第27話 逮捕を逃れる条件


「璃ちゃん。今なんて言った?」

友成は驚きながら訊ねた。


「財櫃真珠、千戸浦和紗。貴方達を逮捕しますって言ったのよ」


「な、なんでだよ」


なんで二人が逮捕されないといけないんだよ。

意味が分かんねぇよ。


「あのね、この子達は犯罪を犯したの」

「犯罪?」


友成は財櫃と千戸浦に視線を向ける。財櫃と千戸浦は俯く。


「財櫃さんはメモリー・パラダイス地下にある施設に不法侵入して響野祥雲の情報データをコピーした。千戸浦さんはこのLBIをハッキングして情報を盗み取った」


「そ、それは俺を助ける為に」

「人を助ける為なら罪を犯してもいいの? それなら、大事な人を助ける為に人を殺してもいい事になるわよ」


網代はキツイ口調で言う。


「そ、それは違うけどさ」

違うけど、違うけどさ。それはあんまりだよ。


「何か言いたい事がある言い方ね?」

「……な、ないよ」


「そう。それならいいわ。君達、二人は言いたいことある?」


網代は財櫃と千戸浦に聞く。


「ないです」

「ありません」


財櫃と千戸浦は俯きながら答えた。


「それじゃ、二人には事情聴取を受けてもらうわ」

どうかしないと。どうかしなきゃ。俺のせいで二人が捕まるのだけは嫌だ。


「ちょっと待てくれよ。それなら、俺も捕まえてくれよ」


「何か罪を犯したわけ?」

「今から起こしてやる」


友成はベットから立ち上がり、ふらふらな足で網代に詰め寄る。


「遊止めてよ」

「あたし達、そんなの望んでないよ」


財櫃と千戸浦は友成を止めようとする。


「言うようになったじゃない。小さくて泣き虫だった子供が」

網代は友成を睨みつける。


「あの頃より身長も態度もデカくなったんだよ」


ここで引き下がる訳にはいかない。いくら、小さい頃に世話になった璃ちゃんでも真珠と和紗の為なら戦う。


「面白いじゃない。それじゃ、貴方達のこれからの人生を選ばせてあげる」


「人生を選ばせるだと」

「えぇ。一つ目はこのまま三人ともここで逮捕される」


「二つ目は?」


「三人とも私の部下としてLBI局員になる」


「俺達がLBI局員?」

「さぁ、どっちにする? 10秒以内に答えなさい。10.9.8」


網代は友成から離れて、数え始めた。

友成は財櫃と千戸浦に視線を向ける。


俺は後者を選ぶ。二人を守れるなら何でもする。

財櫃と千戸浦は頷く。


「7.6.5.4」

「俺達三人はLBI局員になり、網代璃帆さんのもとで働きます」


「……そう。後戻りは出来ないわよ」

「わかった上です」


「いい覚悟ね。なら、これはもう必要ないと」

網代は逮捕状を千切った。


「俺達は何をすればいいんですか?」

「そうね。三人ともベットに座りなさい」


友成達は網代の指示通りにベットに座った。

座り順は右から財櫃・友成・千戸浦の順。


な、何で、俺が真ん中なんだよ。


財櫃と千戸浦はまだ静かなままだ。仕方ないと言えば仕方ないか。逮捕するって言われてからすぐに元には戻れないよな。


「はぁ、疲れた。慣れない事するんじゃないわ」

網代は急に砕けて話し出した。


「本当よ。こっちが焦るわ」

菱乃が治療室に入ってきた。


「菱乃姉ちゃん? もしかして、話を聞いてたの?」

友成は菱乃に話しかける。

財櫃と千戸浦は驚いてる。


「そうよ。聞いてた」

「マジかよ」


助けに入ってくれよ。弟の一大事だったんだぞ。


「それにしても、いい男になったじゃない。すさびは。やっぱり、菱乃の教えのおかげね」


「まぁ、私のおかげしかないわ」

「自画自賛」

網代と菱乃は笑っている。


菱乃姉ちゃんに教えられて役に立ってる事ってそんなにない気がするんだけど。でも、今言えば殺されるだろうから言わないけど。 


「あのさ、二人共。俺らはどうすれば」

「これから、三人には色々と手続きをしてもらうから」


「わかった。いや、分かりました」

「すさび。そこまで、かしこまらないで。昔のままでいいから」


網代は友成の頭をポンポンと叩いて言った。


「わ、わかった」

「ごめんね。三人とも試すような事言って。元々、貴方達が何を言ってもLBIに所属させるつもりだったから」


「え?」


「財櫃さんと千戸浦さんのやった事はやっぱり犯罪だからね。このままだったら二人を捕まえないといけないの。この二人が捕まる事によって被害を受けちゃう人達が大勢居る。二人は有名人だし影響力もあるかね。LBIもそれは望んでない。だから、この二人がLBI局員として調査した事にすればどうにか処理出来るから」


「な、なるほど」


大人の世界だ。ズルい気がするけど、それで丸く収まるならいいや。


「すさび、貴方をLBIに入れる理由だけは二人とは違う」


「え?」


「貴方は仲間の助力があったとは言え、トラッシュ・ゲームを一度もゲームオーバーにならずに攻略した。それはLBIの精鋭チームでも簡単に出来る事じゃないの。LBIはそんな類稀な才能を戦力として引き入れたいの」


「そ、そうなんだ」


ちょっと嬉しいけど恥ずかしい。ここまで面と向かって評価される事ってあまりないし。


「まぁ、すさびに関してもご家族から先に許可をもらってるから拒否は出来ないんだけど」


「菱乃姉ちゃん?」


「仕方ないでしょ。今回と同じような事が起こったら『身体が勝手に動いたから』とか言って、飛び込ぶに決まってるでしょ」


「さすが、姉ちゃん。弟の事をよく分かってる」

反論の余地がねぇ。


「それに知らない人に預けるのは嫌だけど親友の璃帆だから信用出来るしね」


「何かしたらすぐに菱乃に連絡するから」


網代は笑顔で言う。


「は、はい」

それは止めてほしい。マジで止めてほしい。命がいくつあっても足りない。


「でも、あれだかね。遊。無茶だけは止めなさいよ」

「わ、わかっております」

菱乃姉ちゃんにしばかれるのだけは何があっても避けたい。





数時間後。

友成達は網代に連れられて、ゲーム犯罪科司令室の前まで来た。

菱乃は友成達を網代に預けて、日本本土の実家に帰った。


「ここが貴方達が所属するゲーム犯罪科の司令室になるわ」

ゲーム犯罪科司令室のドアが自動で開く。


網代がゲーム犯罪科司令室に入っていく。友成達はその後についていく。


ゲーム犯罪科司令室の壁一面にモニターが何枚も設置され、その前の長テーブルの上にはディスプレイとキーボードが6台ずつ置かれている。長テーブル前の椅子にバイオレットアッシュのベリショートパーマの女性とグリーンアッシュのロングヘアーパーマの女性が座っている。


部屋中央には丸テーブルがあり、丸テーブルの真ん中には3Dホログラフィーマシンが備え付けられている。


「有梨寿、栄ちゃん。新人を連れて来たよ」

長テーブル前の椅子に腰掛けている女性二人は振り向く。

ベリショートパーマの女性はタレ目で大人っぽい。そして、タバコを咥えている。服装は上下ともに黒。紫のローファーを履いてる。


ロングヘアーパーマの女性はぱっちりした目でとても可愛い顔立ちをしている。服装はライトグレーのTシャツにレザーのミニタイトスカート。グリーンのパンプスを履いてる。


「友成遊です」

友成は頭を下げた。


挨拶をしておかないと。女性しかいないようだから。嫌われたら終わりだ。


「財櫃真珠です」

「千戸浦和紗です」

二人は友成と同じように挨拶をした。


「妖西有梨寿(あやにしありさ)。よろしく」

妖西はタバコを口から離した。

あれ、タバコにしたら細くて短くないか。


「安心して三人ともお菓子だから。咥えてるの」

網代は友成達に説明した。


「吸わない。身体に悪いし」

妖西は言ってから、お菓子を咥えた。


「じゃあ、ボクだね。双木栄剛(ふたきえいごう)です。よろしくお願いします」

双木は挨拶をした。


「え、はい?」

友成達は顔を見合わせた。


ちょっと待って、どちゃくそ可愛い男性なの。そんな事ってありえるの。声も無茶苦茶可愛いし。え、あれが付いているの。脳みそバグる。


「女装が好きな男の子よ」

「よろしくです。仲良くしてね」


双木はニコッと笑った。

やべぇ、可愛いすぎる。


友成達は「よろしくお願いします」と言った。


「二人はオペレーターよ。今はいないけど局員がもう一人居るわ」

「どんな人なんですか?」


財櫃は訊ねた。


「会えば分かるわ。すぐに会う事になるから」

網代は答える。


すぐに会うとはLBIで会うのか。それとも、別の場所で会うのだろうか。


ちゃんと教えてくれてもいいのに。


「あの、すいません。璃ちゃんさんのお名前は?」

千戸浦が聞く。


「あ、言ってなかったね。ごめんごめん。網代璃帆。ゲーム犯罪科の司令官よ」


網代は自己紹介をした。


これから、ここと学校の2重生活が始まるのか。頑張っていかないとな。いろんな人の為に。








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トラッシュ・ゲーム APURO @roki0102

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