蛇足

多田島もとは

蛇足

「お前、夢診断やってるんだって?」


 そう話しかけてきたのは、同窓会で10年ぶりに再会した元級友の戸陰とかげだった。

 といっても学生時代に親しくした記憶はない。

 覚えているのは蜥蜴とかげが大嫌いだったことくらいか。

 よく級友に名前とかげでからかわれていたが、その腹いせか八つ当たりか、蜥蜴を見つけては踏み潰して殺していた。


 そんな戸陰が話しかけてきたのは、付き合いの浅かった元級友にではなく、夢診断士としての俺に用があるのだろう。


「まあな。何か気になる夢でも見たのか?」


「見たというか……毎晩のように夢に出るんだ。蛇が……」 


「蛇といっても色や状況で暗示する意味が違うからな。もう少し詳しく教えてくれ」


 蛇の夢は基本的には幸運の暗示だ。

 そう言ってやりたいところだったが、戸陰の暗い表情からすると毎晩のように悪夢にうなされているのだろう。


 戸陰は大きく息を吐き出すと、ゆっくりと話し始めた。

 

 「気がつくと大量の蛇に囲まれてる……青や茶色の小さな蛇がたくさん。それが一斉に襲い掛かってきて、振り払っても振り払っても手足に噛み付いてきて離してくれない……あまりの痛さに叫んだところで目が覚めるんだ……」


「大量の蛇は運気上昇、青い蛇は精神の安定、茶色の蛇は金運アップ、小さな蛇は幸運の持続。手足を噛まれるのは対人運アップや新たな出会い……話を聞く限り悪い夢ではなさそうだが」


「そうなのか? でもなあ、蛇が俺めがけてまっすぐに近づいてくるのが恐ろしくて恐ろしくてたまらないんだ」


 だと?


 どうやら、これはただの夢じゃない!


 に気づいた瞬間、全身の毛が逆立ち、背筋に冷たいものが走る。

 声が裏返りそうになるのを抑えつつ、こう伝えるのが俺が戸陰にしてやれる精一杯のアドバイスだった。


「すまんが俺の専門外だ。早めに寺に行ったほうがいいぞ」


(了)


【解説】

 蛇は長い体を左右にうねらせて前進しますから、もしまっすぐに近づいてくる生き物がいれば、それは蛇ではない何かです。

 幽霊は足が見えないものとして表現されますから、戸陰が見た生き物が幽霊だとすると、それは足がないと蛇に見える生き物です。

 そして、この解説が蛇足です。

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