やっと異世界に召喚されたけど、蚊に体を奪われて、蚊が英雄になった

@YamadAkihiro

第1話


アルセリア王国では、絶望した神官たちが古代の召喚陣の周りに集まり、救世主を呼び出そうと呪文を唱えていた。


彼らの国は崩壊の瀬戸際にあった。暗黒の魔術師マルグリスの影獣たちが国中を蹂躙し、滅亡の危機に瀕していたのだ。


予言にはこう記されていた——異世界から来た英雄が、マルグリスの暗黒の支配に立ち向かう、と。


儀式が最高潮に達した瞬間、天上の光を放つポータルが開いた。

選ばれし者が、今、現れようとしていた。


一方、その頃、別の世界では…


リュウは野心のない若者だった。彼の唯一無二の才能は、寝坊すること。

彼はベッドに大の字になり、壊れた掃除機のようないびきをかいていた。


その頭上を、小さな蚊がホバリングしていた。

リュウの血をたっぷり吸い、妙なまでに傲慢な態度でブンブンと飛んでいた。


「うげっ、この男の血、インスタントラーメンと絶望の味がする…」

科学的な理由は一切ないが、この蚊は異様に洗練された内面のモノローグを持っていた。


その時、召喚の呪文が発動した。

魔法の力がリュウをベッドから引きずり出し—— そして、蚊までもがその渦に巻き込まれた。


召喚の儀が終わり、神官たちは英雄の誓いを待った。


だがそこに現れたのは——混乱した表情でキョロキョロと辺りを見回し、落ち着きなく手足を痙攣させ、なぜか空気の匂いを嗅ぎ始める男だった。


召喚は、最悪の形で失敗していた。

リュウの魂は蚊の体に、蚊の魂はリュウの体に入ってしまったのだ。


神官たちは目を丸くした。

「……我々は、間違った者を召喚してしまったのでは?」


しかし、予言はこう告げていた。

「この者こそが、我らを救う英雄である」と。


こうして、モスキート・リュウ(蚊の魂が入ったリュウの体)と、リュウ・モスキート(リュウの魂が入った蚊)は旅立った。


宿屋に泊まるたび、モスキート・リュウは寝ながらブンブン唸り、

無意識に腕をパタパタと動かし、気がつくと窓辺に止まっていた。


最初の戦いは、森での影狼の群れとの戦いだった。


「よし、お前が戦うんだ! 剣を振れ!」

リュウ・モスキートがモスキート・リュウの肩の上で叫んだ。


だが、彼は剣を落とし、蚊の本能に従って狼たちの間をフラフラと飛び回り、

なぜか狼の鼻先に止まろうとした。


「なにやってんだー!!!」


「本能が… 本能が… 耳元で… ブンブンしなきゃ…!」


狼たちは混乱した。その隙に、通りすがりの女剣士・シルビアが狼たちを一掃した。


「今まで見たことない戦闘スタイルね…」


モスキート・リュウは得意げに笑った。

「これを ‘囮&噛みつき戦法’ って呼んでるんだ。」


シルビアは彼の奇妙な戦い方に興味を持ち、同行することになった。


旅の中で、シルビアはモスキート・リュウの独特な魅力に引かれていった。


ある夜、焚き火を囲みながらシルビアは言った。

「あなたって、他の人とは違うわ。世界の見方が… 独特よね。」


シルビアは顔を赤らめながら、彼にそっと近づいた。

「あなたは勇敢よ、リュウ。そして… 私、あなたのこと…」


モスキート・リュウは口を開いた。

「お前の肌… 熟れたメロンみたいに輝いてるな!」


そして、彼はうっかりシルビアの耳元でブンブンと音を立てた。


シルビアは頬を染めた。

リュウ・モスキートは絶望した。

「なんでそうなるんだー!!!???」


そして、ついにマルグリスの城に到達した。


マルグリスは高笑いした。

「ほう… これが伝説の英雄か? 虫のようにブンブンする男が?」



戦いが始まった。


「おい、俺の言うことを聞け! ちゃんと戦え!」

リュウ・モスキートが叫んだ。


モスキート・リュウはある作戦を思いついた。

彼はマルグリスの顔の周りを飛び回り、全力でブンブンと音を立てた。


「くだらん! こんなもの——」


その時、リュウ・モスキートが突っ込んだ。

彼はマルグリスの耳の中に飛び込んだのだ。


「ギャアアアアア!!! なんだこれは!??」


マルグリスは狂気に陥り、もはや魔法を制御できなくなったので、シルビアはその機会を利用して剣で彼を刺した。


マルグリスは絶叫した。

「バ… バカな… 虫に…負けた…?」


戦いは終わった。


マルグリスが消えると、モスキート流は自分の体に力が湧き上がるのを感じた。


まるでマルグリスの力が彼に移ったかのようだった。


マルグリスは敗北し、王国は英雄たちを称えた。


神官たちはついに、彼らの魂を元に戻した。


リュウは歓喜した。

「やった! 戻った!!!」


しかし、力が使えないことに気づいた。


「え…? 俺の超速攻撃は? 俺の ‘ブンブンアタック’ は?」


彼はモスキート・リュウを見た。


小さな蚊が、ほんのり光を放っていた。


「……まさか。」


モスキート・リュウは不敵に笑った。



すべての能力は、モスキート・リュウの魂に残っていたのだった。


リュウは青ざめた。

「お、おい、まさか——」


モスキート・リュウは笑った。

「もし取引がしたいなら…どうやって私にそれを頼むか考えてください。」


その頃、マルグリスの城の奥深くで

黒い水晶が不気味に脈動していた。


新たな影が、ゆっくりと玉座に座った。

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