この映画の撮影では、動物に危害を加えていません(※ただし人間のプライドを除く)

たかぱし かげる

【最初にして最後の最終話】

 とうとう掴んだビッグチャンス。

 それは、とある映画の助演とも言うべき重要な配役だった。


 もとはオーディション落ちだったのだが、幸運にもキャストが急な事情で降板、クランクイン目前で急遽代役に抜擢された。


 これをビッグチャンスと呼ばずなんと呼ぶ?


 やや不安なのは、この映画が本邦でもそこそこヒットしたインド映画の日本版リメイクとかいう絶妙に微妙なタイトルであること。


 さらに不安なのは。


「主演の天下無双のダンスをする布団さん、クランクインでーす!」


 主演を務めるのが、聞いたこともない、かなりふざけた名前の、おそらく芸人っぽいことだ。


 いや、芸人が主演を務めるのが嫌だとかほざくつもりはない。ただ、せめてみんな聞いたことのある有名芸人だとか、せめてせめてもうちょっとまともな芸名の人だとかいなかったんかい、と思う。


 なんにしろ、急な代役決定だったため、今日が初顔合わせでもある。めちゃくちゃな現場だな。


 現場へ入ってくる主演を迎えるため、俺は席を立った。


 敷布団が入ってきた。


 うん、いや、え?


 二度見しても三度見してもどう見ても布団が入ってきた。


 なんか、あれだ。短辺のカド二つで小器用にちょこちょこ歩いているけれども、若干アラジンの魔法の絨毯みがあるけれども、仮装でも比喩でもなんでもない、まごうことなき正真正銘の布団がきた。


「あれ主演!? 布団!?」


 そばにいた小道具スタッフに思わず詰め寄る。

 スタッフは慌てた顔で口に指を当てた。


「しっ、滅多なこと言わないでくださいよ!」


 主演が布団とか、滅多なこと口走らされてんのは俺のせい?


「だって、布団じゃん!?!?」


「ちょっ、まずいっすよ、布団差別とかヤバいですって」


 差別? え、この戸惑いって差別くくり? 違わない?


「差別とかさ、そういう話じゃなくて」


 なんで布団が人間映画の主演はってんのかって話なんだが。……え、これ差別になってる?


「天下無双のダンスをする布団さんは天下無双のダンスができる布団なんですよ! この映画の主演に絶対必要だって、監督がかなり手を尽くしてオファーしたんすからね! 発言に気をつけてください」


 嘘だろ。ってか、前任者の降板理由って、きっと主演が布団だったことじゃないだろうか。


 混乱しながらも主演俳優に挨拶しないわけにもいかず、順番を待って近づいて頭を下げて役者交代した旨を告げると、布団は右上隅の角を鷹揚に振って労ってくれた。


 ってか、布団しゃべれないのかよ!!! まあ布団だもんな!!!


 本当にこんなんで大丈夫なのだろうか。

 布団がどうやって動いているのかもわからないし、先行き不安は絶賛爆発中だが、撮影は容赦なく始まった。


 セリフのない主演。角をふりふり演技する主演。表情どころか顔もないのになにか表現している主演。奇奇怪怪な布団ワークス絶対ダメじゃんこれ。


 そんな不安は布団のダンスを見た瞬間にぶっ飛んだ。


 天下無双のダンスって何だよ、と思っていたが。これは。

 流れる音楽にぴたりとハマるリズム、人体ではありえない音を体現したダイナミックな動き、ただただ形だけで表現されるエモーション。

 この世に二つとはない、あまりに見事な舞いだった。


 布団のくせに。


 あ、これ差別か。


 とにかく言葉では表し尽くせない天下無双のダンスをする布団がそこにいた。


 なんとなく思う。有名人気俳優だった前任者が降板した本当の理由。

 この布団のダンスを見てしまって、この布団のダンスに敵わないと思って、主演の横で霞む己を受け入れられなくて、逃げたのではないか。

 その気持ちは、ちょっとわかる。

 でも俺など、まだまだ無名で、気負うものすらなく、むしろ布団の胸を借りるつもりで、全力をとしてビッグチャンスを掴みに行くべきなのだろう。


 主演の布団と一緒に最高の映画にしてみせる。


 なんて言うと思ったか布団が主演で映画になるわけないだろうがこんちくしょう!!

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この映画の撮影では、動物に危害を加えていません(※ただし人間のプライドを除く) たかぱし かげる @takapashied

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