第十九話「"生きる理由"の正体」


 ――俺は、本当に"死にたい"のか?


 戦いが終わった後、俺の頭の中をぐるぐると巡る疑問。

 "死にたい"と思っていたはずなのに、俺は"勝ちたかった"。

 生きるためではなく、"負けたくなかった"。


 それが何を意味するのか、俺にはまだ分からない。


 俺は……"生きたい"のか?


 いや、それは違う。

 俺は"死ねない"から、仕方なく生きているだけだ。


 そう……"死ねる理由"を探すために。


 けど――


(もし俺が"生きる理由"を見つけたら……?)


 俺はどうなる?


 ---


「レイト、起きてる?」


 コンコン、と扉を叩く音がした。


「……寝てる」


 俺は枕に顔を埋めたまま答える。


「嘘ね。起きてるの分かってるわ」


 アリスの声だ。


「何の用だよ」


「話したいことがあるの。入ってもいい?」


「……好きにしろ」


 俺は適当に答え、アリスが静かに扉を開ける音を聞く。


 ふわりと、彼女の香りが部屋に漂う。

 俺のベッドの前に立つと、アリスは俺をじっと見つめた。


「あなた、"死にたい"ってずっと言ってるけど……本当にそうなの?」


「……またそれかよ」


 俺は面倒くさそうに天井を見上げ、俺は眉をひそめる。


「あなたは"生きたい"のよ」


 アリスは真っ直ぐに俺を見る。


「……」


 その言葉に、俺は無意識に拳を握る。


「俺は……"死ねない"んだよ、アリス」


「ええ、知ってるわ」


「死ねないくせに、生きたいなんて思うわけねぇだろ」


「本当に?」


 アリスは微笑んだ。


「あなた、"死ねる理由"を探してるんでしょう?」


「……そうだ」


「それってつまり、"生きる理由"を探してるのと同じじゃない?」


 俺は言葉を失った。


「……何言ってんだよ」


「だって、"死ねる理由"が見つかるまでは、生き続けるしかないでしょ?」


 俺は息を呑む。


 確かに、そうだ。


 俺は"死ねる理由"を求めている。

 だが、それは"生き続ける理由"を探しているのと同じだ。


「あなたは"死にたい"んじゃない。"意味のある死を迎えたい"だけ」


 アリスは静かに言った。


「……」


 俺は何も言えなかった。


(俺は、本当に"死にたい"のか?)


(それとも、"生きる理由"が欲しいのか?)


 分からない。


 俺は何を求めているんだ?


 アリスは少しだけ考え込むように沈黙した後、俺に向かって言った。


「もし、"生きる意味"を見つけたら……あなたは"死ねる"の?」


「……それは」


 考えたこともなかった。


 俺は"死ねる理由"を探していた。

 でも、"生きる意味"を見つけたらどうなる?


 俺は――


「……分からねぇ」


 答えを出せず、俺はただ呟いた。


「でもな……一つだけ分かったことがある」


 アリスが俺をじっと見つめる。


「……俺は、"今のままでいいのか"って思い始めてる」


「……」


「死にたいと思っていたはずなのに……俺は……」


 俺は"死ねない"から、死に執着していた。

 

 それは……つまり――


「……私、嬉しいわ」


 アリスは小さく微笑んだ。


「あなたが、自分の気持ちをちゃんと考えるようになったから」


「……」


 俺は言葉を失った。


 考える。


 "俺は、どうしたいのか"を。


 この"赤い目"を持ったまま、どう生きるのか。


 それを、俺は今まで考えようとしなかった。


 だが――


「……もう少し、考えてみるよ」


 俺は静かに呟いた。


「そうね」


 アリスは優しく微笑んだ。


「考えて。あなたの"生きる理由"を」


 俺は、ただ黙って彼女の言葉を聞いていた。


 "生きる理由"――


 それを探すことが、"死ねる理由"を見つけることと同じなら。


 俺は、まだ"答え"に辿り着けていないのかもしれない。


 それでも――


(もう少し、考えてみるのも悪くないかもしれねぇな)


 そう、思った。

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異形が蔓延る世界で、死を拒絶する『赤い目』が俺を狂わせる──俺は"死の理を拒む絶対者" 水無月いい人 @Minazuki_iihito

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