第十六話 新世界


「どうだ? 」

マリーはジルに聞く。

「奇跡か救世主か」

ジルは眼鏡を触りながら答えた。


結城が倒れた後、マリーは結城を冥界に連れていくことにした。

結城はマリーの血液を取り入れて自分の力に変え、沖谷剣により天使の天啓を受け取り融合した。

それは聖道結城がもっている聖道の古代の力が原因なのか理解できないが、それでも結城は生きていた。

マリーは無意識に冥界に連れていく決断をしていた。

そして聖道家の敷地すべてを爆発させて全ての痕跡をこの世から消した。

人間界を去る時、後方から懐かしい声がした。

「挨拶はなしかい? 」

「これまた久しいな麗華」

「変わったなアリシア」

「何も変わってないさ、世界の頂きを私は目指すことにしたのさ」

予期せぬ答えに麗華は少し驚いた。

「あの戦闘狂が世界の頂きだと? 」

マリーは振り向きもせずに笑って、

「テラさえも私の配下にしてやるさ」

そういうとマリーは姿を消した。

「なるほどねー、それはまた楽しみだ」

麗華はいいのこして平地になった元聖道家を後した。



 結城は目を覚ました。

「目を覚ましたか」

マリーの言葉が聞こえる。

見慣れない風景。まるで西洋の屋敷のような作りだ。

「記憶はあるか? 」

「あぁ、はっきりと」

と腕を見ると右腕はしっかりと反応していた。

切れたはずなのに。

右手から肘にかけて赤く透明な結晶が鱗のように張り巡らされていた。

「記憶だな。私の血と剣の能力を引き継いだおかげかお前の再生能力の高さなのかは今はわからないが生きている。

それに、人間でもあり天使でも悪魔でもあるお前はこの世界ではチート的な存在になったな」

言っている事がよく理解できていない結城。

「なんだそれは」

「それはおいおい説明してやる。

とにかく生きている事実は変わらないし今はゆっくり休め。

あと、ここは冥界だからな。当分人間界には戻らないぞ」

理解できないまま、また結城は眠りについた。


「マリー、やつを育ててやれよ」

ルージュはそう告げて、

「それにしても人間を連れてくるとは驚きだね。なんか心境の変化でもあったのか? 」

「二人に頼まれたからね。それにこの世界に興味を持ったからね」

「いい事だ。カエサルも手伝ってやれ」

急に言われて何か言いたそうな顔をして、

「承知いたしました」

と告げた。

「で、監視対象者の瑠璃屋光はどうだ? 」

マリーは起こったこと、見たことをそのまま告げた。



 その後は街はいつものように動き出した。

西園杏は目が覚めた時には聖道家が平地になっており悲しみに暮れたが結城が生きていると聞くと更なる強さに磨きをかける為に更なる鍛錬を積み重ねる決意をした。

瑠璃屋光は四季万由里とともに沖谷剣から奪った天啓により新たなる実験を今まで通りに行っている。


何事もなく時間は過ぎていく。

日常はただ過ぎていく。


これから数年後再び、

聖道結城は人間界に戻ってきて、

新たな戦争が起こることになる。


各々の日常は動いていく。

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冥界からの使者 佳乃瑠 吟 Kanoru_Gin @Kanoru_Gin

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