全て肯定する男
マジンミ・ブウ
全て肯定する男
さてさて、夜も更けた頃の話だ。
一人の男が、ちょいと催して厠へ行こうと外へ出た。月明かりに照らされた村は、しんと静まり返って、寒さも相まってなんとも気持ちのいい景色だった。
「おぉ、こりゃいい眺めだ」
そんな気分の良さにつられて、ふらふらと歩いていくうちに、川のほとりにぽつんと座る人影が目に入った。
「おや? こんな夜更けに一体どこのどいつだ?」
よくよく見れば、それは年老いた爺さんだった。じっと川を見つめて、微動だにしない。
「おーい、爺さんや。そんなとこでじっとしてたら、凍えちまうぞ? それとも、あんまり寒くねぇのかい?」
爺さん、顔も上げずにただ一言。
「あぁ」
「へぇ、そりゃまぁ結構なこったが……。だがな、爺さん。悪いがここは貧しい村だ。物乞いをされても、みんな自分の暮らしで精一杯なんだ。それでもそこにいるつもりか?」
「あぁ」
「そんだけかい。まぁ、それはいいとして……。まさかとは思うが、爺さん、神様ってわけじゃねぇよな?神様がそんなみすぼらしいわけねぇもんなぁ?」
「あぁ」
「なんとまぁ、簡潔なお人だねぇ。まるで、にべもないとはこのことだ。俺との話がそんなに退屈か?」
「あぁ」
「こんにゃろう、遠慮もなしか! そんな調子じゃ、誰にも好かれねぇぞ?」
「あぁ」
「……ったく、埒があかねぇな。して、爺さんは何をそんなに真剣に見とるんだい? そこに何かあんのか?」
「あぁ」
「おお、そうかいそうかい。そりゃ大変だ……って、何があんのさ?」
男は川面を覗き込んだ。だが、そこには月の光がゆらゆら揺れるばかりで、何も見えやしない。
「おいおい、爺さんよ。俺に嘘ついたのか?」
「あぁ」
「……お、おめぇ、ちょいと気持ち悪いな……。もしかして、爺さん、鬼じゃねぇのか!? 人を喰らおうとここで待ち伏せしてるんじゃねぇのか!?」
すると爺さん、ゆっくりと顔を上げた。
その瞬間、爺さんの瞳が紅く燃え上がった。にぃっと口元を歪ませると、蛇のように鋭い牙がちらりと覗く。
「あぁ」
全て肯定する男 マジンミ・ブウ @men_in_black
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