いくらとは鮭やマスといった魚の魚卵を醤油漬けにした食品。いくら丼は文字通り丼に入れたご飯の上にいくらを盛り付けた至高の逸品。
プチプチとした弾ける食感と甘しょっぱい味わいが織りなす美味しさは格別。
我々庶民ではなかなか手が届かない高級品ですが、この世界ではさらに手が届かない。
政府による食料の統制で食べられるのはサイレントグミという、不味い代替食品のみ。
そんなディストピアな世界で主人公の少女はいくら丼の存在を知ります。
憧れは物語を二転三転させ、重厚でダークな世界の真実を浮かび上がらせていきます。
食べることは生きること。
人間の三代欲求の一つである食欲が、時にどれほどの力を持つのかを突きつける作品です。
ぜひご一読ください!
公開分読了記念に、心からの賛辞を込めてレビューを書かせていただきます。
まず何より、主人公ユーリの一人称に完全に惚れました。毒舌でユーモラス、なのにどこか切なくて、頭の中の幻聴AIとの掛け合いが、まるで翻訳文学のような独特のノスタルジーを醸し出しています。『異国の子どもが語る未来の記憶』とでも言いたくなるような、懐かしさと異質さの絶妙なバランス。
それでいて、SFとしての完成度が驚異的。精巧かつダイナミックな設定、魅力的なガジェットの数々、緻密に構築された舞台背景、そして宇宙開拓への憧憬が、物語の根底にしっかりと息づいています。月面開拓船の打ち上げシーンなど、映像化されていないのが信じられないほどの迫力と美しさ。
正直、弱点もあります。仕事帰りや休憩時間に6800文字のオープニングはなかなかこたえますし、脇役に尺を振りすぎて焦点がぼやける場面も散見されます。しかし、それすらもこの作品の魅力の一部。好きなキャラクターを見つけて、その人物を中心に追っていくと、物語の奥行きと設定の深さにどんどん引き込まれていく仕様になっているのです。
ぜひ、時間のあるときに一気に読み進めてください。SFが好きな人も、これから好きになる人も、どちらにも深い余韻と本当のカタルシスが体験できることを、私は心から約束します。
1章を読んだうえだ上のレビューです。
世界観や勢力の設定の作り込みの細やかさに圧倒されました。
なんといっても、ディストピアという世界の空気を出す事に優れている作品だと思います。
この作品はAIが登場するのですが、彼らの存在がこの作品の良さを際立たせているなと。彼らの、機会ゆえの無機質さが段々と「あぁ、これは生きている人も絶望するわ」と納得させるほどの説得力を持たせているなと思います。
世界が滅びているとかではなく、人が絶滅しているわけではないけれど、その世界に希望はない。
そういったディストピアを味わいたい人に是非。
自分もまだ一章しか読んでいないので、タイトルにもある「いくら丼」からどのように物語が発展していくのか楽しみです
第2章まで読了。
「いくら丼?」という軽やかな題に「はらぺこ少女と美人教師」で始まる気の抜けたキャッチ。
ほのぼのお料理教室と油断して手に取ったが運の尽き。
誰がこのハード展開を予想できるでしょう?
1話目を読み終えた時点で、完全に放心させられました。
まず「フードプリンタ」を始めとするテクノロジー描写が、自然かつ鮮やかに作品テーマを浮かび上がらせる。
そして「食べる」が「生きる」「選ぶ」へと接続し、個の小さな行為が社会の根幹を揺るがす物語へスケールする。
それがテンポとメリハリのある文体で描かれて、緻密にエスカレートしていきます。
その構造が見事過ぎて、筆者の深い洞察と筆力に唸りと鳥肌が止まりません。
読むたびに、いくら丼の味が大いに変わること請け合いな本作。
ぜひ、腰を据えてガツンと召し上がってみてください!