノベ然り、私はどうやら転生したらしい。当事者としてはソレでみっともない程驚いていただろう。


 けれど今の私は冷静だ。

 転生といった魔法みたいな事実より、遥かに興味深い事実が目の前に転がっているからだ。


 ──具体的には、


?」


 ──ゾンビ映画の研究所らしく陰湿なココとは全く似合わない女性が、


「私の思惑通りに死ぬよう未来から干渉したのですが……手足は動けます? 口から声は出せます?」


 ──歴史改変だの時間超越だの、生死の壁の撤回など


「脳内に知識や常識は残っています? 私の事を認識できています? そもそも魂の完全移植できてます?」


 ──なんて、倫理も常識もない言葉をマシンガンみたいに問いかけてくるからだ。


「……はぁ、何言っているのか8割くらい分からんが出来てると思うぞ。年齢は25で性別女性。それで自分の名前はミツヒネ カイ……あってるか?」


 たまらず溜息を吐いた後に、投げやりに自分に関する情報を言ってみる。すると魂の完全移植とやらが成功していたのか、デリカシーに欠ける質問をしてきた女性は目を開いたまま満足気に頷いた。


「うーん素晴らしい結果です! こちらを嫌そうに見る目に気怠げな声と、こんな環境でも平然と同ペースで鳴る心臓の鼓動。貴女は間違いなくミツヒネ カイ様ですね!」


 手を合わせて笑顔を見せる女性。

 褐色に太陽を思わせる髪をも持つ彼女は、相変わらず薄暗いこことは似合わないと思う。なんか左側の大きいシリンダーみたいなのがあるし……


 本当にSFに出てきそうな場所だ。

 私は魔法が専門だというのに。


 ちなみに私はボロ椅子に施錠させられている。

 こう手を椅子にくっつけられた感じで。


「それにしても随分とおとなしいですね。ここはほら、目を開いたらなんかヤバい場所来ちゃったぞー!? って驚く所だと思うんですけど」

「驚いているよ。ただ驚こうと思っても、こんな興味深いものを見せられるとね。後、君が言っている事にも興味がある」

「へぇ、戯言とも捉えられる私の言葉を信じるんですか?」


 そっちが先に言ったのだろう。という言葉は一旦お腹の中に留めておくとして、そう感じ取った理由を述べる事にする。


「そうだな……まず君は人間じゃないだろう?」

「……へぇ、なんでそう思ったんです?」


 興味深そうに、ボロそうな椅子に姿勢正しく座っていた彼女が上体を前へ移し始めた。

 対して私はつまらなさそうに答える。


「目がずっと開きっぱなしなんだよ。私と話し始めてから約5分以上、君は大きく開いた目をずっと私に見せている」

「他には?」

「表情が硬い。口角が上がる時や顔を傾ける瞬間と僅かだが綺麗過ぎるほどスライドしている」

「ほおほお」

「それで最後。というかこれが確信に繋がったんだが……君、魔力がないだろ」

「どうしてそう思うのですか?」


……明らかにワクワクしてるなこの人擬き。

 

「電気だ。人間の神経には電気があると言うが、お前にはソレがない。パルスっての知っているか? 本当に、本当に微弱な電気だがソレがないと人間は体を動かせないんだよ」


 これでどうだ? そんな意味を込めた目線を送ってみれば、どうやら相手さんは気に入ってくれたらしい。


「さすが! ちょっとした情報から答えに辿り着くなんで、その手腕素晴らしいです! わざわざ禁忌を犯した甲斐があります!」

「……今回は簡単な問題だったさ。魔法を扱うものとして、見えない物を見るのは基本だしな」


 そう。この世界には魔法というものがある。

 それは科学によって解明されたものではなくて、小説やアニメに出てくるような炎や雷を出せるアレだ。


「生きとしいけるもの全てに魔力はある。これは地球である以上覆られないルールだ。地球の自然と何かしら繋がっている限り、魔力は宿る」


 例えコンクリの壁だろうが、人間が作れば微弱な魔力が宿る。人工物だろうが、間接的にでも自然と関わってしまえば魔力を得るのだ。


 だからこそ生きとし生けるもの全てに魔力はある。


 魔法使いなら誰でも知っている事実。

 故に目の前の人が人擬きだと看破はできたが、同時にあり得ない事実が浮上している。


「なぁ、褐色の女s「オリファーです! よろしくです!」……オリファーよ、君の正体は気になるがそれ以上に聞きたい事がある」


 私は昔から魔法のような未知に興味を持つ人間だった。雷は一体どんな原理で生まれるのか、そう言った事が気になってしょうがない性分だった。


 だから私は自分の命よりもを優先してしまう。

 何せその未知は、世界が変わるような事実でもあるからだ。


「聞きたいことってなんですか魔法解体者?」

「なぜ地面には魔力が流れていない?」


 世界のルールに反している事が起きている。

 私の目でどれだけ奥を探っても、魔力の流れは一片足りとも感じ取れなかった。


「魔法解体者。神秘性が生命線になる魔法に置いてあらゆる未知を既知にしたがる貴女は、まさしくファンタジーキラーだった」

「今更な評価だな」

「だから貴女は前世、妙にお人好しな面を利用され、人質の子供を庇って死んだ。魔法がこの世から消える事を防ぐ為に」

「そうだな。そして君はそんな厄介者を蘇らせた……どうして欲しいんだ?」


 私の問いにオリファーは答えた。

 それはもう蔓延の笑みで。


「貴女には大きな謎解きをして欲しいんです。世界を救うついでに」








「なぁ気になったんだが、私の助けって必要か?」


 私達は薄暗い廊下を歩きながら会話をしていた。

 内容は主に世界を救う必要性についてだ。

 どうしても気になる。


「世界の異常が起きてる以上、タイムスリップとかの話は一旦信じるが、どうしても思う。そのすごーいSFパワーで解決できないのか?」

「無理ですね。パワーで対抗しようとして失敗してますから……ほらこんな風に」


 すると廊下の左側面にある扉が見えて来た。オリファーに促されて、その扉の窓を除けばシリンダーの中で眠っている人間が大量にいるのが見えた。

 ……ナンバーが貼ってある。パッと見1000まで書かれてあるな。


「……これって?」

「旧人類、敗戦故の結末って奴です。それ以降の答えは一旦外を見てからにしましょう?」









「世界を救えとは言われたが……誰からの差金だ? イギリスの時計塔か、エジプトの所か、それともアトランティスの所か」

「そのどれでもありませんよ。魔法の名所は無くなりましたから……いえ、魔法そのものが消えたと言うべきですかね?」

「なに?」


 私が立ち止まると彼女は振り返った。

 相変わらず思考が読めない目をしながら、彼女は淡々と話し始める。


「かつてこの地球には人類がいました。彼ら彼女らは地上で最も栄えた種族であり、最も魔術を扱えた種族でした。総勢143億6687万5436人と、人類は様々な問題を超越し豊かに暮らしました──しかし」


 ガコンッ。

 彼女の言葉に応じるように床が揺れたかと思えば、歯車の音が流れてくると同時に床が上昇していく。

 これがエレベーターだと私が理解した時に、彼女は何事もないように爆弾発言を投げつけた。


「しかしある日を境に人類は皆殺しにされました」


 目は開いたまま。

 だけど笑っていない事だけは分かった。


「上陸開始 2356万3451人


1秒後  6000万9651人


10秒後 20億4651万0197人」


 淡々と話す彼女。

 けれど声から発せられる数字には重みがある。

 増えていく経過時間と人数。それが数分、数時間、数日の変わっていき。


「7日目 143億6687万4436人……これが空からやって来た侵略者によって殺された人の数です。既存の魔法で生き残りを保護する時間稼ぎはできたんですが……」

「残りの約1000人はここに保護されている人達って訳か」

「はいその通り!」


 余りにもスケールの大きい話であり、デタラメとしか思えない言葉だったが、彼女の憎悪に満ちた顔を見てしまえば否定する事はできなかった。


「空から来た侵略者というのは宇宙人か。奴らはどうやってそんな快進撃を成し遂げたんだ?」

「簡単な事です。地球のルールを書き換えたんですよ。さっき言ったでしょう? 魔法を消したんです」

「……まさか地球ごと概念を書き換えたのか」

「ええ、それも一時的なものではなく永続的なものです!」


 小さなおふざけみたいに言う彼女だった。

 それに対してどんな反応をすれば良いのか分からずにいた私だったが、上昇していた床がついに止まった事で事態は進む。


 さっきまでは見えなかった天井が、今では自分の頭5つほど上のところにある。そして目の前の扉がスライドして開けば、隙間から光が差し込んできた。


 蒼い光が。


「今は新世紀1539年。西暦に変えると4031年に当たる今、地球に緑の自然と大きな海は消えました。あるのはそこが見えない谷や青紫色に輝く宝石が広がるばかり」


 彼女の言葉と共に見えて来たのは、到底地球とは思えない宝石だらけの世界だった。

 どれもこれもが見惚れる美しさを誇り、その癖一つ一つの大きさは山なみにあると来た。


 上空を見れば黒い雲みたいなものが浮いていたり、赤と紫のオーロラがあちらこちらに生まれている。


 常識ではないファンタジー世界がそこに広がっていた。


「どうです未来世界? 驚く程に殺風景でしょ!」

「殺風景ね、確かにそうだな」


 風は死んでるし生命も全く感じない。

 無機物が見える景色に永遠と広がる世界。

 魔法使いの私でも未知で埋め尽くされたファンタジーな世界だった。


 そして視界の端っこ。

 ギリギリ見える所に見逃せない異変があった。

 例えるならバグ。そこだけ空間がチグハグというか3Dゲームでよく見る、オブジェクトが伸びたまま放置されているような光景があったのだ。


「オリファー、あの景色は」

「あぁあれですか? アレはですね〜矛盾です。空からやって来た侵略者達は、概念書き換えで世界のルールを無理やり変えたじゃないですか〜」

「その無理やりの影響で生まれた訳か」

「イエス!」

「……それで、どうやってこの世界を救えと? まだ1000人はいるからいいとして、世界がこの有様じゃ生きていけないだろ?」

「宇宙人の概念書き換え、アレにはルールがあるんですよ。簡単に言えば未知ファンタジーのままでいさせること」



 ──ええこれも、魔法と同じなんですよ。



 そう言われて私はようやく理解できた。

 彼女に世界を救って欲しいと言われたら理由を。


「つまり私に未知を解体しろというのか」


 未知を既知にする。

 それすなわちこの新世界に貼り付けられたルールを壊す事他ならない。確かに人類の生息圏を広げる手段としては悪くないだろう。


 だが問題はある。


「なぁ君、一つ重大な点があるんだが……私が魔法を解体していくとして、その宇宙人とやらに襲われる可能性はあるんじゃないか?」


 当然の話だ。

 相手は人類を皆殺しにしてまで地球を自分の領土に変えた。それを奪われるというのは、まぁ放っておくわけが無い。

 

「確かにありますが……」


 その考えを肯定するように彼女は頷いた。

 けれどそうじゃないだろうと、オリファーは言葉を紡ぐ。


「それで未知の解体は止めるんですか?」


 オリファーの挑戦的な笑み。

 まるで答えなんて知っているような表情だが、全くもってその通り。

 命の危険性程度で私の興味心は止まらない。

 でなければ魔法解体者なんて呼ばれていないのだから。


「もちろんやるよ。未知を既知に、人類の手に余るその力を、解体して見せよう」


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