雪景

あじふらい

雪景

あられの降る音が冬の空を鳴らした。

全てが白い雪に包まれて消えた世界で、音の妖精が踊っている。

街の灯りをわずかに反射する鈍色にびいろの夜空を見上げた。

白い息が幾重いくえにも重なり、そして消えていく。

長いため息を気霜きじもにして解き放ってしまえば、それが永遠に消えないような錯覚に陥る。

愛車のランドクルーザーのドアを乱暴に引き寄せ、吐息を閉め出した。

パチパチとフロントウィンドウに弾けるあられを、ワイパーがすり潰していく。

トランスファーに手を伸ばしかけて、まだ二駆で構わないと思い直し、虚空を彷徨った手をシフトノブに戻す。

堅牢なつくりのこの車が、先程車外に置いてきたため息を遮断してくれているように感じる。


シートヒーターのスイッチを手早くオンにして、ギアを一速に叩き込む。

あられが窓を叩く。

景色が流れる。

ラゲッジスペースに乱雑に置いたスキーブーツがガチャガチャと音を立てている。

オーディオをラジオに変え、交通情報を聞く。

深夜の高速道路にとどこおりはない。

見慣れた街灯をいくつも置き去りにして、高速道路のインターチェンジへと進入した。

速度を緩め軽快な電子音と共に料金所を通り抜ける。

ぐるりと曲線を描いて高速道路に接続するランプウェイが、ドライブの高揚感を高める。

ラジオからお気に入りのプレイリストに切り替えれば、ちょうど追加したばかりの新曲が流れ出した。

アクセルを踏み込んで光の川に飛び込めば、すっかりと平日の憂鬱は消え去ってしまった。

煌めく土曜の朝を迎えに行こう。

色のない雪景色を、キラキラと輝く銀世界に塗り替えるのだ。


いつの間にか鈍色にびいろの雲は切れ間を見せ、地平線は払暁ふつぎょうに色付いていた。

青白い山々もほんのりとべにをさす。

窓を叩きはじける音の妖精はいつの間にか姿を現して、あられはふわりふわりと舞う雪の妖精に変わり、走行する愛車の周りを逃げ去っていく。

斜め前方に目的のゲレンデを視認し、思わず笑みがこぼれる。

インターチェンジへの分岐車線に入ったところで、トランスファーを操作し、四駆に切り替えた。

朝食を買うために立ち寄ったコンビニの駐車場で、足元を覆い隠す雪に、これは期待できるぞ、と心が躍る。

はやる心を落ち着けながら残り僅かとなった行程を雪煙ゆきけむりを上げて進む。




ゲレンデが待っている。

雪が呼んでいる。

とびきりで、最高な朝が、ここにはあるのだから、と。







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雪景 あじふらい @ajifu-katsuotataki

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