エピローグ

エピローグ

 月曜日、わたしはねえさんの遺影の前で手を合わせる。

 数秒経ってから目を開き、床に置いてあったスクールバッグを肩に掛けた。

 それからいつものように、机に置かれているであろう千円札を財布に入れようとしたときだった。


 ――机の上には、千円札の代わりに小包みのようなものが置かれていた。


(……何だこれ?)


 疑問に思って、わたしは小包みを開いていく。


 ……出てきたのは、オレンジ色を基調としたお弁当箱だった。


 わたしは驚いて、その中身を見ようとして……でも、それをするべきなのは今ではないことに気付く。


「……ふふっ」


 口から、穏やかな笑い声が零れる。

 わたしはお弁当箱を元のように包んで、スクールバッグへと丁寧に入れた。

 歪な形になったスクールバッグに、優しい気持ちになる。


「……ありがとう」


 そう呟いて、わたしは玄関へと向かった。


 *


 扉を開くと、そこには――遠川詩が、立っている。


「え、は、何でいるんですか!?」

「ふふ、佐山さんに会いたくなったからに決まっているじゃないか」


 そう言って顔を綻ばせる遠川詩に、わたしは溜め息をつく。

 二日前のあの日、わたしの体調を心配した遠川詩はわたしを家まで送ってくれたのだが……まさかこんな平日の朝に、現れるとは。


「というか、わたしの家、高校、あんたの家……の順の位置関係だったと思うんですけど。めっちゃ遠回りしてませんか?」

「それくらい些細なことさ。さあ、高校まで一緒に行こう」

「まあいいですけど……」


 わたしはジト目で遠川詩を見てから、彼女の隣で歩き出す。

 遠川詩はどこか冗談でも言うかのように、わたしに告げてきた。


「ところで、佐山さん。あれだけ劇的な出来事があった訳だし、そろそろボクと付き合う気になってくれたか?」

「ああ、うん、なりました」

「そうか、相変わらず佐山さんはガードが固……ってええええええええええ!?」

「え、何でそんな驚いてんの?」


 首を傾げたわたしに、遠川詩は「だ、だって!」と慌てたように言う。


「そもそも佐山さんは、ボクのこと好きじゃなかったはずじゃ……!」

「え、一昨日の配信で言ったじゃないですか、あんたのこと好きだって。リアルタイムとか配信アーカイブとかで聞いてないんですか?」

「リアルタイムでは佐山さんを救う作戦に脳を全集中していたし、自分の声って自分で聞くと変な感じがするからアーカイブも見ていないよ! えっ告白されていたの、ボク!? ちょっと待っていてね、今アーカイブ全部見るから!」

「おいおいアーカイブ全部見てたら高校始まっちゃうだろ! ああもう、それならもう一回言いますよ」


 わたしが立ち止まると、遠川詩も合わせるように足を止める。

 赤面している彼女へと、わたしは微笑んで告げた。



「――――わたしは、あんたのことが好き」



 わたしの言葉に、遠川詩はさらに顔を赤くする。まるでトマトみたいだ。


「え……ほんとに!?」

「うん」

「ほんとのほんとに!?」

「はい」

「絶対に、嘘じゃない!?」

「そうだけど」

「神様に誓える!?」

「ああもううるせえ!」


 わたしはつま先立ちをして――遠川詩の唇を、奪う。

 柔らかな感触に、勝手に心臓が跳ねた。


 少しして、わたしは遠川詩から顔を離す。


「…………これで、わかったでしょ」


 ぼそりと言ったわたしに、耳まで真っ赤な遠川詩が口を開く。


「佐山さん……顔、トマトみたいに赤くなってるけれど……」

「あ、赤くなってねえし! トマトはあんただろ!」

「ボ、ボクトマトじゃないよ!」

「黙れトマト王子!」

「トマト王子!?」


 目を見張る遠川詩に、わたしは思わず笑ってしまう。

 遠川詩も、つられたように笑い出した。



 ――復讐のことばかり考えて、生きてきた。



 復讐を終えた先に何があるのか、ずっとわからずにいたけれど。

 でも、遠川詩が側にいてくれるなら、その未来は美しいような気がした。


 ダンジョン配信を憎む気持ちが全てなくなった訳ではないけれど、「サヤ」と「トワ」としてなら、再び世界に姿を見せてもいいのかもしれない。

 かつて巡葉恵が、沢山のリスナーに笑顔と幸せを届けたように。



 ――よかったね、と声がしたように思う。



 振り向いても、そこには誰もいなかったけれど。

 それがねえさんの声だということを、妹のわたしは知っている。



(完)


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 物語に最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました! 作者の汐海です。


 この作品を書く切っ掛けとなったのは、「あなたの”好き”が読みたい 百合小説コンテスト」の開催です。

 とある創作仲間さんに「一緒に出しましょうよ!」とお誘いを受け、気付けばこの物語が出来上がっていました。とある創作仲間さん、どうもありがとうございます!

 元々ダンジョン配信というジャンルが大好きだったので、今回初めて書くことができて嬉しかったです。新しいダンジョン配信の長編の構想も生まれたので、いつか形にできたらと思いつつ。


 コンテスト応募作品ということで、最後に作品フォローや☆評価で応援いただけますと、とても励みになります! ご感想もすごく気になるので、よければ応援コメントやレビューで教えてくださると、とても嬉しいです!


 佐山和歌たちの物語を見届けてくださり、改めて本当にありがとうございました。

 それでは、またどこかでお会いできることを祈りつつ。

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最強ダンジョン配信者「巡葉恵」の再来〜死んだはずの巡葉恵がカップル配信してるんだがどういうこと〜 汐海有真(白木犀) @tea_olive

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