バレンタインデー企画 犬島さんちの愛のカタチ(前編・後編)

たこやきこうた

前編 犬島さんちの愛のカタチ

  ―― 2025年元旦の犬島家いぬじまけ ――


犬島家一同:「ハッピーニューイヤー2025! 貫太かんた丑之介うしのすけ9歳のお誕生日おめでとう!」


(ニューイヤー&バースデーパーティーの主役は双子の次男・貫太と三男・丑之介。


家族みんなで準備した和洋折衷わようせっちゅうの犬島家の正月料理が食卓に並ぶ。長男・敦司あつしが弟たちの為に作った大きなアップルパイと正月料理を家族全員で囲んで団欒だんらんする。)


貫太:「僕、赤い酢ダコのマリネ食べる!」


(赤い酢だこのマリネは、赤い酢だこをサイコロ状にカットして便利なお酢に漬け込んだ冷凍みじん切り玉ねぎと和えたものである。)


敦司:「かんちゃん、貫ちゃんが好きな牛肉あるよ? ママが焼いたローストビーフとしゃぶしゃぶ用の黒毛和牛!丑之介もジャンジャン食べなね!」


貫太:「食べる食べる食べる!」


丑之介:「僕、あっちゃんが作ったアップルパイ食べたい!」


敦司:「え?最初にアップルパイなん?」


丑之介:「なんで?ダメなの?」


敦司:「盛子婆せいこばあちゃんがよく言ってるじゃん、食べる順番、デザートは一番最後ねって。」


丑之介:「じゃあ何から食べたら良いの?」


敦司:「お正月料理は野菜少ないけど、野菜→肉・魚・卵などのたんぱく質→主食→デザートの順番に食べなさいって言われてるでしょ?」


丑之介:「たしカニ、カニカニ。」


貫太:「ねえ、敦司、何でその順番なん?」


敦司:「え、何だっけ?」


母・長子ながこ:「え……。敦司、意味わからないのに教えてたの?」


敦司:「”人間は忘れる生き物”なんだよ!」


父・菊一郎きくいちろう:「あっちゃん、それって……、あっちゃんの迷言めいげんですよね? ”人間は考えるあしである”っていうパスカル先生の名言めいげんなら聞いたことあるけど……。」


敦司:「え?そうなん? で、何で食べる順番があるの?」


菊一郎:「いろいろあるとは思うけれど、育母かあさんが言う意味は、うちって糖尿病の家系でしょ? だからこの順番で食べると急激な血糖値の上昇を防いでゆるやかに血糖値があがるからじゃない? あと太りにくい食べ方だからもあるかもね。」


敦司:「嗚呼ああ、なるっ!」


長子:「菊ちゃん、よく覚えてたね!流石さすが!」


貫太:「婆ちゃんは、いつ来るの?」


菊一郎:「朝起きたら、支度して来るんじゃない?」


丑之介:「お土産あるかな?」


長子:「うっしー、お土産がなくても、お婆ちゃんが来てくれたら嬉しいでしょ?」


丑之介:「うん! お年玉もらえる!」


敦司:「うっしー、 ホント、チャッカリしてるんだから!」


貫太:「敦司もだろ? 丑之介と敦司はいつもオネダリ上手だし……。」


敦司:「え? 俺も?」


(長子と菊一郎が、子供たちを見て微笑ほほえんでいる。


かたわらで白い柴犬の三郎が、ドッグフードメーカー”ヨネダ”のお正月メニューのごちそうをわき目もふらず一心不乱いっしんふらんに食べている。


幸せそうな年明けのようであったが……。貫太が、ふと悲しげな表情になる。)


貫太:「琥珀こはくお姉ちゃんがいたら…… もっともっと楽しかったね……。」


菊一郎:「だよね、でも琥珀いるよ? みんなのそばに。 僕には見えるよ。 きっと貫ちゃんにも見えるよ!」


長子:「菊ちゃんくらいに会いたい気持ちが強ければ、琥珀の姿が見えるかもね。」


貫太:「僕の方がパパより会いたい気持ち強いもん!」


(貫太の言葉に、涙ぐむ敦司と菊一郎。菊一郎はうるんだ瞳でかたわらに居た貫太をギュッとする。)


僕は犬島貫太いぬじまかんた。今日9歳になった。早生はやうまれの小学4年生。


僕のいえには、少しだけ年賀状が届いていた。


(玄関のインターフォンが鳴った。

カメラに映っていたのは、パパの育母いくぼ盛子婆せいこばあちゃんだ。)


貫太:「盛子婆ちゃん来たよ!」


敦司、丑之介:「盛子婆ちゃん、あけおめ~」


菊一郎:「育母かあさん、おめでとう!元気でいてくれてありがとう!」


長子:「お義母かあさん、あけましておめでとうございます!」


(愛犬三郎が盛子に飛びつきほおにペロチュウする。)


盛子:「あらやだ~、サブちゃん!大歓迎じゃんよ!」


盛子婆ちゃんは70歳ななじゅうを超えているけど、お仕事しているせいなのか、とっても若く見えるし小さくて可愛いんだ。


盛子婆ちゃんは、パパを産んだ智恵美ちえみさんの代わりに、パパとパパの双子の弟・葉次郎叔父ようじろうおじさんを育ててくれた人。正確には、パパの叔母おばだけど、僕らにとっては誰が何と言おうともお婆ちゃん。


盛子婆ちゃんは、毎年、元日には僕の家に、2日はお友達と駅伝を見に行って、3日に葉次郎叔父さんちに行くんだ。


僕の家には現在いまの家族の他に、天にされてしまった10歳年上の琥珀姉ちゃんと、同じく天に召されてしまったパパのじつのお父さん・竜也たつやさんが居たんだ。


竜也さんは、パパと葉次郎叔父さんが小2の時に、智恵美さんと離婚。だから苗字は‟山本”。


智恵美さんは、家事と子育ては苦手だったけど、犬島工業いぬじまこうぎょうを作った人で、お金を稼ぐのが上手だったらしい。


そんなわけで、盛子婆ちゃんは、若い頃からずっと智恵美さんの代わりにパパと葉次郎叔父さんを育ててきたから、お仕事仲間やお友達は沢山いるけど、1度も結婚はしていないんだ。


盛子婆ちゃんは、

「もしも、お婆ちゃんが結婚しちゃって、相手の人との間に子供が生まれていたら、お婆ちゃんがどんなに菊一郎や葉次郎が可愛くても、相手の人は同じように可愛がってくれるか分からないでしょ? 自分の子供の方が可愛なっちゃうかもしれないでしょ? そうしたら菊一郎と葉次郎が可哀想かわいそうでしょ? だからお婆ちゃんは結婚するのやめたの。」

って言ってた。


僕は、そんな盛子婆ちゃんが大好きだ。


――回想――


竜也さんは、大きな病気になって、東京愛宕会医科大学付属病院に通うため、しばらくの間、僕の家に住んでいた。


竜也さんは、すごくイケメンのお爺ちゃん“イケ爺”だったけど…… すごくケチ! ケチケチどケチ! 美味しいものをいつも自分の分だけ買ってきた。


僕のパパは、今はずっと車いすの生活をしているけれど、その頃はまだ、少しはつえをついて歩けていた頃で、おうちで書くお仕事しながら、家事とか僕たちのお世話とかしてくれていたんだ。ママもお手伝いしてたけど、竜也さんもお世話もしてたんだよ。


でも、竜也さんは、味の濃い食品や飲み物や、コンビニ食品が大好きでパパの作った栄養バッチリのご飯を食べなくて……。彼はママといつも喧嘩をしていた。僕は毎日嫌な気持ちだった。


長子:「竜也さん! なんで菊ちゃんが作ったご飯を食べないで、そんなの食べてるのよ! 菊ちゃんが折角せっかく、栄養バランスを考えて作ってくれてるのに!」


竜也:「俺の金で何を食おうが自由だろ!」


(長子をにらみつけ、コンビニの焼きそばをむさぼう竜也。)


長子:「竜也さんを心配してるんでしょう? 食事制限しょくじせいげんされてるでしょ? 塩分控えんぶんひかえてって言われてるよね? しかも、手術をひかえているんだから、体力も免疫力めんえきりょくもつけなきゃでしょう?」


竜也:「俺はもう、いつ死んだって良いんだ! こんなに彼方此方あちこち痛いのも嫌だし、こんな年寄りになって、ゾクゾクするようなイイ女が近寄ってこなくなった!」


長子:「どこまでスケベなジジイなんだよ! “どスケベジジイ”が!」


竜也:「毒嫁どくよめが!」


菊一郎:「は~い、そこまでよ~、 子供たちがビックリしちゃうからね! ハイハイ、ご飯にしましょうよ。 子供たちがおなかかせてるよ。 竜也さんは、食べないよりはマシだから、食べられるものを食べて良いよ。 ストレスも良くないし。 ながちゃん、お仕事で毎日疲れているのに、僕の気持ちを考えてくれて、ありがとうね! だけど、だけどね、 言葉が汚いわ……。 子供たちが真似まねしちゃうよ……。」


長子:「面目めんぼくない……。」


丑之介:「お腹空なかすいた。お腹空いた。」


琥珀:「うっし~、お腹空いちゃったね~。もう少しだから貫ちゃんと琥珀と遊んで待ってよう! あ、その前に、うっし~と貫ちゃんは、トイレを済ませましょう! さあ、行くよ! ゴーゴー、レストルーム!」


貫太:「琥珀姉ちゃん、待って待って! 置いて行かないで~。」

涙目なみだめになりながら琥珀を追いかけていく貫太。右膝みぎひざが悪いのを感じさせないほど素早すばやい丑之介は、ものすごい勢いで先を歩いている琥珀を追い越す。)


琥珀:「うっし~、早いね~。貫ちゃん頑張れ~。」


(あざとい笑顔で琥珀を見つめる丑之介。これが丑之介の必殺スマイルである。琥珀にはあまりかないが、長子と敦司には効果覿面こうかてきめんである。)


貫太:「うっし~、いやらしく笑わないで! 琥珀姉ちゃんは僕のお姉ちゃんなんだから!」


丑之介:「ん? なんで? 僕のお姉ちゃんだよ!」


敦司:「おい! 貫ちゃん、うっし~、そりゃおかしいだろ? 俺のお姉ちゃんでもあるんだ! 俺たち兄弟なんだから、琥珀姉ちゃんは、みんなのお姉ちゃんなの!」


菊一郎:「そうそう! あっちゃん正解! はい、ご飯にしよう!」


竜也:「俺はいらん、休む!」


長子:「まただよ……。」


(敦司の部屋の2段ベッドの下段に、横になってTVてれびを見る竜也。音声をスピーカーにして携帯電話をかけている様子。)


竜也:「もしもし、みやこ? 竜叔父たつおじちゃんだけど。」


竜也のめい・都:「竜叔父ちゃん? 体の具合はどう? 大丈夫?」


竜也:「体は相変わらず良くないな。それより、もっと悪いのは、長子!」


都:「え? どうしたの? 何かあった?」


竜也:「俺に向かって“どスケベジジイ”って言うんだぞ! それに好きな物も食わせてくれないんだ。ひどいもんだぞ、家事も菊一郎がやってるんだぞ! 酷い嫁だろ? なあ、都。」


(都は普段の声より2オクターブくらい高い声で同調どうちょうする。)

都:「わかるぅ~、わかるよ~、竜叔父ちゃん。竜叔父ちゃんが可哀想!」


竜也:「わかってくれるのは都だけだよ。都が一番可愛いなぁ。」


都:「竜叔父ちゃん、いつでも都が話を聞くからね~。 今度、みやこいえに遊びに来て~。子供たちも待ってるからね~。」


竜也:「都、ありがとうなぁ。あんな嫁とは別れるべきなんだ菊一郎は。前の嫁の史子ふみこ長子ながこ以上にべんって嫌なやつだったが……。 そう思うと、長子の方が少しはマシだが。」


(敦司が部屋に入っていく。)


敦司:「なに?悪口大会わるぐちたいかい? 楽しいの? スピーカーにしてるって言うことは、 わざと聞こえるようにしてるんでしょ? それって承認欲求しょうにんよっきゅう? 」


竜也:「敦司……。一体どこでそういう言葉を覚えるんだ?  」


敦司:「ネット!」


竜也:「なんあみだ?」


敦司:「竜也さん、マジで知らないの? インターネットだよ!」


(竜也の的外まとはずれな返答へんとうに爆笑する小学校4年生の敦司。)


竜也さんが僕の家にいた頃は、こんな毎日が続いていたんだ。


そして、竜也さんが、東京愛宕会医科大学付属病院とうきょうあたごかいいかだいがくふぞくびょういんで大きな手術を受けた後、いのち期限きげんを知らされたんだ。

命の期限を知らされた竜也さんは、智恵美さんと過ごしたおうちの近くのツムラ大学田方病院だいがくたがたびょういんうつって、天にされた。


竜也さんのお葬式は、パパと葉次郎叔父さんが中心になって家族だけでおこなわれた。


琥珀姉ちゃんが14歳、敦司は10歳、僕と丑之介は4歳の頃だった。


パパの体が不自由だから、ママは毎日夜遅くまで働いている。

ママは、開発技術者かいはつぎじゅつしゃで、毎日パソコンとにらめっこしていると言っていた。


ママの代わりに、僕よりも10歳年上としうえの琥珀姉ちゃんが僕たちの小さいママになってくれていた。


琥珀姉ちゃんと僕は、生まれつき心臓が元気じゃない仲間なんだ。


でも、琥珀姉ちゃんは僕よりも、ずっと大きな病気だった。


琥珀姉ちゃんは、家族の中の誰よりも早く、僕がドキドキしたり、胸が苦しい時、だまって僕のそばに居て手をにぎってくれていた。


僕は琥珀姉ちゃんの特別で、琥珀姉ちゃんは僕の特別だった。


お兄ちゃんの敦司は、とても個性が強い。ADHDとASDの特性があって、喘息ぜんそく持ち。勉強と片付けは苦手だけど、お料理上手りょうりじょうずで、ものづくりが得意なんだ。


琥珀姉ちゃんと僕ら双子が元気になるように、敦司は、お菓子やパンを作ってくれて、みんなで一緒に食べる。 敦司は、三郎用にも薄味のお菓子を作って振舞ふるまっている。

琥珀姉ちゃんがいない今も、ずっと敦司は今までどおりでいてくれる。


イラストが上手な敦司が、琥珀姉ちゃんの病気が酷くなった頃、僕のために、琥珀姉ちゃんと僕の2ショットのイラストを描いてくれた。敦司が描いてくれたそのイラストは僕の1番大切な宝物だよ。


竜也さんが天に召された後、いつもと同じ毎日に戻った。


―― 僕が5歳の2021年年末ねんまつ ――


(琥珀が発作ほっさを起こし、自宅で倒れる。)


菊一郎:「琥珀! しっかりして! 誰か来て! 早く!」


長子:「菊ちゃん、どうした? 琥珀?」


菊一郎:「長ちゃん、疲れてるところ申し訳ないけど、今すぐ車出くるまだせる?」


長子:「せんとアンドリュースクリニックね?」


うなずく菊一郎。)


菊一郎:「子供たちだけで置いていけないよね……。どうしよう……。」


長子:「みんな車に乗っけて行っちゃおう! 他の患者さんもいらっしゃるし、病院に子供たちは入らない方が良いから、駐車場に私が待機してるよ。子供たちをみてるから大丈夫!」


菊一郎:「ありがとう! 長ちゃん!」

(目に涙を浮かべる菊一郎)


―― 聖アンドリュースクリニック ――


琥珀と貫太の主治医・下山 しもやまアンドリュース 慈朗じろう院長:「う~ん、検査をしてみないと何とも言えないけど、心電図しんでんずしんエコーと血液検査をさせてもらって良い? お父さん。」


菊一郎:「よろしくお願いします。」


(ぐったりして意識がない琥珀がストレッチャーに乗せられ処置室に入る。)


―― 検査終了後 ――


下山 アンドリュース 慈朗院長:「お父さん、結論から言うと、残念ながら、もうこれ以上どうにもならない状況。


琥珀ちゃんは、元々もともと心臓が悪いから今回の発作で、本来ならば、それっきりだったかも知れない状況。この先いつ急変するか分からない状況だけど、琥珀ちゃんすごく頑張ってくれてる! 


状態が少し落ち着いたから、もう少ししたら目をけると思うよ。 これから先、入院治療もできるけど、在宅診療もできるから、どちらを希望するかを、ご家族でよく話し合ってみてください。」


菊一郎:「ありがとうございます。琥珀の希望を尊重そんちょうしつつ、家族全員で話し合ってみます。」


下山 アンドリュース 慈朗院長:「意見がまとまったら、お父さんだけ来てくれる?」


菊一郎:「はい。よろしくお願いします。」


聖アンドリュースクリニックで、慈朗先生とパパがこんな話をしていたなんて……。

駐車場に停めた車の中で、ママとChuchumちゅーちゅーむの“テルアキTVてぃーびー”を見ながら待っていた僕らには、全く想像もつかなかった。


―― 2022年元日がんじつ犬島家いぬじまけ ――


(琥珀のれからの治療をどうするか相談する犬島家一同。)

僕と丑之介の6歳の誕生日の日、琥珀姉ちゃんが、これから先、病気とどこでたたかうかを、家族全員で話し合ったんだ。


琥珀:「パパ、自宅療養じたくりょうようでも良い? 私、家族みんなのそばに居たい。」


菊一郎:「もちろんだよ、琥珀!あっ、 長ちゃんも、琥珀の希望通りで良い?」


長子:「良いに決まってるじゃん! 長ちゃんに任せろ、琥珀!」


琥珀:「ながちゃん……。 ママ、ありがとう!」


長子:「琥珀! なに? 今私いまわたしをママって呼んでくれたの? 」


(涙ぐむ長子。)


ママは敦司と僕ら双子のママだけど、琥珀姉ちゃんは、パパの前のパートナーの史子ふみこさんの子供なんだ。


僕のパパは、セクシュアリティが他の人とは違うから、僕たち姉兄僕弟きょうだいのパパになるために、南蒲田大学森田病院みなみかまただいがくもりたびょういんで、3回も赤ちゃんを作るたねを取り出す手術をしたんだって。


その赤ちゃんの種を、産婦人科さんふじんか人工的じんこうてきに琥珀姉ちゃんのお母さん・史子さんのお腹の中の赤ちゃんを作るたまごにくっつけてもらって生まれたのが琥珀姉ちゃんで、僕らのママのお腹の中の赤ちゃんを作る卵にくっつけてもらって生まれたのが、敦司と僕と丑之介だって、ママが言ってた。


その頃のパパは、もっと元気で、今のようにずっと車椅子の生活ではなかったんだ。


琥珀姉ちゃんの希望通り、家族の意見は全員一致で、琥珀姉ちゃんはおうちで治療を受けることになったんだ。


それで、聖アンドリュースクリニックの慈朗じろう先生が琥珀姉ちゃんの往診に来てくれることになったんだ。


――  5か月後のGWごーるでんうぃーく ――

 

琥珀姉ちゃんが天に召されてしまったのは、僕と丑之介が6歳のGWごーるでんうぃーくだった。


(昨日まで元気だった琥珀と突然のお別れ。家族全員が深い悲しみに打ちひしがれていた。


特に貫太と菊一郎は琥珀の死による喪失感そうしつかんが強く、食欲不振しょくよくふしん不眠ふみんが続いていた。)


僕とパパは、ご飯が半年以上も食べられなかった。夜もずっと眠れなかった。


パパの体は、どんどん弱っていって、しばらくのあいだ、寝たきりだった。


ヘルパーさんや訪問看護の看護師さんがいつもよりおうちに来ていた。パパの主治医の塩塚しおづか先生の往診もいつもより回数が多かった。


僕も元気が出なくて、学校をお休みしがちになっていたんだ。小学生の頃に学校をお休みしがちだった敦司が放課後、僕を聖アンドリュースクリニックに何回も連れて行ってくれたんだ。生まれつき右膝が悪い丑之介を、一緒に連れて行く日もあった。


敦司は僕に学校に行けとは1度も言わなかった。敦司だけじゃない、パパも言わなかった。ママも無理矢理引むりやりひきずって学校にれて行くような真似まねはしなかった。丑之介は、貫ちゃんが休むなら自分も休むと言って、学校をお休みしてしまう日があった。


僕がしばらく学校をお休みしていたら、幼馴染おさななじみももちゃん、みどりちゃん、ジム、トミーが、よく僕の家に来るようになった。幼馴染たちは、Minchendoみんちぇんどーのシュワッチというゲーム機を持ってきて、流行はやりの養豚場育成ようとんじょういくせいシミュレーションゲーム・酢豚すぶたトーンつーをみんなでやって帰っていくことをり返していた。


僕は、いつもパパと一緒にシュワッチで遊んでいるから、酢豚すぶたトーンつー腕前うでまえにも自信があった。


弟の丑之介は、僕が遊ばなくても幼馴染たちと遊んでいたけれど、ゲームは僕の方がはるかに上手うまいから、僕は、幼馴染のゲーム仲間から頼りにされるようになった。頼りにされると、嫌な気はしなくて、少しずつ楽しくなってきて、僕は元気になれたんだ。


それと、パパと一緒に酢豚すぶたトーンつーをプレイするようになって、パパになんでも話せるようになった。


 ―― NEXTつづく ――

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