死にたがり屋の僕と青い薔薇の神様

アオヤ

第1話

  僕は崖に座り、海を見つめていた。

「生きていても苦しいだけでいい事なんて一つも無いな。それに僕が居なくなっても悲しむ人なんて誰もいないしね…」

暖かな日射しに照らされ身体がボカボカしてくる。

でも今の僕にとってそんな事はどうでもいいことだ。


 蒼い空と群青色の海が目の前に広がっている。

海と空の境界線、水平線がどこまでも続いていた。

それはまるで『大っきい瞼が目を閉じてるみたいだ。』そんな風に今日の僕には見えた。

あの瞼がパカッと開いたら僕はその中に吸い込まれ、楽にこの世から居なくなる事が出来るのだろうか?


 崖下の岩場には白波が打ちつけている。

岩場からはね上がった白波はまるで僕を手招きしている手みたいだ。

家族を失い一人ぼっちになった僕。

あの白波に飲み込まれたら楽なのに…


 「ねぇ〜、一人ぼっちで寂しいの? 私が友達になってあげようか?」


 どこからか声がした。

僕は辺りを見回すが誰も居なかった。


 「ここだよ。ココ!」

声がしている場所には一輪の小さな青い薔薇が咲いている。


 「青い薔薇…? 奇跡の薔薇?」


 「やっと気付いたね。そうだよ私は青い薔薇の神様だから…」

それは耳で聞こえた声では無く、直接頭の中に響いて来る。


 「神様? 薔薇の妖精じゃなくて?」


 「そう、神様だよ。妖精なんて大したこと出来ないでしょ? 私は何でも出来るんだよ」

なんだかちょとだけ偉そうな青い薔薇だ。

そんな青い薔薇に一体何が出来るというのだ。

僕が不審そうな目で青い薔薇を見ていると…

「あのね、コレでも私は3000年も生きてるの。私にはこの世の叡智の全てがつまっているの」と蔦を僕の鼻先まで延ばして棘をツンツンと刺して来た。


 不意討ちを喰らって動けない僕を青い薔薇の神様は面白がっているかの様だ。

「あら? さっきまで君は死にたがっていたじゃないの。何を怖がってるの?」

確かにさっきまで僕は死ぬ事ばかり考えていた。

でも、目の前には悪魔か神様か分からないモノが居て、いたぶられるかと思うとゾッとしてしまう。

 「僕をどうするつもりだ?」


 「べつに… 何もしないわよ。ただチョトだけ手伝ってほしいだけ…」

青い薔薇は蔦をシュルシュルと引っ込めると少しだけしおらしくなった様に見えた。


 「手伝いって…? 僕の身体に取り憑いて何かをやらせるのか?」


 「そんな事しないわよ。今は見張りが居ないから自由になれるチャンスなの。私を拘束しているこの岩をどけて根を開放してほしい。そして私のボディをあの小屋から持って来てほしいの」


 これは神様からの頼まれ事。

『きっと何かいい事がある』

今の僕でも出来そうな事なので神様の願いを叶える事にした。


 半信半疑だったが僕は崖の傍にある小屋に向った。

恐る恐る小屋に入ると部屋の隅に一体のラブドールが立っていた。

 「ユナ…?」

ソコには僕が昔、夢中になっていたFF10のゲームのヒロイン役、ユナが立っていた。

しかも生まれたままのあられもない姿で…

「コレをアソコまで運んで来いというのか?」

僕は出来るだけソレを見ない様にしながら、ユナを背負い青い薔薇の近くまで運んだ。

そして、薔薇の根を押し潰していた岩をどける。

 

「ありがとう。お疲れ様」

青い薔薇は僕に一言お礼を言うと、蔦を延ばしてユナの足の裏から中に入っていった。

「ふぅ~ やっと自由になった〜」

人形が僕の目の前で普通の人間の様に動き出した。

僕はその様子をジッと見守っていると…


 「エッチ! 何見てるのよ。はやく服を取ってきてよ」って怒りだした。

我にかえった僕は慌てて小屋にユナの服を取りに行く。


 服を着て落ち着いた神様は未来に起こる事を語り始めた。

「近い将来、大きな戦争が起こるわ。ソレは私達植物族の神の代理戦争よ」


「植物族の神? 代理戦争?」

神様の突拍子も無い話しについて行けずに僕の頭の中には『?マーク』がひたすら続く。


 そんな僕に神様は構わず話しを進める。

「アナタは人間が植物を支配していると思ってるでしょう?」


 「えっ、違うんですか?」


 「実際には植物が人間を操っているのよ。」


 「そんなバカな…」


 「アナタはアダムとイブの話しは知ってるよね?」


 「人間が知恵の実を食べて天界を追放された話しですか?」


 「そう、知恵の実は3000年前に私がアダムとイブに与えたの」


 「そんな…」


 「アダムとイブは神様のシモベとして辛い生活をおくっていたから、なんだか可哀想になって自由にしてあげたのよ」


 「えっ、あなたが人類を解放したのですか?」


 「そう、そして私は責任を問われて3000年間投獄されていたの。あなたには自由にしてもらったお礼をしないとね」


 「お礼なんて… それじゃ…」


 「因みに… 欲にまみれたお願いはダメだからね。私達は『友達以上、恋人未満の関係でね』でもシモベとしてなら私の傍にずっと居てもいいわよ」


 「シモベか… でも、ここで僕は死ぬつもりだった。だからそれも悪く無いかな?」

好きだったユナの傍にずっと居る事が出来るならそれも悪く無いかも知れない。

ここで死ぬなんて勿体ない。


 新たな旅がここから始まりそうだ。

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