僕が、前に進むために。
戯和時
僕が、前に進むために。
「皆さんに残念なご報告があります。一年の── ──さんがお亡くなりになりました」
それを聞いた時、僕は一瞬だけ呼吸を忘れた。真っ白な頭の中で、嫌というほど校長先生の声が鮮明に繰り返される。
「……え」
唐突に出た声は、周りの同級生にはきっと聞こえていたと思う。
脳が校長先生の言葉をようやく
反射的にマスクで隠された口元を両手で覆い隠す。呼吸は荒くなっていく一方だった。
校長先生の言葉は今となっては覚えてないが、色々なことを話していたと思う。正直、泣いていることが同級生にバレないようにするのに必死で聴く余裕がなかった。けれど目線は動くもので、校長先生と先生たちを交互に見ていた。──ちゃんが死んだのが信じられなかったから。
そして全員で
黙祷を捧げる静かな時間、僕の
黙祷がよくやく終わると校長先生の話が再開された。──ちゃんのクラスの人、──の友達。そして──ちゃんが所属していた我らが演劇部は残るよう伝えられた。
もう限界だった。校長先生の話は終わったと判断した僕は、
だが実は校長先生の話はまだ続いてたらしく、まだ話してたらしい。今となっては、あとの祭りだが。
●●の近くへ行くと、僕は
全校集会が終わると生徒たちはぞろぞろとクラスに戻っていく。戻る途中、好奇の目でこちらを見てくる人は気持ち悪くて、一言で形容するならば目障りだった。僕たちは見世物じゃないんだと言ってやりたかった。
悲しかった。
小学生の冬。
言った覚えはないのに「ばい菌」と相手を罵ったと先生に問答された時より(誤解はクラスの子によって解かれた)。
苦しかった。
中学生の春。
クラスメイトのある子からのヘイトが嫌で嫌で下校中に愚痴を友人に話したら、その友人の塾の先生に「君は人の悪口を言う悪い影響を与える人間だから、もう関わらないで」と言われた時より。
悔しかった。
高校生の夏。
女がスラックスを履いているのが珍しかったのか「ジェンダー?」と駐輪場にいた一つ歳上の先輩に言われた時より。
高校生の秋。僕は溺れた。
──ちゃんは優しかった。努力家だから頭もよくて、運動もそこそこ出来る。前の彼氏は──ちゃんから聴いた限り殴りたくなるような変態だった。が、僕が「君は──ちゃんの彼氏に相応しくナァイッッッ!!!!!」とか言われると思って内緒にされた、事後報告彼氏は普通にイイ奴だった。なんならクラスメイトだし、僕に勉強を教えてくれるくらいには。
勝手に勘違いされていたが、僕は人の恋路には口を出さない主義である。解せぬ。
閑話休題。
──ちゃんは理系の大学に行きたいと言っていた。一緒に卒業しよう、と演劇部の一学年六人で約束した。
幸せになってほしかった。ねぇ、神様。何がいけなかったんですか。なんで──ちゃんを連れていっちゃったんですか?
その問いに、答えはない。だが答えのようなものは僕の中になんとなくある。
全校集会という形で体育館に集まる少し前。僕はどうせ何か問題が起きたのだろうと思っていた、のだが●●は違った。●●は何かを心配して探すようにキョロキョロしていた。どうしたのかと尋ねれば「なんでもない」と片付けられてしまったが。校長先生の話が終わり生徒たちが殆どいなくなった頃に●●はぽつりぽつりとあることを語り出した。●●曰く、『今なら行けるかも』とSNSに書き込みがあったらしい。なんとなくの予想が当たってしまったことが悔しくて、悲しかった。僕は心のどこかできっと死ぬわけなんてない、と思っていたんだと思う。だから部活終わりに『行かないで』と言われても用事があるからと家に帰った。待ってあげればよかった、と。そう後悔した。後悔しても今さら遅いのだが。
多分──ちゃんはきっと疲れてしまったのだと思う。本当にそうなのか、もう本人に訊くことは叶わない。
無性に自分に腹が立った。──ちゃんが亡くなったのは金曜日の朝らしい。その事実を知らないまま僕は二日後の日曜日、漢字検定準二級を受験した。漢字検定が終わった後は近くのカフェで自己採点をして合格点を取っていたことに安堵し喜んだ。人間として当然なことだったかもしれないが、僕はのうのうと過ごしていた自分をどうしても赦せない。
残された僕らはしばらく授業には参加しなかった。特に一学年五人は。同じクラスで演劇部の●●と演劇部で知り合った■■とずっと一緒にいた。──ちゃんの話をいっぱいした。辛いけど、楽しかった。甘えだと言う人もいるかもしれない。でも、それがなんだよ。辛いんだよ。心が破裂しそうなほど痛いんだ。この痛みは誰にも分からない、分かるわけがない。だって僕だけの痛み、それぞれの傷だから。
結局、何が言いたいのかというと、僕たちは辛い時間を過ごしたということだ。
そして僕らは、未だ苦しみの
授業に参加できるようになってまあまあ標準的な生活できるようになってきた、──ちゃんが亡くなってから約一ヶ月くらいの頃。突然僕は授業を休むようになった。それはどんどん悪化していき、ついに学校を休むようになった。とにかく学校にいたくなかったんだと思う。
そうして色々なことを考えるうち、僕も疲れてしまった。希死念慮が僕の心の中で暴れ始めた。何度も、死のうとした。何度も何度も何度も、死にたいと思った。何度も何度も何度も何度も何度も、消えたいと願った。同時に何度も、救われたいと願った。
それは今も尚、僕を蝕み続けている。
僕はもうすぐ16歳になります。──ちゃんと同い年です。僕は今もまだ死にたいと思います。ずっと憂鬱ですし、なんなら鬱病という診断結果も出ています。ネットの手軽に出来る診断なんかじゃ重度の鬱病と判定されます。毎日辛いです。ご飯も美味しいと思えなくなりましたし、楽しかったことも今はもう楽しく感じません。ただただ辛いです。
僕はいつ死ぬか分かりません。もしかしたら明日死んでるかもしれないし、おばあちゃんになるまで長生きするかもしれない。
もしこれを読んでくれている人がいるなら僕みたいにこう思っている人もいるんだと、どうか覚えていてください。人間は独り善がり、大丈夫だと思い込んでしまうような部分があります。それは必ずとは言いませんが誰しも同じだと思います。でもお願いだから、無理なら逃げましょうよ。本当に心の底から無理だと思ったら逃げていいんです、逃げなきゃダメなんです。人間は思った以上に脆いです、弱いです。"命大事に"と言いますが本当にその通りだと思います。
何が言いたいのかというと、つまりは逃げるならば思いっきり逃げようということです。僕も今学校から逃げています。担任の先生から言われました、「逃げることは悪いことじゃないんだよ」と。子供に教える立場の人間がこういってるんです。
無理だと思ったら逃げましょう、少なくともちっぽけな僕くらいは肯定しますよ。
──ちゃん
欠けた一人の穴を埋めることは出来なくて、時間が経つにつれて、いないことが当たり前になってくるのが辛い。
僕たちと過ごした時間は、幸せだった?友達としてちゃんといられたかな?僕は何十年先もずっと友達だと思ってる。
次にみんなで会うときは笑って会おう。演劇の大会も──ちゃんの分も頑張るから。みんなで全国行こうって約束したんだ。僕たちは──ちゃんを全国に連れていけるよう頑張る!またいつか。一緒に演劇しようね。
忘れたくない。でも思い出すと辛い。だから僕の心のタカラモノ箱にしまうね。
僕が、前に進むために。 戯和時 @haruka29225
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます