巻末おまけ

 むかしむかし、あるところにひとりの天才がおりました。彼は世界中のあらゆる人から期待をあつめており、彼自身もそれを誇りに思っていたそうです。

 しかし、そんな男にも悩みがありました。

「僕が1人だけじゃあたかが知れている!」

いくら天才でも、個人は個人。人の身のサイズには抗えないのです。

 彼は考えに考えた末、あらゆる世界の己を繋ぎ合わせました。それぞれの可能性をひとりで観測し、組み合わせ、関わる世界のほとんどを本来よりも早く進化させましたとさ。

「めでたしめでたし、といきたいところだけれど、残念ながら人生はおとぎ話じゃない。都合のいいオチにアイリスアウトなんて存在しないのさ」

 彼は退屈でした。もちろん大勢の人からの名声は得られましたが、なんてったって、無限に近い人生を手に入れた上に、全部がわかってしまうのですから。

 そして悩みに悩んだ末、彼はまた、とびきりのアイデアを思いつきました。うまくいかないこともありましたが、とうとうその【想定外】は完成したのです。

「さて、僕が何をしたか、熱心な読者諸君はきっとお気づきでしょう……なんてね。もちろんわからなくても大丈夫。だってこのお話も、無数の世界のどれかひとつでしかないんだから」

『ここは……エレベーターホール、なのかな?』

遠くからぼんやりと少女の声が響いてくる。

「おや、そろそろ登場シーンのようだね。それじゃあ、行こうか」

虚空には彼の柔らかな笑い声だけが残った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

砥石・イン・ワンダーエレベーターホール 鯛谷木 @tain0tanin0ki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ