後編 犬島さんちの愛のカタチ

 ―― 2025年 2月 ――


僕と丑之介うしのすけは、9歳になった。


最近、敦司あつしは、琥珀姉こはくねえちゃんに代わって、お兄ちゃんらしく、一生懸命いっしょうけんめい僕と丑之介の世話を焼いてくれている。


僕は、琥珀姉ちゃんに会いたくなると、敦司が描いてくれた琥珀姉ちゃんと僕の2ショットのイラストを見て、琥珀姉ちゃんとの思い出を振り返るんだ。


僕は琥珀姉ちゃんと同じで生まれつき心臓が弱い。丑之介は生まれつき右膝みぎひざが悪い。 敦司は、ADHDとASDの特性がある。パパは車椅子の生活をしている。ママは1番元気だけど、コレステロールが高めで女子力じょしりょく低め。


パパを育ててくれた盛子婆せいこばあちゃんは、70歳ななじゅうを超えてもまだ元気にバリバリ働いているけど、早期胃そうきいがんで内視鏡手術ないしきょうしゅじゅつを受けた。


僕の家族は、全員個性的!


市役所のケースワーカーさん、基幹相談室きかんそうだんしつ社会福祉士しゃかいふくししさん、介護福祉機関かいごふくしきかん医療機関いりょうきかんの多くの人からのサポートも受けて生活をしている。


パパの主治医兼しゅじいけんホームドクターの塩塚しおづか先生と、 往診専属看護師せんぞくかんごし蒲池かまちさんの訪問診療を中心に、 塩塚先生の指示で、 ケアマネージャー・本山もとやまさん、 介護ヘルパーのサービス責任者・キャンベルさん、 介護ヘルパー・はらさん、 訪問看護師・山川やまかわさん、福祉用具担当者ふくしようぐたんとうしゃ岩下いわしたさんのチームと市役所の担当さんとほかの科のお医者さんや看護師さんや多くの医療スタッフさんとの連携れんけいで、パパの健康が守られているんだ。


僕ら兄弟は、市役所のワーカーさんや基幹相談室きかんそうだんしつ社会福祉士しゃかいふくししさんとせんとアンドリュースクリニックの慈朗じろう先生と、慈朗先生の病院で働いている発達障害はったつしょうがい権威けんい北山きたやま先生によって健康が守られている。


愛犬三郎は、せんとアンドリュース動物クリニックの慈衛じえい先生によって健康が守られている。


元気なのは、ママだけ。


家族全員が、無理のない範囲で《くふう》しながら暮らしている。


それが、僕の家族。


―― 2025年バレンタインデー ――


犬島家いぬじまけダイニングキッチン。)


菊一郎:「ながちゃん、メジャーな感じの夫婦ぱーとなーになれなくて、ごめんね。Chuchumerちゅーちゅーまー東野偏来とうのかたこがテレビで……。障害者は私たちの税金で生きているって言ってたけど、僕は社会の脛齧すねかじりなのかなって、思うと気持ちがしずんじゃうんだ。」


長子:「きくちゃん、気にするな!東野偏来とうのかたこは、極端な発言をにしてるんだから。」


菊一郎:「僕、みんなと同じ様にスタスタ動き回れないし、みんなと同じ様には稼げないでしょ? 障害年金も貰わないし、今できることを頑張ろうと思っても、お金にはならないライフワークだし。長ちゃんに経済的に何時いつもおんぶにっこで、ごめんね。」


こうべれる菊一郎。)


長子:「なんで菊ちゃんが謝るのよ? べつに私、困ってないし! むしろ私の方こそ、家事とか苦手だから、菊ちゃんや子供たちに助けてもらってるよ? だいたいさ~、そもそも、セクシュアリティが他の人と違っていても、障害があっても、持病があっても、菊ちゃんはの役に立ってる! 障害年金もいただいてない! 我が家では全く問題ない! 誰がなんと言おうとも気にしなくて良い!」


菊一郎:「東野偏来とうのかたこがテレビでトランスジェンダーは海外では自己申告じこしんこくだから、自分の都合で男になったり女になったりして、ズルいと思うって言ってたけど、僕もズルい人間なのかな……。」


長子:「菊ちゃんは、ズルくないよ! 逆に不器用ぶきようすぎる人間ひとでしょ? 私と子供たちにとって、大切な家族なんだから! 私たち家族のおもいを否定することは誰にもできないんだよ?」


菊一郎:「僕は、自分の性別でとくをしようと思ったことなんてないの。僕は、自分が何者なにものかをただ知りたかっただけ。男になろうとしたり女になろうとしたりして自分の性をただ認識にんしきしたかっただけなんだ。


僕は結局、って、自己認識じこにんしきしただけだった。


僕らは自分で自分の性別を確認することも許されないのかな…… 、と思うと気持ちが沈んでくるの。」


長子:「部外者ぶがいしゃは好き勝手なことを言っても、なにをしてくれるわけでもないし、リアルで会ったこともないんだよ? ただ口先くちさきだけでアーダコーダいう人の言葉を気にしちゃダメよ!」


(長子は菊一郎を叱咤激励しったげきれいし続ける。)


(肩をふるわせうつむく菊一郎。)


長子:「障害者や持病がある人だからといって、全ての障害者や持病がある人が仕事ができないとか弱者だとか決めつけて、障害者や性的少数派の人や介護を要する人たちを、自分たちが養ってやってるんだと言って上から目線で見下して見ている人が多い世の中の風潮ふうちょうが悪いのよ!」


菊一郎:「僕のせいで、子供たちや長ちゃんが、嫌な気持ちになっていたらと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになるの。」


(声がふるえてくる菊一郎。)


長子:「セクシュアリティが他の人と違っていても働けるし、障害があっても、持病があっても、介護を要する人であっても、通勤することは難しいかもしれないけれど、在宅ワークの場があれば働ける人は沢山いるのに!」


菊一郎:「長ちゃんが言うように、セクシュアリティが他の人と違っても働いている人はいるよね。障害があっても、持病があっても、介護を要する人であっても、在宅ワークの環境が整っていたら働ける人は沢山いる。」


長子:「そうなの! PC入力作業ぱそこんにゅうりょくさぎょう、プログラミング、投資、ヒーリング、占い相談相手、音楽制作、mixingみきしんぐうたみた、ナレーション、アナウンス、文芸、校正や編集、装丁そうてい、絵画、イラスト、動画・映像編集、HP制作ほーむぺーじせいさくやキービジュアル制作などのウェブデザイン、お料理のレシピやメニュー作りなどの各分野かくぶんやの仕事が得意な人も沢山いるんだから!」


菊一郎:「働くことは環境が整えばできるけど……。僕は、知らないうちに誰かを傷つけているかもしれない。 人間ひとに対して恋愛感情れんあいかんじょうかないみたいだし、過度かどなスキンシップも無理なわけで。子供をさずかるのも、多くの人の手を借りなきゃなわけで……。


ふみちゃんとながちゃんは、そんな僕と結婚してくれて家族になってくれたけど……。僕は、自分の心が男性なのか女性なのかもよく分からないし、僕の大好きってほかの人とは違うみたいだから……。


史ちゃんと長ちゃんの気持ちを傷つけちゃっていたかもしれない。そう思うと、申し訳ない気持ちになる。洋服を着ている人とのハグは大丈夫だけど、握手あくしゅ抱擁ほうようもキッスも無理だし……。他所よそ夫婦ぱーとなーとは全く違うから……。」


長子:「あのさ菊ちゃん、知らない間に誰かを傷つけているかもしれないのは、五体満足ごたいまんぞくな人にも、メジャーなセクシュアリティの人にもある話だからね? 菊ちゃんだけがっていう事じゃないんだよ? 性的少数派の話もね、そもそも、世の中が2なの! 分類ぶんるいするならもっとこまかく分けなさいよ! って話なの。」


菊一郎:「確かに、性別の分類は、もっと細かく分けられていたら助かる。」


長子:「でしょ? 男性の肉体を持つ人を更に、心が男性、心が女性、心が男性でも女性でもない人、心が男性でも女性でもある人、心の性別が分からない人に分けちゃえば良いだけじゃないの? 女性の肉体を持つ人も同様に分けちゃえば良いだけでしょ?」


菊一郎:「僕もれは昔から考えていたのよ。

僕の経験なんだけど、男性とも女性とも一緒に入るのに抵抗があったの。


例えば、集団行動でお風呂の時間が60分ある時、男の体を持つ人は男風呂、女の体を持つ人は女風呂に分けるまでは良いけど。


更に、心が男性、心が女性、心が男性でも女性でもない人、心が男性でも女性でもある人、心の性別が分からない人の5グループに分けて、60分を12分ずつに分けて、順番に入れたら良かったなぁ……、と考えていた。」


長子:「私もそう思うけど、思っているだけでは、なにも変わらないんだよね。 多く人が声をげれば、大きな変化はなくても、少しは世の中の風向かざむきが変わってくるかもしれないね。」


菊一郎:「長ちゃん、聞いてほしいことがある。1度しか言わないからね。


僕は、世間の多くのお父さんとは違うけど、子供が欲しくてみんなの親になった責任があるから、僕がまだ歩けていた頃は、子供たちがまだ小さくて危ないから、我慢して手をつないで歩いていたけど、結局、無理がたたって具合が悪くなって何度か入院しちゃったりして…。


だから、長ちゃんや子供たちには伝わってないかもしれないけど、僕は、子供たちも、長ちゃんも、サブちゃんも、育母かあさんも大好きなんだ。」


長子:「菊ちゃん、ありがとう! 私は菊ちゃんのその言葉だけで充分幸せだよ! 少しは元気出た?」


菊一郎:「うん!ありがとう! 元気出た! 長ちゃん大好き!人としてっ!」

(少しずつ前向きになる菊一郎。)


小腹こばらいてキッチンに行こうとしていた貫太が、菊一郎と長子の会話を偶々たまたま聞いてしまう。貫太は、父と母の言葉を思い出しめている様子ようす。)


貫太:「僕の家族は、障害や病気があっても、セクシュアリティっていうのがほかの人とは違っていても、サポートしてくれる人たちもいるし、家族が《くふう》したりして、沢山の問題を乗り越えているから、喧嘩をしても仲良しなんだね。僕は、犬島家のパパとママの子供に生まれてきて良かった!」


(貫太は、胸を張って、あがめるように父と母を見つめていた。)


2025年のバレンタインデー、いろいろなカタチの愛が生まれますように! 犬島貫太いぬじまかんたAB型えーびー山羊座やぎざ・(9歳きゅうさい) よろしくっ!。


―― ENDおしまい ――


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バレンタインデー企画 犬島さんちの愛のカタチ(前編・後編) たこやきこうた @takoyaki-cottasan

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