駆けろ赤兎
船越麻央
赤兎馬!
「頼むぞ、赤兎!」
俺は心の中で叫んだ。
赤兎馬。赤い毛色を持ち、兎のように素早い馬。
俺は今その馬上にいる。
我が君からお借りした、大切な名馬だ。
俺の懐には我が君からお預かりした大事な書状がある。
国境の城を守る太守様と、その配下の将軍たちへの”命令”が記されている。
その”命令”の内容は俺も知らない。
だが俺の任務はただ一つ。書状を必ず届けること。
我が君は一日千里を走るという名馬を俺にお貸しくださった。
赤兎馬である。
俺に乗りこなせるかどうか不安だったが、杞憂だった。
俺はご期待に応えるべく、国境の城を目指している。
一刻も早く書状を届けなければならぬ。
俺は都から十日間、不眠不休で赤兎馬を走らせた。
さすがは名馬である。並みの馬とは違う。
まるで羽が生えているようだ。
今日このまま駆ければ、日が落ちるまでには城にたどり着く。
最後の峠にさしかかった。
その時……。
何かが俺めがけて飛来するのがわかった。
シュッ、シュッ、シュッと耳元をかすめる。
矢だ! 俺を狙っている!
しまった、待ち伏せだ!
敵か! 敵国の軍師の顔が頭に浮かんだ。
いや、まさか味方の裏切りか!
今はそれどころじゃない。何としてもこの峠を越えるのだ。
あと少しで平地に出る……。
だが、ついに俺の左肩に激痛が走った。
(くそっ!)
矢が刺さったようだ。ふん、何のこれしき。
(赤兎、もう少しだ。力を貸してくれ)
駆けに駆けてようやく安全な平地に出た。
俺は心から赤兎に感謝した。この馬でなければ逃げ切れなかっただろう。
そして、ようやく目的地の城門が見えてきた。
城壁には我が国の旗がはためいている。
間に合った……俺は安心すると同時に目が霞んできた。
身体もしびれてきた。
(そうか……毒矢……だったのか……)
霞む目に城門が開くのが見えた。
俺は懐の書状に手をやった。
(我が君……ありがとうございました……赤兎を……赤兎をお褒めください……ご書状、たしかに……)
俺の名は忘れ去られることだろう。
だが、赤兎馬の名は残るはずだ。
いや、残らねばならぬ。
俺は意識が遠のいていくのがわかった……。
了
駆けろ赤兎 船越麻央 @funakoshimao
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