八、九、十!

亜咲加奈

スペイン語しか聞こえない。

 ドアを開けると、スペイン語しか聞こえない。肉が焼ける音がする。煙が充満し、スパイスのにおいがする。テーブルの上にはビールのジョッキが並ぶ。この県北の市に住む日系ペルー人たちがテーブルを囲んでいる。おとなの男がほとんどだ。

 ここはカナシロ・バスケス・マサヤ・クラウディオの父親が経営するペルー料理屋である。

 父親が焼いた肉をマサヤは運ぶ。一八〇センチ、体形は逆三角形、しかも美形である。長い手でトレイを持ち、長い脚でテーブルとテーブルの間をすり抜ける。前髪がかかった広い額に汗がにじむ。店内は半袖一枚で動けるほど暖まっている。

 高校一年生の時、彼は自動二輪の免許を取得した。父親から入学祝いを買ってやるといわれ、迷わず四百ccのバイクと答えた。父親は約束を果たした。しかしマサヤに、店で働けと命じた。高校一年生の八月から接客業務を始め、高校二年生の二月になった今も続けている。

 家庭内ではすべて父親の意向が優先する。マサヤの兄も姉も母親も、父親に逆らわない。逆らえば拳が飛んでくる。ケンカが強かった兄でさえよけられず倒れるほどの威力で。末っ子のマサヤは自分を守るため、父親の前では口を閉ざすようになった。

(くだらねえ)

 家庭内の空気をマサヤはそう断ずる。しかし、マサヤ自身の胸の奥底には、常にこの思いがよどんでいた。

(どうせペルーに帰るんだから)

 マサヤが商業高校を卒業すれば、一家全員で母国ペルーに帰って飲食店を開く。そのための資金を日本で稼ぐ。それがマサヤの父親の考えである。実際、父親の貯金は増えている。この店は日本人にも人気があり、ランチタイムはほぼ日本人で満席だ。

 マサヤに市内にある商業高校への進学を命じたのも父親だ。ほんとうならマサヤの兄に店の経理を任せるつもりでいたのだが、不良少年だった兄が二年で市内の商業高校を中退したからである。その代わりがマサヤというわけだ。姉は市内の実業高校を卒業し、父親の飲食店で働いている。

 どうせペルーに帰るんだから。

 ガイジンと笑われた時、外国籍より日本人が多いクラスで気づいたら孤立していた時、日本人たちに上履きを隠され教科書を破られたことをクラス担任が気づきもしなかった時、いつもその言葉を胸の内で唱えて我慢した。

 父親の意向で保育園年長から小学校六年生までキックボクシングジムに通った。ジムで学んだ技をケンカで使ったのは、高校一年生の夏休み前だ。自分に向かって、ガイジン、と口にした同級生に右の膝蹴りを何発も叩き込んだのである。それをたまたま目にした二年生の不良少年たちに誘われ、商業高校の不良少年グループに入った。

 他校の生徒とのケンカだけが、それまでためこんできた怒りや憎しみを発散できる機会だった。勝ち続けることで上級生から一目置かれ、自分の居場所を得たという実感がわいた。そして、学校にいる日系ペルー人を始めとする外国籍の不良少年たちは、マサヤと同じ思いをしてきた者が多い。マサヤなら日本人に一矢報いてくれると思っているのだ。彼らは自然とマサヤにしたがい、マサヤは彼らの中心となった。

 ちょうど三年生の不良少年たちが卒業する直前で、新たな「頭」を決める時期が来ていた。マサヤのグループと対立するのは日本人ばかりのグループで、まとめているのは加部昂太という二年生だ。小学一年生から中学三年生までフルコンタクト空手を習っていて、大会での優勝経験もある。マサヤと同様、ケンカで負けたことがない。マサヤと違うのは、集団に入った時のふるまい方だけだ。媚びないマサヤに対して、昂太は相手が喜びそうなことをすらすらと並べ立てる。同級生や下級生を手足のように使い、周囲にいる人間たちの情報を集めさせているのだ。

 上級生は明らかに昂太に肩入れしていた。だから他校とのケンカに駆り出されるのは常にマサヤだった。昂太が派遣されるのは、ここ一番という時だけだ。

(俺は昂太とは違う。今回も必ず勝ってやる)

 マサヤはそう念じて殴り合いに挑む。そして勝つ。しかし相手は格下ばかりだ。二分もしないうちに勝負がつき、相手が抵抗をやめる。粘る者もいるが、三分以内でマサヤに倒される。

(面白くねえ)

 もっと戦いたい。殴り足りない。積もり積もった怒りや憎しみやあきらめをパンチやキックにこめているのに。弱いヤツ相手では受け止めきれない。だから自分の百パーセントをぶつけられる相手が欲しい。受け止めてくれる相手が欲しい。もっと怒りや憎しみやあきらめを吐き出させてくれる相手が。

(昂太には絶対、負けたくねえ)

 今のままでは、昂太が商業高校の不良少年たちの頂点に据えられる。それだけは許せなかった。確かに昂太の突きと蹴りは確実に相手を倒す。その実力は認める。しかしあいつは先輩どもに媚びて居場所を作ったのだ。俺みたいに実力で仲間の中心になったわけじゃねえ。そんなヤツにだけは絶対に負けたくねえ。ろくに戦ってねえあいつに、商業の「頭」を張れるわけがねえ。

 壁にかけた丸い時計の針が午後十時二十五分を指した。ラストオーダーまであと五分だ。

 いきなりドアが外側から開いた。

 マサヤが近づく。ラストオーダーの時間を告げなければならない。

 しかしドアを開けた男を見て、マサヤは目をみひらいた。日系ペルー人の同級生、しかも不良少年仲間のフェリペだったからだ。

「昂太がやりやがった」

 鼻血がこびりついた顔をマサヤに向け、フェリペはスペイン語で告げた。その後ろには同じく日系ペルー人の仲間たちが立ち尽くしている。皆、何も言わない。下を向き、両手を力なく、だらりと下げている。フェリペも彼らも泥だらけだ。服の一部が破れた者もいる。

 厨房から出てきた兄がマサヤの背中を押し出した。

「外で話せ。あとはやっとくから」

「わりい」

 スペイン語でやりとりしたあと、マサヤはお仕着せのエプロンをはずして兄に手渡し、店から出てドアを閉めた。半袖Tシャツで接客していたマサヤのむき出しの両腕を冷たい空気が一斉に刺す。

「俺らの仲間になれっていわれたから、断った。そしたらボコボコにされた」

 言って、フェリペが震えた。

「しかも裸にされて、写真、撮られた」

 マサヤは息をのむ。俺も、俺も、と、フェリペの後ろから次々と声が上がった。

「裸になって、からまされた。動画も撮られた」

「仲間にならねえと、写真と動画、ネットにあげるぞって」

「なぜか俺らの家族や親戚のことも知ってた。そいつらのところにも行くっていってた」

 聞いて、マサヤは心臓のあたりに怒りがふくらむのを覚えた。

「昂太がいったのか。あいつはその場にいたのか」

 いた、と、仲間たちがうなずく。

 決着をつける時が来た。マサヤは直感した。ここ数日のうちに、片をつける必要がある。三年生は明日から家庭学習期間に入り、二月末日の卒業式の予行まで登校しない。校内で昂太の肩を持つ三年生がいないこの時に、決着をつける。三年生がいない学校で、勝負を挑む。

「どうする、マサヤ」

 フェリペが涙をこらえて問う。

「決まってる」

 マサヤは、見えない昂太に向かって、いった。

「タイマンだ。俺がやる」

 冷たい空気の中、マサヤは怒りに燃えた。


 しかしマサヤはすぐに行動を起こさなかった。不本意だったが、勝つために、昂太の真似をした。昂太や、昂太の仲間たちの交友関係を、仲間たちに調べさせたのだ。

 夕菜という中学三年生の女子生徒。昂太の交際相手だ。マサヤが住む市の隣にある大きな町に住んでいる。

(その女を押さえる。寝取ってやる)

 マサヤは性行為をする女子生徒を常に七、八人はべらせている。恋愛感情はもたない。熱をあげているのは女子生徒の方だけだ。

 彼女が通う中学校まで、四百ccのバイクを走らせた。彼女の写真は仲間たちからスマホに送らせてある。

 午後五時三十分に、中学校の前に着いた。部活動を終えた生徒たちが自転車で校門から走り出る。

 マサヤはバイクを中学校の向かいにある町民体育館の駐車場に停め、予備のヘルメットを持ち、校門前で彼女を待つ。

 果たして、夕菜とおぼしき少女が現れた。徒歩だ。マサヤは彼女につかつかと近づいた。

「だれ」

 夕菜は身長一四八センチ、大きくて丸い胸と尻が学校指定の運動着を着ていても目立つ。顔は十人並みだ。

「加部昂太の女か」

「もう、ちがうよ」

「は?」

 思わず大きな声を出したマサヤに、夕菜は顔色ひとつ変えずに答えた。

「きのう、捨てられた」

 なんだよ。それじゃあ、この女を待った意味がなくなるじゃねえか。

 絶句するマサヤをちらりと見て、夕菜は歩き出した。引っ込みがつかなくなり、マサヤは夕菜を呼び止める。

「おい、待て」

 夕菜が顔だけ振り返った。

「まだ何か用?」

「なんで昂太はおまえを捨てたんだ」

 マサヤに夕菜は体ごと向き直る。

「答えてほしい?」

「おう」

「じゃあ、ごはん食べさせて」

 マサヤは今日二回目の「は?」を口にした。

 夕菜はにんまりと笑った。

「うちさ、父子家庭なんだよ。パパと姉ちゃんは今日も夜勤。パパ、いつもお金置いといてくれるんだけど、今日はなくって。だから、食べさせてくれるんなら、話してあげてもいいよ」

 マサヤは学ランのポケットから長財布を取り出し、中身を確認した。夕菜がどのくらい食べるのかわからないが、二人分ならなんとか支払えそうだ。マサヤは予備のヘルメットを夕菜の前に突き出した。

「食わせてやる。ついてこい」

「話が早いね」

 してやったりと笑う夕菜を乗せ、マサヤはバイクで国道に出た。国道沿いにはフランチャイズチェーンの飲食店やスーパーが並んでいる。どんぶりものを提供する一番安価な飲食店に入り、カウンターに並んで座った。二人で牛丼の大盛を注文し、届いたとたん食い始める。

「あたし、知ってたよ。あなた、マサヤでしょ」

 マサヤはかきこんでいたどんぶりを卓上に置いた。

 夕菜は箸を止めずに話を続ける。

「昂太がいつも話してた。マサヤっていう、どうしてもやっつけなきゃいけないヤツがいるんだって。このあいだタイマンして勝ったけど、ほんとにギリギリの勝負だったって」

(よけいなこと、いいやがって)

 マサヤは大きく舌打ちする。

 昂太とのタイマンは、二週間前の放課後だった。学校の敷地内に、生徒が合宿で使う宿泊棟がある。その裏手にある小さな空き地が勝負の場となった。三年生たちが昂太とマサヤの実力をみるためにやらせたのだ。

 制限時間は二分。三年生が「やれ」といった瞬間、昂太とマサヤは互いの顔に拳をぶちこんだ。直後に飛びすさり、距離をとる。昂太は両手を下げてにやにや笑う。打ってこいというのだ。マサヤは昂太の右太ももを鋭く蹴った。昂太の顔が痛みにゆがむ。しかしすぐに昂太の左中段蹴りがマサヤの腹にめり込んだ。

(いてえ!)

 痛い。息ができない。マサヤは腹を押さえてうずくまる。

 昂太がマサヤの肩を蹴飛ばした。あおむけに転がったマサヤの腹に、昂太は右下段突きを打つ。マサヤはうめいた。

(いてえ、動けねえ)

「あと十秒だぞ」

 三年生の一人がいった。取り囲む三年生たちが声をあげる。

「一、二、三」

 マサヤは起き上がり、昂太の右頬に左ストレートをぶちこんだ。昂太がのけぞる。

「四、五」

 昂太の腹にマサヤは右ミドルキックを叩きつける。しかし昂太は左足を上げてガードした。

(まずい)

 マサヤは次の攻撃に備える。

「六、七」

 昂太が右上段突きをマサヤの左頬に打った。マサヤは左手でガードする。

(今度こそ!)

 マサヤは右ミドルキックで昂太の左わき腹をえぐった。昂太が目をむき出す。

 痛がってる、やった! そう思ってさらに攻撃しようとした、その時だった。

「八、九、十!」

 昂太の左の裏拳が襲ってきた。その一撃はマサヤを転がした。

 広場に倒れたマサヤを見下ろし、昂太は嫌な笑いを浮かべた。

「負け犬のガイジンが」

 起き上がりたいが、体が動かない。それきり意識が飛んだ。

 気がついた時には、誰もいなかった。夕暮れが空いっぱいに広がるだけだった。

 負けたのか。俺は、負けたのか。俺は昂太に負けたのか。

 マサヤは叫んだ。言葉にならなかった。よりによってあの昂太に、裏拳で倒された。その事実が体の痛みをさらに増した。

「おーい」

 のんびりした夕菜の声でマサヤは我に返った。夕菜が小さな手をマサヤの顔の前でひらひら動かしている。

「だいじょうぶー?」

 あわててマサヤは残りの牛丼をかきこんだ。

「おい、チビデブ」

「確かにあたしはチビだけど、デブじゃないと思う」

「なんで捨てられた」

「はじめて年下とつきあったけど、やっぱ合わないって」

「あいつ、年上から甘やかされたいタイプだからな」

「マサヤもそんな感じがする」

「うるせえ。勝手に決めるな」

「おーよしよし」

 夕菜がマサヤの頭をなでる。

「くやしかったんだねえ、昂太に負けて。でも昂太だって、あぶなかった、マサヤに負けてたかもっていってたよ」

 もし、夕菜以外の女から同じことをされていたら、コップの麦茶をその女の顔にぶちまけていただろう。しかしマサヤにとって夕菜のふるまいは憎めないし、許せるものだった。昂太に負けたくやしさを受け止めてもらったと思えたからだ。

「出すぎた真似をするんじゃねえ、チビデブ。はじめて会ったくせに」

「あたしがチビデブなら、あんたはツンデレだね。やい、ツンデレ。顔が真っ赤だぞ」

「うるせえ」

 いいながら、マサヤは嫌な気はしていない。

「あたし、男を見る目は確かなんだよね」

「嘘つけ。昂太にひっかかったくせに」

「だって、声かけてきたのはあっちだもん。それに、捨てられるまではうまくいってたもん」

 歯を見せて夕菜は笑った。マサヤはそっぽを向く。

「腹いっぱいになったか」

「明日の朝ごはんも欲しいなあ。うち、食べるものないんだよね」

 マサヤは会計を済ませると、夕菜を乗せて国道沿いにあるスーパーに寄った。夕菜が三十パーセント値引きのシールを貼られたのり弁当と、同じく半額シールを貼られたペットボトルの緑茶を一つずつかごに入れ、マサヤを真面目な顔で見上げる。

「買ってくれる?」

 夕菜がかごに入れた商品の値段を暗算し、マサヤは答えた。

「それだけなら買ってやる」

「じゃ、これでお会計お願いします」

 頭を下げる夕菜と一緒にレジへ行き、現金で支払った。家まで送ると、夕菜はまた真面目な顔でいった。

「ありがと。今度はあたしがおごるね」

「おまえ、牛丼代、払えるのか」

「今度はパパから食費もらえるはずだから、貯金しとく」

 マサヤの心が動いた。夕菜はフリーだ。性行為の相手としてではなくても、また会いたい。

「連絡先教えろ」

「あんたの女になれってこと」 

「暇つぶしにかまってやるからありがたく思え」

 夕菜が笑う。

「じゃああたしがデレさせてあげるから、ありがたく思ってね」

 連絡先を交換したあと、夕菜が昂太のSNSの画面をマサヤに見せた。シャドーボクシングを撮影した動画が再生される。コメントには「必ず倒す」と記されている。

「マサヤのこと、いってるのじゃない」

「なんで俺にこれを見せる」

 マサヤの目を見て夕菜はいった。

「おごってくれたお礼。昂太からタイマンしようっていわれても、いつでもできるように」

「おまえの男だったんだろ」

「ほんとはね」

 夕菜が顔をそむけた。

「あたしさ、おなかに手術痕あるんだ。ちっちゃい時に何度もしたから。昂太はそれ、キモいっていった。いつもする時、隠してたんだけど、見られちゃって。もう、おまえとは、しないって」

 語尾が詰まる。マサヤは夕菜を左腕で抱き寄せた。

「もう一度再生してくれ」

 夕菜が顔をそむけたまま差し出したスマホで、昂太の動きをマサヤは注意深く観察した。明らかに自分と戦うことを想定して練習している。

 決着をつけるのは、早い方がいい。

 マサヤは腹を決めた。

「おまえのぶんまで殴ってきてやる」

 夕菜が見上げる。泣いていた。

「俺もいわれた。負け犬のガイジンって」

 小さな体を押しつけ、夕菜は声を殺してさらに泣く。

 マサヤは夕菜を両腕で抱きしめた。


 夕菜と牛丼を食った翌日、マサヤは昂太を呼び出した。

 宿泊棟裏の空き地。マサヤの後ろには外国籍の不良少年たちが居並ぶ。昂太の後ろにいる不良少年たちのほとんどは日本人だ。

 昂太がポケットに両手を入れ、一歩前に出る。

「勝負はもうついてるだろ、負け犬のガイジン」

 マサヤも一歩前に出て、上目づかいでにらみつける。

「今度勝つのは、俺だ」

 昂太の両目が鋭くなる。

「今度は一分でぶちのめしてやる」

 マサヤは笑った。夕菜が見せてくれた昂太の動画で、昂太が何をしてくるかはだいたい予想ができている。

「十秒でいい」

「いったな」

 空気が張り詰める。

「十数えろ。俺たちの言葉で」

 マサヤの合図で外国籍の不良少年たちが声をそろえる。日系ペルー人が多いので、スペイン語だ。

「一(ウノ)、二(ドス)、三(トレス)」

 昂太の左上段突きを手のひらではじき、昂太の左にすばやく移動する。昂太が驚く。

(なんだこれ。読まれてんのか?)

 マサヤは昂太に笑う。

(そうだよ。てめえの動きは読めてんだよ)

「四(クアトロ)、五(シンコ)」

 左ミドルキックをみぞおちに叩きつける。昂太が、がはっと息を吐き出す。

「六(セイス)、七(シエテ)」

 マサヤが体を回転させた。

「八(オチョ)、九(ヌエベ)、十(ディエス)!」

 右のバックブローが昂太の右のこめかみを強打した。

 昂太の顔が空に向く。そのままあおむけに倒れる。仲間が昂太の体を受け止める。

 マサヤに仲間たちが駆け寄る。

 昂太が上体を起こした。目がうつろだ。自分の身に何が起きたのか理解が追いついていないようである。

 マサヤは昂太を見下ろし、いった。

「商業の『頭』は、俺が張る。いいな」

 ようやくなりゆきを理解したのか、昂太がうなだれる。

 マサヤは声を張り上げた。

「今日から俺が『頭』だ」

 歓声があがった。スペイン語で。宿泊棟の裏の広場は、スペイン語しか聞こえない。

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八、九、十! 亜咲加奈 @zhulushu0318

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