隣の部屋
stdn0316
第1話
今日は珍しく残業がなかった。
普段は深夜まで対応に追われるため、帰宅ラッシュに巻き込まれること自体が新鮮であった。
夏の東京は、日が暮れても蒸し暑い。居酒屋でビールでも飲もうかと思ったが、明日はまた残業がありそうなのと、日頃の疲れもありいつもどおりコンビニ弁当と度数が高くすぐ酔える酎ハイを買って帰った。
部屋に着き、窓を開ける。気休め程度だが開けないよりマシだ。手洗いを済ませ、着替えるよりもまず酎ハイで今日のストレスを流し込む。
我ながら着替えるくらいまで我慢できないのかと思うが、これがいいのだ。
会社が一部を借り上げたこのマンションは、オフィスからは離れているが一人暮らしには少し持て余すくらい広く快適である。しかも運良く角部屋だ。
ふと、隣の部屋から子どもの笑い声が聞こえた。続けて、両親と思しき大人が何か優しく話すのが聞こえる。
珍しく早く帰れた日には、隣室の家族の団欒の声が聞こえる。仲がいいらしく、笑い声が絶えない。
自分もいつかこんな家庭を築けるだろうか。
酎ハイを流し込む。二本目を用意する。
子どもがはしゃいでいるのだろう、ドタドタと走り回る音と、こちら側の壁に何かぶつける音が聞こえる。笑い声も。
酎ハイを飲み干す。
隣室は空室である。
隣の部屋 stdn0316 @stdn
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