バーガーショップのはじっこ隊

KazeHumi

第1話


 深夜の千代田区は人が少ない。すぐに対象を発見した。背後には情報通りのオマケつき。プロトタイプの通信システム「オムニアイ」は、単眼ゴーグルもイヤーバッヅも軽いつけ心地でなかなか。支給品のバラクラバは特別な性能もなく、俺はスポーツブランドのバラクラバを選んだ。それくらい遊んでも文句はいわれないはず。同い年の十七歳は部活に励んでいる時期だ。それにタクティカルAIの精度には驚く。日本も捨てたもんじゃない、どころじゃない。


「ゼンゲン、前方の女が対象か?」


 俺は国産AIの相棒『全眼』に問いかけた。


「対象と確認。対象に追いつきそうな二名、敵工作員」


 冷静で事務的な声がイヤーバッヅに届く。


 黒づくめの二名が対象に接近している。腰から抜いた柄(つか)を振ると、ブゥンという音をたて刀身が現れた。


「国内に所属なし。確保に安全な残りタイム8秒……」


 ゼンゲンが話終える前に、俺はすでに飛び出していた。ぐんぐん一方の敵に接近し、腕を振り上げる。『ナノカタナ』は稽古で使う日本刀の何倍も軽い。通常時は握り部分だけで。起動させるとナノ粒子の刃が出現する、切り裂く際のインパクトは野菜を切るように抵抗がない。刀身はイメージ通りの軌道を描き『ひゅん』と宙に小さな音を残して抵抗なく敵の前腕を落とした。


「如月天音(きさらぎあまね)を保護」


 天音の身体を抱き、ゼンゲンに伝えた。


『ひっ!』と小さな悲鳴をあげて天音は身体を固くした。


「味方だ。貴方を保護する」


「もしかして……お爺ちゃんの……」


 刀を持たないほうの手で天音の口をふさいだ。


「声を出さないで」


 天音は言葉を飲み込んで肩を震わせる。


 敵二名は動揺も少なく構えた。


「公安なら相手が違うぞ」


「お前らの犬とは違う。先月公安のエージェントを斬ったのは俺だ」


 腕を落としたヤツは迅速に止血帯をしめると、やっと口を開いた。


「……お前が、YOZAKURA(夜桜)……!?」


「公安はまるで運動不足だった。お前らはどうだ?」


 敵工作員は顔を見合わせると、二人とも闇に消えた。


「逮捕、殺害の必要なし。作戦終了」


 全眼が伝えた。


「別件メッセージがあれば読み上げてくれ」


 まだ震える天音をよそに、俺は言った。


「モード切替。例の小学生の友人からメッセージあり。『明日はバーガーショップくる? みんなに聞いて欲しい話がある』」




 午後の渋谷は今日もやかましく混んでいて、でも僕の好きな裏道はわりと空いてて、中空に浮かぶセキュリティドローンは今日も真ん丸だ。バーガーショップにつくと、僕はいつもの鉄柱にBMXをチェーンロックした。同い年の小6でこんなチャリに乗っている子は見かけない。探しに探した古いパーツで組んで、父さん譲りの工学知識でGPSも装備させた特別な愛車。『晄士(こうと)』というシールは始め気に入らなかった。でも父さんが名付けた僕の名前で、父さんが貼ってくれた今では大事なシールだ。今日はちょっと気が重いけど、愛車を誉めてくれた星(ほし)さんを想うと、僕はダッシュで階段をかけあがった。


 スタッフの華やかなお姉さんとすれ違う時「おかえり」と声をかけられる。

「ただいま」

 僕はいつものように返事をする。高校一年のバーガーショップの女子店員テラと、僕らのいつものやりとりだ。父さんがいなくなってから、このバーガーショップは僕が世界で一番落ち着く家みたいな場所になった。

 表面上、僕とテラは店員と客の関係だけど、テラと僕たちはバーガーショップで仲良くなった仲間。僕らは自分たちを**「はじっこ隊」**と呼んでいる。


 一番好きな席は空いていて、僕は嬉しくなった。すぐに店内の「はじっこ」を確認すると、星さんと紬華(つむは)がそれぞれいつものはじっこ席に座っていた。メッセージで来れるか微妙といっていた究真(きゅうま)くんはいない。究真くんもいてほしかったけど、僕らは同じ店内にいてもどうせグループチャットで会話するから、大して問題はない。


 はじっこ隊は変わった仲間だ。テラはバイトしてて、みんなは仲間でも好きな席にばらばらに座ってて、会話する時はグループチャット。逆にいうと、そんな「自分で考えて自分で行動する」ところが似てて、自然と仲間になったんだと思う。みんな歳もキャラもばらばら。星さんが心配そうにちらっと僕を見た。たぶん僕の父さんよりも年上で、星さんは元ゲームデザイナーで昔はゲーマーとしても凄かったらしい。紬華はまだ中学一年の女子だけど、漂う空気がそこだけ違うみたいなオーラがある。噂では「無限資金」なんていわれてるほどの家のお嬢様。


──グループチャット(Hajikko)──


晄士:今日は、みんなに話したいことあるんだ。究真くんみれてるかな?


究真くんは十七歳なのに「俺は警察の非正規職員」とかいってる謎の人。バーガーショップにいない時に何をしてるのか誰も知らない。


テラ:急に何? 私休憩はいる。


究真:確認できてる。


紬華:珍しく重い話でもある?


晄士:じつは星さんが、詐欺に遭ったっぽいんだ。


テラ:は? マジ??


紬華:被害額は大きいの?


星:……恥ずかしいことに、生活費まで削られてしまいました……。



テラ:どういう系の詐欺?

晄士:なんか「人生を取り戻す」みたいなやつ。

テラ:胡散臭さ!

星:障害のせいにはしたくないですけど、我ながらこんなものにひっかかるなんて。

究真:ターゲットを絞った詐欺っぽいな。

紬華:とりあえず警察に通報じゃない?

究真:たぶん刑事事件化は難しい。


(間)


テラ:ヤバいじゃん……無理なら取り返そ!




テラはこのバーガーショップの人気JK店員だけど、僕らと話す時は「素」丸出し、カウンターとは別人みたいな低い声になる。それだけじゃない、じつは凄腕のハッカーだ。


──グループチャット(Hajikko)──

究真:テラ、可能性ありそうな住所すぐに解るか?

テラ:星さん、サイトのURLちょうだい。

星:送りました。

テラ:よし、アクセス完了。……ん?

晄士:どうしたの?

テラ:ちょっと特殊。普通の詐欺サイトと違う。


私服になったテラがいつのも席につくと、タブレットを叩き始めた。


「普通にアクセスすると“見えない”んだけど」

画面を見せながら、テラが軽く舌打ちする。

僕はテラの隣に移動して覗き込んだ。


何の違和感もなく、自然に受け入れたテラに対して、僕は場違いな感覚をもつ。はじっこ隊のメンバーはみんなばらばらだけど、なんていうか心の距離が近い。家族でも恋人でもないテラは、こうやって実際近くにいても違和感がない。


「これ。一見ただの啓発サイト。でも、特定の条件を満たすと課金ページが出るみたい」

「人を選ぶ?」

「そう。精神状態をトリガーにした設計。必要な人間にだけ“救済の扉”を開く」

「とても悪質ね」

僕と反対の隣席に座った紬華が、珍しく強い視線をむけている。


──グループチャット(Hajikko)──

テラ:すぐに見える住所はここ。究真、送る。

究真:解った。チェックしてみる。


星さんもテラの席にやってきた。はじっこ隊としては珍しい状況で、緊急事態という事を実感する。


「最初は少額のお布施みたいなものでした。少しずつ、ステージが上がって……」

星さんは言いにくそうに話した。

「ゲーム的な課金システムだね」

「なるほど、“徳”を積ませるのね」

紬華は細い腕を組んで頷いた。


「そうみたい。課金が進むとさらに抜けられない心理状態になる」

テラは画面を指でなぞった。

「どういうこと?」

「『今やめたら、これまでの投資が無駄になる』みたいな感じじゃない?」

「まさにでした……コンコルド効果も知っていたはずなのに」

申し訳なさそうに星さんは消えちゃいそうな声をだした。

テラが物凄いスピードで指を動かす。


「で、この運営元……表向きはただの広告代理店。でも、支払いの受け口が異常」

「異常?」

紬華が聞き返した。

「うん、資金の流れを追ってるんだけど、ブロックチェーンを通して分散管理されてる。お金が一箇所に集まらない」

星さんがため息をつく。

「やはりお金を取り戻すことは難しそうですかね……」


僕がかける言葉をさがしていると、テラが指を立てた。

「やるしかないっしょ。とりあえず全力で特定する」


──グループチャット(Hajikko)──

究真:知り合いが近くにいて確認できた。住所はダミー、バーチャルオフィスだな。


僕はテラと顔を見合わせた。テラも同じことを思ったことが解った。究真くんは何者なんだろう?


テラ:やっぱり用意周到なヤツか……別の手考える。


店内の大型モニター「バーガービジョン」が起動して、新作の宣伝が流れた。

直後にニュース速報が始まり、みんな顔をあげる。



【速報】千代田区の路上で「人の前腕」が発見される。

【警視庁】事件性の有無を含め捜査中。


指をとめたテラは、「あ?」と間抜けな声を漏らした。

「腕? エグ……」


僕も間抜けな声を漏らしていた。星さんも紬華もビジョンに注目している。

キャスターが難しい顔で報道を読みあげている。

『本日未明、千代田区の裏路地で、"切断された前腕" が発見されました。腕は成人男性のものと見られ——』


「怖すぎ……」


テラは眉を寄せると、また端末の操作にもどった。




「休憩終わる。カウンターで隠れて進める」

テラが席を離れた。

店内には僕と星さん、紬華が残された。僕と紬華は、星さんに励ましの言葉をかけたり、詐欺の経緯や星さんの心の障害の話を聞いていた。星さんが過去、心の病になって仕事を辞めたことはメンバーのみんなが知ってる。僕には詳しいことはよく理解できないけど、星さんは貯金とか年金とかで生活をして、だからいつもバーガーショップで好きな時間を過ごせている。

接客の切れ目で、バーガーショップの制服でタブレットを睨むテラが見えた。はたから見ればまるで熱心にバーガーショップの業務を確認してるみたいに見える。

そう思うと、テラからメッセージが飛んできた。


──グループチャット(Hajikko)──

テラ:想像以上にガードが固い。ブロックチェーン使ってるから金の流れが掴みづらい。

紬華:もしかして資金洗浄みたいなことも?

テラ:だね。近い仕組みも入ってる。運営がすぐには特定できない。このサイト、ただのクソサイトじゃないね。ちょっと遊びがいありそう。


カウンター越しにタブレットに目を落とすテラの顔は、本性をしらない客を虜にするいつもの笑顔じゃなくて、ハッカーの難しい顔だ。


究真:直接アクセスできるポイントはないか?

テラ:課金が発生してる以上、金の受け口はどこかにあるはず……

星:向こうはさんざん私のお金を受けているんですけどね。


カウンターのテラが動きをとめて顔を上げた。紙コップに水を入れて、僕らの席に制服のテラがやってきた。


「星さん、さっきからメールとか届いてない?」

テーブルに水を置くと、テラが小声でいった。

「メールですか……?」


星さんはスマホを取り出し、画面を確認した。その瞬間、ぴくりと眉が動いて顔が強張った。


「やつらまだ僕から奪う気だ……『今なら貴方は逆転ボーナスが得られます。これは最後のチャンス』そう来てる……」


星さんの顔が変わって、僕はなんかだイヤな予感がした。


テラはスイッチが入ったみたいに、口の端だけ吊り上げてにやりとした。

「こっちのターンかも」

「どういうこと?」

「むこうが送金のアクションの口を開けた時時、こっちに辿れるチャンスが発生するってこと」


その時突然、星さんの肩と唇がぶるぶると震えだした。


「これ振戦……?」

紬華が星さんの顔をのぞきこむ。

テラは星さんの背中をさすった。


「星さん頓服ある!?」


星さんは痙攣するみたいに震える指先で、鞄から薬をとりだした。

なんとか薬を口に放り込むと、揺れてこぼれそうなコップの水を口に流しこんだ。


「星さん、僕たちがついてるから」

気づいたら僕も星さんの腕に手を伸ばしていた。父さんでも大人の身体を触ることなんて他ではない。でも星さんに触ってもなんの違和感もなかった。手から星さんの体温が伝わった。


「大丈夫、捕まえよう。次の『もう少し課金しそう』っていうリアクションを返した瞬間、アクセスの流れを割り出せるかもしれない」


「それでアクセスルートを特定するんだ!」

「そういうこと」


テラは速足でカウンターに戻ると、またタブレットの操作を始めた。


──グループチャット(Hajikko)──

テラ:星さん、送った内容をそのまま返信して。ただし、できるだけ"悩んでる風"に。

星:わわわかりました。

究真:もし関連住所が解れば報せてくれ、俺が急行する。


星さんは画面を見つめ、慎重に指を動かした。送信ボタンを押すと、テラが即座に端末を操作し始める。


テラ:……さあ、どこに動くかな?


テラがグループに共有した画面には、データの流れを示す無数のコードが踊っている。




テラは関連する住所をピックアップして共有すると、再度アクセスルートの解析をつづけた。


──グループチャット(Hajikko)──

究真:住所の場所はオフィス街のシェアスペースだ。当たりかもしれない。急行する。


任務以外でオムニアイを使うことはないが、今はそんな事は言っていられない。実際この潜入は、広義でいうならこの国を守ることに繋がるはずだ。シェアスペースが入ったビルのセキュリティは何も特別なものではなくて拍子抜けした。あっさり侵入できたフロアはドロップイン用のカウンターと、パーティションで区切られたデスクが並ぶラウンジ風の空間だ。屈強な警備員も、柄の悪そうな構成員も見当たらない。それでも足音を消して踏み入れる。

対象らしき男は窓際の席にいた。カジュアルな服装でノートPCに向かっている。白いワイヤレスイヤホンをつけ、ゆったりとコーヒーを口に運んでいる。犯罪を微塵も感じさせない人物だ。

目の前に立つと、男はチラリと目を向けたが、大きな反応もなくモニターへ視線を戻した。


「……突然、どなたですか?」


事務的で淡々とした声。まるでコンビニの店員に接客されたような錯覚に陥る。


「不法侵入ですね」


「仲間が奪われた金を取り返しに来た」


男は手を止めず、PCの操作をつづける。


「理解しました。でも返金はできません。サービスは提供しています」


「それで納得するならここには来てない」


男が向き合うディスプレイには複数のチャットウィンドウが開かれている。いくつもの取引がリアルタイムで進行している。


「では警察を呼びましょう」


「その前にお前は五体満足でいられなくなる」


男の指が止まった。それでも表情は変えず、値踏みするように顔をむけた。

ナノカタナを抜き、起動させると刀身が現れた。

初めて男が顔をこわばらせる。


「ある人物から奪った金を返せ。アドレスはこれだ」


アドレスを表示した端末を見せると、男は数秒だけ考えた後、キーボードを弾いた。



──グループチャット(Hajikko)──

テラ:……星さんの口座に変な入金! 究真?

究真:全額か確認してくれ。

星: 私も確認します……。

テラ:全額で間違いない!


「返金を確認した」


「ご用件は済んだようですね。ではお引き取りください」


男の無表情は変わらない。


「お前はこのビジネスで搾取を続けるのか?」


男は一瞬だけ手を止めた。

それから、ごく自然な動作でコーヒーを口にする。


「はい。これはただの副業です」


「お前自身が誰かに奪われる側になったら?」


「私たちは下請けエンジニアで、すでに搾取されています。副業で利益をえないと生きていけません」


男は無言でキーを叩き続けた。


「僕らが担当しているのは運営じゃない。提供されたプログラムを回しているだけ」


男は予想外の損失もまるで気にしていない様子の、淡々とした口調でいった。


「プログラムは誰のものだ?」


男は一瞬だけ手を止めると、ため息をついた。


「もとは知らない。今はAIが勝手に拡張したプログラムに副業として参加しているだけ」


「じゃあ誰が止められる?」


「そんな人間がいるのか、僕には想像もできない」


男の視線の先には、世界中の無数のサーバーへと枝分かれするコードの群れが走っている。


「君たちの金は戻った」


男は静かに肩をすくめた。


「僕にはまだ仕事がある。そろそろいいかな」


「上流の管理者は誰なんだ?」


「最初は下請けで困りはてた誰かが構築した副業だった。だがもうどこから現状に至るかはわからない。システムが利益を生む限り、止めようとする人間もいないと思う」


なんだか力が抜けて全眼を駆使する気にもなれず、俺はフロアを出た。


──グループチャット(Hajikko)──

究真:実態がわからん……。とりあえず引きあげる。

晄士:え、これで終わり?




バーガーショップのはじっこ席で、僕は大きな伸びをした。


テラはカウンターで作業しながら、合間でスマホを確認している。

画面を見ながら何度も「はあ」と息をついた。


「解らないわ~このサイト」


テラがスマホを見ながらつぶやく。


──グループチャット(Hajikko)──

テラ:なんか大手のシステム会社の下請けが絡んでるっぽい。でも、もう情報が入り組んでてわからん。

晄士:どういうこと?

テラ:剥離の下請けが互助的に集合して、不足する利益をあげる副業システムが構築されてる感じ。

星:なんだかふつうの仕事みたいですね。

究真:搾取された側がさらに搾取して成立してって連鎖……。

紬華:社会の縮図みたい。どんな企業が関わってるのか。


テラも大きく伸びをした。


テラ:解らないことだらけだけど。サーバーの関連会社だけはここっぽい。


テラ共有した情報には、見たことがあるIT企業のホスティングサービスが表示されていた。


紬華:そうなんだ……。


紬華は何かを思い出したようにスマホを取り出して、操作をはじめた。


──執事チャット(秘匿通信)──

紬華:至急、この対応をお願い。

執事:対象の詳細をお送りください。

紬華:〇〇システムズのサーバー関連事業。疑わしい資金の流れを検出、マネーロンダリングのリスク報告。

執事:かしこまりました。即時対応いたします。


紬華が、スマホの画面を閉じる。


「……終了」



──グループチャット(Hajikko)──

テラ:まあ、解決は解決! 休憩もらうから揚げたてポテトもってくー。

晄士:やった! ナゲットも食べたい!

テラ:強欲なガキね。ちゃんとバーガーショップの人気JK店員に感謝しなさいよ。


私服になったテラは、二つのトレーいっぱいにポテトとナゲットを持ってきた。

僕と紬華がテラの隣に座ると、星さんもやってきた。


「ま、解決は解決! 揚げたてポテトうめー」

テラは大きく口をあけ、ポテトの束をつめこんでいる。


「やっぱり揚げたてが最強だよね」

アツアツのポテトの油が口の中で広がると思わず頬が緩んで、テラが仲間で本当に良かったと思う。


「私にはもう何もないと思っていましたが、ポテトとこの居場所がありました」

星さんも幸せそうにポテトをほおばった。


「今後この仲間の一員でいることを忘れなければ、もうあんな詐欺にはかからないと思えました」


テラは口をもぐもぐさせたまま、端末を開いて操作をはじめた。


「え?」


テラは驚いて、端末の画面をリロードしている。


「は? 詐欺サイト、ぜんぜん繋がらなくなってる」


──Error──

「接続できません」

「サーバーが応答しません」


僕もテラの画面を覗き込んだ。


「なんで? さっきまで見れたのに」


テラは固まったまま、ぽつりとつぶやいた。


「……サイト、消えた」


テラは目を真ん丸にしてて、まさかテラの仕業じゃないことはわかる。


「消えていいよ。あんなサービス」


紬華は上品にポテトをつまんだ。

僕とテラは、思わず顔を見合わせた。


「まあ、これで終わりかな? 乾杯だ!」


テラが突き出したナゲットに、僕もナゲットを持ちあげた。

そこでテラが思いついたように、星さんと紬華にもナゲットを渡して、僕らはみんなでナゲットをぶつけた。

僕らはじっこ隊の日常が帰ってきた。

父さんがいなくなった今、僕が消えないでと願う場所と時間はここだ。




まわりで揚げ物をほおばるはじっこ隊の面々を見ていると、それにしても僕らはばらばらだなと思う。

テラはバーガーショップのバイトについて「社会見学」と言ってた。まったく理解できない「マスな人たち」を観察するのが本当の目的らしい。星さんは僕と同じで、ほかに居場所がないらしい。紬華はたぶんどこにでもいけるけど、「匿名になれる」とかいってここで一人で過ごすことが好きらしい。究真くんは相変わらず何をしてるのか解らなくて、聞いても「警察の非正規職員」とかいう冗談しか言わないし。

居場所がなくてバーガーショップに入り浸るようになったら、気づいたらヘンテコな仲間ができていた。

隣ではテラがスマホをいじりながら、さらに大口をあけてナゲットを放り込んでいる。


「美味しい油って幸せだよね」


 ポテトをつまみながら言うと、テラは適当に相槌を打った。


「笑顔も気遣いもNO1スタッフのテラちゃんに感謝して?」


 ほんとさっきまで星さんの件であんなにハラハラしたのに、今はもういつものバーガーショップの空気で自然とにやける。

すぐそばにいるけど、あえてチャットで会話したくなった。


──グループチャット(Hajikko)──

晄士:日常もどったね。

星:……奪う者と、奪われる者。その境界線はどこなんでしょうね。

究真:奪う者と対策せず奪われる者、そこに善悪はあると思う?

晄士:なんか難しいよ。じゃあ、冷めたポテトが美味いって人って存在する?

テラ:知らんがな


店内に設置された大型モニター「バーガービジョン」でニュースが始まって、みんなが顔を上げる。


【政治系学生インフルエンサーの最新動画が話題】

『千代田区の路上で発見された腕の持ち主を知っています!』


テラが画面を覗き込み、驚いた声をあげた。

「ヤバ、これ炎上しないか?」


僕は急いでスマホから動画を探した。


「如月天音って人?」


「そう、その人がSNSで動画あげたって。なんて……?」


テラも自分の端末をのぞき込んでいる。

天音の投稿動画では、震える声でカメラに向かって話していて、とてもウソには見えなかった。

天音という人は昔暗殺された元大臣の孫らしい。その闇を、これから発信していく活動をするらしい。

動画の中で、動画を視る人に全力で訴えてる。

『私は暗殺された如月紘一の孫娘! お爺ちゃんがなぜ暗殺されたのか発信を開始する! この国をとりかえす!』


きっとこの人は真剣で、僕たちや社会のために勇気をだして何かをはじめたんだってことが伝わった。でも、この人の発信や存在に、大事なはじっこの日常が巻き込まれてしまうような不安を感じた。


「落ちてた腕、この人を襲った犯人のものらしい。これマジならめっちゃ気になる」


テラは黙り込んで動画に集中した。


──グループチャット(Hajikko)──

究真:——呼び出しだ。今日は落ちる。













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バーガーショップのはじっこ隊 KazeHumi @kazeno_humi

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