第3話
マエリエは聖者の執務室を出ると、ざっと神殿内を歩いてみた。
匂いに誘われて、調理場へと向かう。
「本当に、今日来たお弟子さんはかわいそうだよ。偽物の聖者の弟子になどさせられて」
調理場には、年齢が様々な数名の女がおり、噂話をしていた。
「どういう事かな?」
「あっ、お弟子様。失礼しました」
女の一人である中年の女が動揺して応えた。
どうやら噂をしていた女らしい。
「偽物の聖者とは、どういうことだ」
「いえ、今となっては偽物というわけではないのですが。当時はかなり私どもの間では有名な話でした」
「話してみろ」
聖者は、言うまでもなく、世界中から選ばれた少年が幼い頃より英才教育を受け、その中から、選ばれる。
なんと、最初、カイリエには天啓がなかったのだという。
もっとも成績がよく。カイリエこそが真の聖者だという前評判で、本人も当然その気であった。
自分が選ばれるものだと、信じて疑っていなかったという。
周りの者の扱いも、他の聖者候補から一線を画していて、はっきり言えば、カイリエは、ちやほやされて育てられたのだという。
しかし、聖者を選ぶ天啓の儀の時、彼は、選ばれなかった。
今までの反動か、周りの者も、教団も、彼を単に選に漏れた聖者候補として扱いはしなかった。
徹底的に冷遇したのである。
精神的に二度と立ち直れないほどにまで彼を貶め。はっきり言えば苛め抜いた。
彼自身も、聖者に選ばれなかったことによって、打ちのめされていた。
「それは知りませんでした」
「ええ。聖者の選定に関する事は、教団の上の人たちや、聖者と親しい者にしか明かされないのですよ。選に漏れた時、色々ありますでしょ」
「しかし、それならば何故、今、カイリエ様は聖者に? 選には漏れたのですよね?」
女は困ったように、
「聖者様にはふたつのタイプがあるのです。神に選ばれるか。つまり、天啓を受けるか。それとも自分で昇りつめるか」
「昇りつめる、とは?」
「口さがない話はそこまでだ」
いかつい中年の男が調理場の入り口に立っており、話を制した。
「はい、料理長様」
女たちが仕事に戻る。
「お弟子様も、余計なことに関心はお持ちになられませんように。今、あの方は聖者です。それがすべてでございます」
マエリエは、すべてに恵まれているかに見えた聖者の暗い青春時代を見た心地がした。
聖者カイリエ 白河 遼 @freeGAM
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