バレンタインチョコは、辛くて、苦くて、鉄の味

永寝 風川

プロローグ

バレンタイン。

それは、大切な人に自分の思いを届ける日。

と、私は思っている。


だから、今私は....


「ねぇ!どうして逃げるの?ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ!」


暗くなった校舎の中で、好きな人を追いかけている。

コツ、コツ、と私がゆっくりと歩く音と、カツカツと好きな人が小走りで逃げていく、そんな気持ちいい2つの音が暗い校舎で交わって、響いていた。

そのリズムが耳に残り何度も頭でリピートされ更に心地よく感じる。だってここには2人だけ。今私たちは交わってるも同然。しかしまだ愛は伝わって居ない。

少し焦ってしまう。私の思いは溶けないけれど、ポケットに忍ばせている思いチョコは溶けてしまうのだ。


もしも伝え切る前に溶けたらどうしよう。


そもそもどうして逃げるの?私はこんなに好きなのに。思いを伝えたいだけなのに。愛しているのに!


「逃げるなっ!」


焦りからか、痺れを切らして声を荒らげると。私の愛してる人はゆっくりと私の方を振り向くき、ゆっくりと口角をあげた。


その顔を見て美しいと思った。だって、顔に一目惚れしたんだから。

あの時はこんな顔をしてくれるとは思わなかった。しかし今確かに見せてくれている。これは...私を誘ってるんだ。つまり...鬼ごっこがしたいんだね。


分かった。なら捕まえてあげる。


ドキドキと心臓の音が高鳴り身体中の血が早くなるのを感じる。その綺麗な体を傷つけたくはなかった。だけど捕まえてみて、って誘惑されてるなら仕方ないよね?


そう考えると脈打つ音が更に早くなる。貴方から滴る血が見たくなる。興奮を抑えきれず我慢ができなくて、手のひらにチョコで作られた子供包丁を作り出す。

作り出した瞬間。甘い匂いが鼻腔をくすぐり。少しでも強く握ると溶けてしまいそうな感触が、目の前に移りひらりひらりと揺れて誘惑する好きな人に似ていると感じてしまった。

この後どうするか決めるように、ぎゅっと力を込めて子供包丁の持ち手を握るとタイミングを計って綺麗な足に向かって投擲した。




今日はバレンタインデー。チョコが舞。ナイフとナイフが火柱を散らしながら混じり合い。甘いチョコと鉄の味がする液体が混じり合う。

乙女心と乙女心はぶつかり合って片方は溶けてゆく。

残った少女はありったけの勇気と愛を振り絞って、好きな人に自分の分身と言えるチョコを捧げる。

辛い事も、苦い味もあるだろうけれどそれはしょうがないと割り切って、次に進む糧とする。時々思い出してときめこう。そして伝えよう、あの思いを再び。もしくは別の人に。今度こそ、愛してるって。

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バレンタインチョコは、辛くて、苦くて、鉄の味 永寝 風川 @kurabure

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