忘却作家は旅をする
ふゆあめ
第一章:大きな旅の小さな始め
第一話:再び旅に出る
大地に立ち中にいる人々に安寧を与えている城壁、平和を具現化したようなゆっくりと流れる川、乾いたレンガが所狭しと並んでいる建物、無秩序に動く人々、城壁内に威風堂々と
この世界にはそんな都市もあるだろう。
そんな都市の城壁を超えて道をたどっていと、清純な空気に包まれた草原、巨大な森や川、穏やかな農村に漁村、他の領主が統治する別国家に続いていく。
この世界には
そんな世界のとある道の途中にある花や林業の小さな集落"レヒル集落"に
ひとりの表情の少し乏しい少女が居た.......
「行ってきます、またね。」
乱雑に散らばった筆記用具と紙が支配している空っぽの部屋にそう語りかけながら家をでる。
美しき白髪に空を映したような澄んだ水色の目を持つ少女、
名を"レーテ・ヴォロフォニア"としている。
彼女には記憶がない。
名前も覚えておらず、レーテ・ヴォロフォニアというのは偽名であり、今は真名である。
彼女は自らの記憶を見つけるために旅をする。
紙の束、ちょっとした筆記具、困らない程度の資金、その他雑多な冒険用具...
それらを空間収納魔法で持ち歩き、旅の最中に記憶の記録としてメモを取る。
その書き留めたメモを、本として販売し生活の糧としている。
そんな彼女の大きな旅の小さな始まり
彼女は住んでいる街を出発し、行ったことのない国を目指し歩みを始めた。
レーテが歩みを進めていると馬車で旅する行商人に出会った。
せっかく出会ったのだ、何か買っていこう。
記憶と記録を欲する彼女がそう思うのは必然であった。
「こんにちは行商人さん。何か特産品なんか売っていませんか?」
「やぁ嬢ちゃん、特産品なんて大それたモンはないが、俺がさっき仕上げた干し肉なら売ってるよ。」
レーテは干し肉を購入した。
「なぁ嬢ちゃん、一人のようだが...どこに向かっているんだい?
いや、なに。
嬢ちゃんが一人でこんなところを歩いているのなんて珍しいからふと疑問に思っただけだ。
答えたくなきゃ答えないでいい。」
「いえ,,,ここから道を辿っていけばどこかの都市にたどり着けると思って、そこに行こうかなぁと思っているんです。」
「あー、リヒトホーテン王国の商業都市があるな。
俺も今そこに向かうんだ。せっかくだ、一緒に行かないか?」
思ってもみない展開にレーテは少し驚いたのだが、一人で向かうよりは心強いのは明白である。
そのため彼女は一緒に行く提案に頷いた。
レーテは行商人の馬車に乗って行商人とともに王国に向かっていった。
その道中レーテは行商人に王国について聞いた。
「行商人さん、そのリヒトホーテンっていったいどういう場所なんですか?」
「あの国は商人の国家でな、ありとあらゆる場所から様々な物が集まる。
なんてったってもあの国を治めているのは元商人であるホーテン王。王は商人達に免税したりして国内での活動を支援してくれんだ。
だから俺たち商人にとっちゃあ天国みたいな国ってことだな。
あと、俺の名前はジェラン・モライティニス。
行商人じゃなくて"ジェラン"って呼んでくれ。」
「ジェランさん...」と小さく呟きながら聞いた話を紙に書きつつ、レーテは時間つぶしもかねて会話を続けた。
「ジェランさん自身もあの国はとても心地よいのですか?」
「もちろんだとも。新たな販路も開拓できるだろ?それに、友達といっても商売仲間だが、そんな人たちもたくさんいるんだ。
あの国は海に面していてな。海路からでけぇ商船に乗って街規模の大きな商人の集団もくるんだ。
他国への道の整備もしっかりしていて移動もかなり楽だし、商人だった王は持ち前の交渉術で他国と外交もしていてな。それのおかげで王国からの輸出入はかなり関税が低く抑えられているんだ。」
「本当に商人にとっては天国のような国ですね。」
「ただな嬢ちゃん、あの国は新興国だ。こういう時はだいたいな新興国なのに繁栄していることを気に食わない者やホーテン王に嫉妬する者もいるってもんだ。
さらに言えば、ホーテン王はかなり昔は悪徳な商売をしていたなんて言う噂もある。
ま、お偉いさん方が分からないなら俺たちが考えてもどうもできんがな!」
ガハハと豪快に笑ってジェランはそう語る。
「ははは.......それもそうですね...」
そう言ってから二人の間にはびゅうと、風の音が聞こえた。
「なぁ、嬢ちゃん。すっかり忘れていたんだが名前を聞いていなかったな。
名前、なんていうんだ?」
静かな雰囲気を断ち切らんと、ジェランは質問をした。
「あ、そうでしたね。えっと、私はレーテ・ヴォロフォニアといいます。」
「レーテちゃんか、いい名だな!ま、俺は嬢ちゃんと呼ばしてもらうがな。」
ジェランは再びガハハと笑って、二人は会話を弾ませながらリヒトホーテン王国に向って歩みを続ける。
少しの時間が経ち空気がひんやりとしてきだした夜。
「そろそろ就寝する準備をしないとな...
嬢ちゃん、ここらで就寝するってのはどうだい?」
そうジェランが問いかけた。
あっという間に時間が経過したという事実に少し驚きつつ、レーテは頭を縦に振った。
「俺は荷台を使って寝るが、嬢ちゃんはどうするんだい。」
「私は持ってきた就寝用具で寝ますよ。」
「収納魔法に就寝用具みたいな大きな荷物が入るのかい?」
「はい、私は見ての通り小柄な見た目ですから。」
「は~、収納上手だな。」
レーテは何もない空間から少しだけ大きな布切れと少しの穀物が入った麻袋を取り出した。
「おいおい、嬢ちゃん。そんなので寝ようってのかい。」
「ええまぁ、そうですが...」
「それじゃ寝ている間に疲れがたまっていくぞ。布、貸してみろ。」
布を差し出す。
「俺の予備の就寝用具を貸してやる。地べたで寝るよりはましなはずだ。」
そう言って足の着いた木製の骨組みに二枚の布を括り付けて担架のようなものを作製し、渡してくれた。
「あ、ありがとうございます。」
「睡眠には多少なりとも気を遣えよ?翌朝が全く違う。」
「明日の朝から動けば、昼飯前にはリヒトホーテンに着くな。
さ、とっとと寝て明日に備えか。じゃ、おやすみさん。
..........って嬢ちゃん、何やってるんだい必死にメモとって」
「いえ、自分の寝る前の状態を記録しようと思って。」
「なんだ?持病でもあるのかい?」
「いえ、そういう訳ではないのですが
これをしないとどうも寝つけなくて...」
「ふーん、ま、誰にだって寝る前のルーティンはあるもんだ
嬢ちゃん、それ終わったらゆっくり寝ろよ!」
そう言い、ジェランは荷台に入った
「んじゃ、おやすみ。」
荷台からそう聞こえてレーテは「はい、おやすみなさい。」と返事をしたがジェランからの返答はいびきであった。
その後、レーテも借りた簡易なベッドで眠りについた......
翌朝、まだ涼しい朝の風とおぼろげな朝日にレーテは目を覚ました。
普段の旅より体が軽い気がした。
「やぁ嬢ちゃん、おはようさん。」
「おはようございます、お早いですね。」
「朝になればここの道を通る人もいるだろうと思ってな、ちょっとばかり早めに起きて商いをしていたんだ。」
「さすがは商人さんですね。
因みに売り上げはどうでしたか?」
「嬢ちゃんの寝顔効果でいつもより売れたさ。」
「はは...それは良かったですね。」
レーテはそう返事しつつ、朝の身支度をすました。
「さ、出発するぞ。」
そうジェランが声をかけて二人はまた、リヒトホーテンに向って歩み始める。
太陽が真上に上ってきた頃、レーテたちの周りに人が増えてきた。
大抵は商人で、リヒトホーテンに近づいてきたのだと体感させてくれる。
さらに進むと巨大な壁が聳え立ち、城壁近くで人々の列で形成されていた。
レーテたちはその列の最後尾に並んだ。
「ジェランさん、この列はなんですか?」
「これか?これは、リヒトホーテンに入るための列だ。
リヒトホーテンに入るためには入国審査を受けなきゃいけないんだが、いつもはここまで待つことはないんだがな...」
「そうなんですか?商人さんがたくさん出入りするならこれくらいの列になりそうなのですが。」
「リヒトホーテンは一度入国した商人に対して入国許可の旨がかかれた商人入国許可証をくれるんだ。これがあると次に入国するときに一部の審査だけで入れるようになるんだ。
しかもだな、何度も入国したり国内で活躍したりして信頼を構築していくと特定商人入国許可証がもらえて審査なしですぐに入れるんだ。」
「本当に商人に力を入れている国ですね。
じゃあ、どうしていまこんなに並んでいるのしょうか...」
「要人が来ていて入国審査が厳重なのか、嬢ちゃんみたいな入国許可証がない人がたくさんいて入国審査に時間がかかっているかのどっちかだと思うな。」
「なんだか申し訳ないですね......」
「なぁに、一人くらいならすぐに審査も終わるさ。」
そんな話をしていたら前方から「おーい」と言う声が聞こえてきた。
「ドヴェール!久しぶりだな。」
「ジェラン!会いたかったぜ!で、そっちのちっちゃい女の子は?
さてはお前...」
「おいおいやめてくれよ。俺に限ってそんなことすると思うか?」
「それもそうだな。仕事好きなお前はそういうことはやらねぇもんな。
で、その子は何なんだい?」
「旅をしているらしくてリヒトホーテンに向っている途中で出会ってな、リヒトホーテンに歩いていくっていうもんだからせっかくだし一緒にここまで来たんだ。
嬢ちゃん、彼は俺の親友のドヴェールだ。」
「初めまして、私はレーテと言います。ジェランさんのご厚意でここまで連れてきてもらいました。」
「はー、ちっさいのに旅だなんてね~」
何か引っかかったのか、すこしむすっとして
「身長は小さいですが大人です。」
と言った。
「あぁ、わりぃわりぃ。
紹介があったが俺はドヴェール、ドヴェール・ブレンデル。こいつの親友だ。
この国の"ホーテン商会"で輸出入の管理をやってるんだ。」
「商会の管理人さんがどうしてこんなところに?」
「ちょうど休憩もらってんだ。ジェランがこの時間に来るって言っていたから門ら辺のところで待っていたんだが、初めて来るでけぇ隊商が来たもんで入国審査が詰まってな。
で、このまま待っていたら休憩が終わっちまうと思ってここまで来たんだ。
何せ久しぶりに会えるもんだからな。」
成程と小さく相槌をうちつつ三人はそんな雑談をしていたら、詰まりが解消したのか列がどんどんと前に流れていった。
自分たちの番が近づいてきた頃
「順番も近いし、俺は先に入っておくよ。国民は城門の横のあの小さな扉から入れるからな。」
と、颯爽と城門の中に入っていった。
城門に近づくにつれてレーテは緊張をしているようである。
「嬢ちゃん先に行っていいぞ。
入国許可証持ちとそのほかは一緒に審査できないからな。」
そんなやり取りをしている間にも列は進み、次はレーテの番だ。
「次、奥の部屋まで進み審査を受けてください。」
門衛が声がレーテの緊張を最大まで押し上げる。
レーテは門側に作られた入国審査場まである生き方が分からないかの如く歩いて行った。
部屋に入ると
そこには女性の入国審査官がいた。
「ようこそリヒトホーテンへ。」
愛想の良い話し方だが、その目は作業そのものである。
「名前は」「レーテ・ヴォロフォニアです」
「入国目的は」「旅の途中で立ち寄ろうと思って」
「滞在期間は」「数日間の予定です」
「持ち物はそれだけではないですよね」「はい」
「念のために持ち物を検査します。
危険な物や特定の物は持ち込みできませんので、今から持ち物検査をするために収納魔法を強制的に解除させます。ついて来てください。」
そう言って入国審査官はレーテを城門の審査室併設の個室まで連れていく。
「では、少し失礼しますね。」
そう言うと、突如として足元に物が撒かれた。
その持ち物はレーテが持っていたものと同一である。
(この国はこのの魔法なら強制解除できるのか...?
しかも術者なしで完全に解除させるとか、学問も進んでいるな...)
「お体の方もチェックさせていただきます。失礼しますね。」
そうして、諸々の審査を終えると。
「はい、大丈夫です。この紙は出国の際に必要になります、大切に保管なさってください。リヒトホーテンにようこそ!良い旅を」
そういって入国証明書と書かれた数字の記された丈夫な紙のようなものをもらい、無事に入国ができた。
審査室を出てそのまま城門の中に入っていくと、ジェランとドヴェールが居た。
「嬢ちゃん!こっちだ。無事に入国できたようだな。」
「はい、ジェランさんありがとうございます。」
「お嬢ちゃん、これからどうするんだ?」
「この国の中を探索でもしようかと思っています。」
「だったら俺についてこないか?商人としていろんなところ回るからな。案内もできるぞ。」
願ってもない提案に
「お願いします。」
と喜々として返事をした。
もう少し、ジェランとの旅が続くようだ。
———『また、旅に出た
しかし、今回は運のいいことに行商人のおじさんに出会えた
名前はジェラン・モライティニスというらしい
素性をあまり語っていない私を馬車に乗せてくれる彼は優しい人というより警戒心がなさすぎるような気がする...
ただ、彼の押し寄せてくる活気は知らない間に私の警戒心をも解いてしまうらしい
それほど元気で楽し気なおじさんだ
彼から、私が向かっているのはリヒトホーテンであると教えてもらった
まぁ、何かの縁だと思ってお世話になろう
せめて手伝いはしないと...』
———『リヒトホーテンに着きそうだ、彼から沢山この国に関する話を聞けて飽きのない楽しい道中であった
彼の友人にも会ったのだが、友人も彼の快活さに好印象なようだ
同じ人間同士がひかれあうのだろうか
その友人も活気にあふれている』
———『リヒトホーテン王国に無事には入れた
とても緊張してしまった。何か無礼を働いていないだろうか
何度か旅をしていても初めての国に入国するときは緊張してしまうな
ジェランは国内を案内してくれるという
まだ彼にはお世話になりそうだ
この国は商売だけでなく学という面も優れているようだ
なにか私の記憶につながるものはないものか...』
……レーテのメモより
忘却作家は旅をする ふゆあめ @fuyuame0314
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